Dreaming

World End #7



逃げ惑うを人々が道にあふれている。
その中に駐屯兵団が何名か居るのを見て、は眉を寄せた。
屋根を走る足は止めずに既に入り込んできている巨人を探す。


「エレンとミカサ・・?」


巨人はすぐに見つかりそちらへ向かっていると、そのすぐ正面にいる3人の人影。
その内の二つは良く知る物で、は建物の壁を蹴りつけると、3人に迫る巨人の顎を蹴り上げた。
頭が吹っ飛び、空高く舞う。すぐに鎌を出して項を切り取ると、3人の傍に着地した。


「あ、アンタは・・?」
「終了式を終えたばかりの訓練兵だよ。小太郎、3人を避難させて。」


周りにいた巨人を倒し終えた小太郎がの隣に現れ、エレンとミカサを右手で、ハンネス左手で抱えた。


「あ、もしリヴァイに会ったら小太郎はあの人の指示に従って。じゃね。」
さん!」


ハーフパンツにシャツという軽装で走り始めたを止めようと声を掛けるが、小太郎も走り始める。
その腕の中にいるエレンは小太郎を勢い良く見上げた。


「あんな何の装備も無く行ったらさんまで・・!何考えてるんだよ、コタローさん!」
「エレン。」


しかし、エレンに声をかけたのはミカサだった。


「大丈夫。さんは強い。私達よりも、ずっと。」


エレンは急速に遠ざかるの姿を無言で見つめた。





























既に白かったシャツは巨人の血で赤黒く変色している。
頬を滑り落ちた汗を手の甲で拭い、は飛び上がる。


「あぁ、もう!さっさと避難させろってーの!」


悪態をつきながらまた一匹項を切り取り、人が居ない方向に巨人を蹴り飛ばす。
念で創り上げたワイヤーを使えば、巨人を一掃するのは楽だが、近くには未だ逃げ惑う住民とそれを避難させようと動く兵士が数多く居る。
ばらばらに切り刻んでそれが住民や兵士に当たれば、それどころか飛び込んできた兵士を一緒にワイヤーで切り刻んでしまったら本末転倒だ。


「ちょっと!さっさと避難させてよ!何やってんの、よ!」


住民を後ろに、巨人の一撃を受けそうになっていた駐屯兵の前に回り込むと、その巨人の腕を肘から切り捨てる。


「ほら!早く行った行った!」


兵は驚いて一瞬固まる。それもそうだろう。前述したとおりの服装はシャツに短パン。しかも持っているのは硬質スチールではなく大きな鎌だ。
しかし、激を飛ばすと、兵は慌てて住民を引きずって走り始めた。


!撤退だ!戻れ!」


後ろから叫ばれたのは聞き覚えのある声。振り向くとリヴァイと小太郎がこちらへ向かっている。


「はぁ?まだ避難完了してないでしょ?何で!」
「俺が知るか。」


納得できないは別の巨人に向かって飛びかかろうとするが、その手をリヴァイに引っつかまれて壁に叩きつけられる。


「お前が戦ったところで巨人は今も入って来ているしウォール・シーナへ続く門もじきに閉じられる。無駄だ。」


リヴァイは立ち上がろうとするを屋根の上に引っ張り上げると腹に拳を入れた。


「コタロー」


近づいてきていた巨人を相手にしていた小太郎は、声を掛けられると、数匹の巨人の項を一気にそぎ落とし、リヴァイの元へ向かう。


「行くぞ。」


を投げて寄越すと、リヴァイはアンカーを壁に突き刺した。























その後、陥落したウォール・マリアは最早人が再度住めるような状態では無かった。
ウォール・マリア内の広範囲に侵入した巨人が我が物顔で闊歩し、ウォール・シーナは急激に増えた人口により環境が劣悪化。
そんな時だった。ウォール・マリアの奪還作戦の話が持ち上がったのは。


「調査兵団無しで奪還作戦だと・・?どういうつもりだ。」


エルヴィンはリヴァイの言葉に、視線を床に向けた。
精鋭が集まる調査兵団無しに作戦を実行するということは、作戦を成功させる気が無い、ということだ。


「・・・上の決定だ。」


そう呟きながらエルヴィンは手を握り締める。ぐ、と詰めが手のひらにめり込み、血が染み始めていた。


「クソが・・」


この決定は覆らないだろう。現状、穴を塞ぐことは不可能な上、既にマリア内の巨人は凄まじい数に増えている。
行き場の無い、元マリアの住人を養うのは、土地が減った今、無理だ。

リヴァイは壁を蹴りつけると、部屋を足音荒く出て行こうとした。


「リヴァイ」


それを引き止めたのは他ならぬエルヴィンで、リヴァイは足を止める。


を、連れてきてくれ。その後直ぐに中央に向かう。」
「何?」


振り返ったリヴァイは探るようにエルヴィンを見つめる。


を憲兵団に引き渡すよう、要請が出ている。」
「・・・巨人の襲撃で焦った奴らが身辺の強化か。あいつらが考えそうなことだ。」


吐き捨てるように言ってリヴァイはエルヴィンを睨みつける。


「お前、あいつを引き渡すつもりか?俺は、認めない。」
「私もだ。そのためにはしかるべき場所で戦わねばならない。」


そんな事をしている状況なのか。2人が考えることは同じだ。
しかし、憲兵団からの要請は1週間前から来ている。エルヴィン単独で上の説得を試みたが、其れは徒労に終わり、ひとまずをつれて来いの一点張り。


「・・・分かった。」


苛々としながらも頷いたリヴァイは今度こそ部屋から出て行った。
部屋を出た速度をそのままに、を探す。


「コタロー!」


彼女の従者の名を呼ぶと、数秒後、さ、と小太郎が現れる。


がいる場所まで案内しろ。」


話を聞いていたのかどうかは知らないが、小太郎は戸惑いも無くうなづいくと、リヴァイの前を歩き始める。
どうやらは外にいるようで、エントランスを目指す小太郎の背を黙って見つめる。
今、小太郎は調査兵団のマントを身に着けているため、見えるのは調査兵団のマーク。翼だ。


(何が自由の翼だ。結局は上の決定に従うだけの、唯の兵士じゃねぇか。)


知らないうちに殺気立っていたのか、小太郎が足を止めて、リヴァイを振り返った。
急に止まった背中に、リヴァイも足を止める。


「個を生かすより、組織。・・・指示は、正しい。」


矢張り、小太郎は先ほどの話を聞いていたのだろう。


「主も、納得。本意ではないが。」


ぎり、とリヴァイは口をかみ締めたが、憤りを霧散させるように息を吐き出した。
言うとおりだ。頭では分かっていても感情が付いていかないだけだ。


「お前は・・・は憲兵団に行くべきだと思うか?」


その問いに小太郎は首を横に振った。


「主は、これ以上の、損失、望んでいない。己はそれに、従う。」
「そうか。」


視線を上げると、こちらへ歩いてくるの姿が目に入った。
今回の騒動で忘れていたが、当初の予定では巨人を捕獲し、その生態調査を行う予定だった筈だ。
それが今は、巨人の襲撃にあい、ひとまずはウォール・シーナまで後退したものの、土地に対して増えすぎた人口により内部から自滅する可能性が出てきている。


「・・必ず、ウォール・マリアは奪還する。だが、その前に、成すべきことがある。お前らには協力して貰うぜ。」


その為には、まずはの憲兵団行きを阻止しなければならない。
ようやく気持ちの切り替えが出来たリヴァイは、どう上を説得するかを考え始めた。























はエルヴィン、リヴァイ、小太郎と共に中央の会議室に居た。
その場には、各兵団の団長とダリスが同席している。


・ルシルフル及びコタロー・フーマは人類存続にかけて必要な要員だ。みすみす調査兵団で死なせる訳には行かない。」
「その人類存続の為にも我々は巨人の生態について調査する必要があり、ゆくゆくはウォール・マリア奪還に向けて動くべきだ。その為に、彼女の能力は必須と考えている。」


先ほどから一歩も譲らない両者に痺れを切らしたは調査兵団団長のナイルの前にあるテーブルを蹴り上げた。
それは木っ端微塵になり、ぱらぱらと破片が落ちてくる。


「私は、憲兵団に属する気は無い。保身に走るのは、嫌だ。内地になんて行きたくない。」


黙って成り行きを見ていたダリスはようやく口を開いた。


「・・つまり?」
「巨人の生態を調査する。壁の穴を塞ぐ方法を探す。これ以上多くの人を、見殺しにしない。」


は瞬時にダリスの目の前に移動すると、彼の真横に腕を振り下ろした。手は壁にめり込み、ぴしぴしとヒビが広がる。
その暴挙に調査兵団のメンバー以外が立ち上がり、銃をに向けた。


「私、結構むかついてるんだ。個じゃなく、組織を生かすことを第一にしろって、昔からお兄ちゃんも言ってたけど、私は好きじゃない。けど、今回の奪還作戦は仕方が無いと思ってる。」


初めて見せる彼女の殺気に部屋がひんやりと包まれる。


「ていうか、そもそも憲兵団って好きじゃない。だって、前線で戦わないんでしょ?後ろから見てるだけなんでしょ?治安維持もしてるって言うけどさぁ、それって人間が生きててこそ必要なもんでしょ?それなら駐屯兵団に行った方が未だマシ。でも。」


壁から手を引き抜くと、壁が音を立てて崩れてぽっかりと穴があく。


「私の力は私が良く理解してる。何処で何をするのが1番効果的かも分かってる。私は、あんた達の指図は受けない。この世界で、私が指図出来るのは、エルヴィンとリヴァイだけだと思ってる。」


振り向くと、自分に向けられている銃口が目に入るが、それは瞬時に小太郎によって破壊された。
銃を構えていた憲兵団から悲鳴があがり、はそれを冷ややかに見た。


「・・・私は、調査兵団から抜けたらこの人類の為には働かない。」


それは決定的な一言だった。
深いため息が背後のダリスから聞こえてくる。


「・・選択肢は無い様だな。」


議論は終わりだ、といわんばかりにダリスは立ち上がった。







846年。予定通りウォール・マリア奪還作戦が敢行され、多くの人間がその命を絶たれた。
その作戦には調査兵団と憲兵団は参加せず、作戦にはウォール・マリアの住民も借り出され、人口の2割が減って作戦が終わる、というものだった。
つまり、上の思惑通り、優秀な人材は残しつつも人口を減らすという所業は上手く行ったという訳だ。


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2013.7.28 執筆