Dreaming

World End #8



ウォール・マリア奪還作戦から半年がたった頃、ようやく調査兵団は巨人の捕獲に乗り出した。
しかし、ウォール・マリア陥落から時間が経っていない事もあり、それに割く要員が少なく、捕獲作戦にあたるのは15名という少数精鋭だ。


が前方の巨人を1人で引き受けるって、大丈夫なのか?」


作戦としては、、リヴァイ、ミケを中心に周囲の巨人を排除し、小太郎とハンジが捕獲を行う。
リヴァイとミケには数名が付き、後方の排除に当たるが、については1人で行う陣形になっている。


「巨人を殺すだけだったら、私1人の方がやりやすいんだ。かえって人が近くにいる方が巻き添え食らうだろうし。」


作戦の説明をしていたエルヴィンはこほん、と咳払いをした。質問をしたミケは「悪い」と言い、作戦の続きを説明するように促す。


「巨人の捕獲方法だが、コタローが捕獲対象の巨人の間接や筋を攻撃し、動けなくなったところをハンジ班が拘束する。これはコタローが人間の体の構造をよく理解し、また、彼の持つ飛び道具を使うのが最も効率的という結論に至ったためだ。拘束の仕方だが・・」


視線を小太郎に向けると、彼は頷いて立ち上がり、ボードにチョークを走らせた。
かつかつとチョークが当たる音が響き、見守っていると巨人の全身がボードに描かれる。


「己が、ここ、同時に切る。」


そう言いながら巨人の間接といくつかの筋がある部分にバツをつけていく。


「14秒、動きが止まる。その間に、拘束する。」
「拘束方法は、このワイヤーを使う。コタローが攻撃した場所に向けてワイヤーを10本ずつ埋め込み、その後身体を縛る。それは最後にコタローが実施する。」


それを14秒でやる必要があるということだ。ハンジは難しい顔をしてじっとボードを見つめた。


「そもそも、彼は同時にそのしるしを付けた場所を攻撃する事が本当に出来るんですか?」


不安そうに団員の1人が尋ねる。エルヴィンは小太郎に視線を向け、頷くと、小太郎は印を組んだ。
すると現れたのはもう1人の小太郎。一同から歓声があがる。


「分身の術、と言うらしい。作戦時は10人に分身し、攻撃を行う。」
「14秒奴らの動きが止まる、と言うのは、確かでしょうか。」


この作戦を不安に思うのも仕方が無い。何せ、作戦に当たるのは15人だけだ。


「先週、10体の巨人に試してもらった。結果、長いもので39秒、早いもので21秒という結果だった。この結果から、最低でも14秒は動きが止まる、と判断した。」


その後もいくつか質疑応答が成されたが、説明した通り作戦を結構することで落ち着いた。
決行日は1週間後。






























ロンはハンジの研究室に荷物を運び込むと、上司であるハンジと金髪の少年がなにやら興奮した様子であれやこれやと言い合っているのを見て、首を傾げた。
その近くにはリヴァイとも居る。
此処最近、たまに見られる光景だ。


「なぁ、あの金髪の子、最近良く居るけど、何者なんだ?」


近くの同僚に声を掛けると、彼は、あぁ、と呟いてアポロを見た。


「分隊長も顔負けの巨人フリークさ。あの2人の話にゃ付いていけないね。若いのに凄いよ。全く。」


そういわれて、ロンは2人の会話に耳を傾けた。


「一体解剖しようぜ!なぁなぁ、良いだろ?あいつらすっげー高温なんだろ?なのに普通に生きててあんな早く動けるっつーことは骨細胞とか筋細胞とか人間と違うんだろうなぁ。どんな形してんのかなぁ・・・。消化器官ねぇんなら、その場所には何があんだろ?あぁぁぁぁすっげー解剖してー!!!!!!」
「解剖!?だめだめだめ!折角捕まえた巨人を解剖だなんて!!」


それにアポロは顔を顰めると、を振り返った。


「なぁ、。巨人3匹捕まえろよ。1匹解剖してやるからさ!」
「アポロ。一応ハンジが巨人の研究の指揮を執ってるんだから、それに従わないと。」


アポロはに言っても無駄という事が分かると、今度はリヴァイを標的にした。
ぴょんと飛び上がり、リヴァイにしがみつく。


「なぁなぁなぁ!リヴァイ!解剖したいだろ?俺はしたい!」
「うるせぇ。くっつくな、クソ餓鬼。」


べり、と引き剥がして、床に投げ捨てると、アポロは哀しそうに泣きまねを始めた。


「そもそも巨人の身体は切り離すと気化する。解剖は無理だろ。」


追い討ちをかけるようにリヴァイが言うと、アポロはがっくりとうな垂れた。
一連の会話を聞いていたロンは、可愛らしくて乳臭い子ども、という認識を改めた。


(分隊長以上のキチガイだ・・・)


小さいのに、どうやったらあんな思考回路になるんだろうか。自分に子どもが出来たら気をつけなければ。と心に決めて、ロンは書類にペンを走らせ始めた。






















巨人は複数で行動する。
先陣切って馬を走らせるは向かってくる巨人をワイヤーで切り刻みながら進む。
難点が一点あるとすれば、建物も一緒に刻んでしまうところだろうか。
しかし、落ちてくる建物の端については上手く小太郎が風を使ってフォローし、道を開ける。

捕獲場所については、立体機動に移れる森の辺りとだけ決めている。
円を広げて森周辺を探ると、丁度5体程巨人が集まっているのを確認できた。


「小太郎、森の西側に巨人が5体いる。一体残して殺しとくから捕獲に移ってね。その後は平地から来る巨人は引き受ける。」


耳が極端に良い小太郎はそれを聞き取り、隣を走るエルヴィンに伝えた。エルヴィンが頷くのを確認して印を組むと1体分身が現れ、に向かって走り出す。


「間もなく捕獲作戦に移る!気を抜くなよ!」


エルヴィンが声を張り上げ、周囲を走る団員に伝えると、一同の纏う空気に緊張が走った。
そして前方で閃光弾が上がった。が巨人と接触したのだ。
リヴァイとミケは速度を落としながら立体機動に移り、先ほどの閃光弾を中心に半円を描くように散る。


「お前ら、巨人を一匹も後ろに通すなよ。」


北西を担当するのはリヴァイ含め4名。一応経験のあるものを集めたが、巨人を通してしまえば作戦は失敗する。
硬質スチールを抜いたリヴァイは早速近寄ってきた一体に目を向けた。


一方は遭遇した5体の巨人のうち、4体を殺し、1体の足を切り落とすとそのまま森を抜けた。
前方については平原が広がり、ワイヤーで巨人を一網打尽にするのは打ってつけの状況だ。
視界に入る邪魔な木をワイヤーで切り倒し、念のため自分を中心にして円を広げる。
円にリヴァイやミケまで入ったところで広げるのをやめたが、予想以上に円が広範囲になってしまった。


(ま、作戦完了まで10分くらいだろうし、大丈夫でしょ。)


向かってくる巨人に向けてワイヤーを放ち、手で操るとばらばらと巨人の体が切り刻まれ、蒸気を上げながら地面に転がる。
思った以上に退屈な作業だ。


「気ぃ抜くなって!大事なサンプルを捕獲できる貴重な機会なんだからな!」
「あれ、アポロ。てっきりハンジと一緒にいるものと思ってたのに。」


アポロはの影から這い出るとの後ろに座った。


「小太郎が上手くやってるみてぇだし、だからってリヴァイたちの所に行ったら危ねぇだろ?」
「怪我もしなけりゃ痛覚も無いくせに良く言うよ。」


呆れたように言いながらもまた2体の巨人を切り刻む。
後方から青い閃光弾が上がったのはすぐだった。
予想以上に早いそれに、は馬を小太郎たちの元へ走らせる。


「早かったね。」
「あぁ、コタローのお陰だ。」


たどり着くと、縛られた巨人が荷台に固定されている。


「出来ればもう一体欲しかったが、今回の成果としては上出来だ。退却する!」


後ろを見るとアポロがきらきらとした目で巨人を見つめている。
元は自分と同じはずなのに、どうしてこうなった。はため息をつきながらも馬を走らせて最前線に出ると、帰路の確保に移った。


先ほどとは違い、リヴァイの班と合流して壁に向かって道を開く為、ワイヤーは使えない。
鎌を出したは1体の巨人の項を切り落として着地すると、もう一体の巨人が1人の兵に手を伸ばしているのを見つけた。
森は抜けてしまったため、ここは彼らが戦うには不利な平地だ。


「っ!」


到着した時には、大きく開いた巨人の口の中に入る直前で、は飛び上がると、自分から巨人の口に入り、しっかりと兵の身体を抱えると内部から鎌を振りかざして外へ飛び出した。


「うわぁ、汚い・・・」


ねっとりと身体についた巨人の唾液と血液に顔を顰めながらも、仲間を担ぎ、止めを刺す。


「1人で突っ走ってんじゃねぇぞ、。」


自分も1体巨人を片付けたリヴァイがの隣に降り立ち、頭をごつんと叩く。
勿論、彼女の頭には巨人の唾液が付いており、リヴァイはしまった、と頬を引きつらせる。


「汚ぇ・・」


そして自分の手についた巨人の唾液に、悪態を付き、ごしごしとハンカチで手を拭き始めた。
何故殴られた上に汚いなどと罵られなければいけないのか。


「ちょっとちょっと!人の頭を殴っておいて汚いって!」


噛み付くように言うと、リヴァイはそ知らぬ顔をして自分の馬を呼び寄せて飛び乗った。


「行くぞ」


を乗せる気は無いらしい。そのまま走り出すリヴァイを追って、も男を抱えたまま走り出した。
















たった15名で巨人を捕獲したという話は瞬く間に壁内に広がり、調査兵団は今までとは打って変わり持て囃された。
支援金が少し増えた以外ありがたみも何も無い為、調査兵団内部の実情としては今までとはそう変わらない。調査兵団の志願兵も増えた訳では無かった。


ベッドで横になり、天井を見つめる。今日から巨人の実験が始まるため、アポロとその目付け役の小太郎はハンジのところへ行っていて居ない。


「入るぞ」


部屋に入ってきたのはリヴァイで、はベッドに横になったままちらりと彼を見る。


「お前が助けた奴、目が覚めたぜ。礼を言ってた。」
「そっか。良かった良かった。」


巨人の手に掴まれた為、無傷とは行かなかったが、命までは取られなかった彼は運が良い。
リヴァイは無言でに近づくと、左腕を掴みあげた。


「いだだだだ!」
「・・やっぱ折れてたのか。」


ぱ、と手を離すと、は涙目になりながらも左腕をさすった。
小太郎にも気付かれなかったのに、どこでばれのだろうか。


「手当てぐらいしておけ。馬鹿が。」
「手当てしなくたって1日あれば治るもん!」


ふん、と顔を背けるとがしりと片手で顎をつかまれ、親指と中指で頬を挟まれる。


「あぁ?」
「しゅいましぇんでひた」(すいませんでした)


満足したのか、リヴァイは鼻を鳴らして、手を離すとも立つように視線で促す。


「手当てが終わったら、クソメガネの所だ。最初は何があるか分からねぇからな。」
「そーだね。行くよ。私も興味あるし。」


靴を履いたは立ち上がった。相変わらず短パンにシャツという軽装だが、最早彼女の服装を咎める人は居ない。
ため息をつきながらもリヴァイはを連れ立って部屋を出た。


!」


リヴァイと共にハンジの元へ向かっていると、後ろから声を掛けられて、は振り返った。


「ん?」


誰だ。確かに見覚えがある。


「捕獲作戦、先陣切ったの君らしいね。おめでとう。」


あぁ、99期の同期だ。名前は確か・・・


「誰だ、お前は。」


名前を思い出そうとしていると、隣のリヴァイが名を尋ねて、内心ほっと胸を撫で下ろした。


「第99期調査兵、ナナバです。」


リヴァイが背を向けていた為彼に気付いていなかったのか、顔だけ少し振り向かせて尋ねたリヴァイにナナバは少しぎょっとした後、敬礼をしながら答えた。


の同期か。」
「うん。訓練の時何度か組んだ気がする。ね?」


未だ緊張した面持ちのナナバは頷いてリヴァイを見下ろした。
リヴァイと言えば、最強の兵士。それに憧れを抱く兵士は少なくない。
ナナバもその例に漏れず、まさかこうも早くリヴァイと話せるとは思わなかったのか、嬉しそうにしている。


「そうか。」


たいして興味も無いのか、リヴァイは背を向けて歩き出してしまった。


「ごめん。また今度ね。」
「あぁ、うん。」


笑って見送るナナバにも笑い返してリヴァイを追う。
すぐに追いつくと、また横を歩き始めながら口を開いた。


「そういえば巨人、もう一体捕獲するってほんと?」
「あぁ、今回のことで大した損害も無く捕獲できることが分かったからな。2週間後、だったか。」


こうも続けて壁外へ向かうのは珍しい。


「じゃぁそれまでのんびり出来るね。」
「馬鹿言え。お前は報告書の作成だ。今回の捕獲作戦の詳細を文書化して残しとくように言われてる。」


報告書。その三文字に、はへらへらした表情を一変させて、悲壮感漂う表情を見せた。


「そんなのエルヴィンとリヴァイで書けば良いじゃん!」
「そんなに暇じゃねぇんだよ。それに、今回の作戦はお前とコタローでやったようなもんだしな。」


褒められてるのか、押し付けるために言っているのか。とにかく、報告書を書くことは決定事項になっているようで、はがっくりとうな垂れた。


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2013.7.30 執筆