Dreaming

World End #5



肩の傷は自分で縫合が出来なかった為、アポロにやって貰い、寝ている間絶をすれば翌日にはそこそこ回復した。
それを見たリヴァイは舌打をし、ハンジが酷く調べたがっていたが、それから何とか逃げてはエルヴィンの部屋にいた。


「コタローは一緒じゃないのか?」
「あぁ・・・アポロがハンジと楽しそうに話しはじめたから、見張りに置いてきた。」


いつもにくっついて回っている小太郎の姿が見えないことに疑問を口にすれば何でも無いことにように返す為、小太郎がアポロのストッパー役として機能するのは常のことのようだ。


「訓練については問題なくこなしているようで安心したよ。」


本題は達の様子を聞くことらしい。


「うん。退屈。あ、でもちょっと聞いて!昨日リヴァイがさぁナイフしか持ってない私に硬質スチールで切りかかってきて!何あの人、狂犬なの?」


昨日、リヴァイからその話を聞いていたエルヴィンは苦笑しながらも紅茶をカップに注いでの前に置いた。


「もうさぁ!人前だったから止血も出来ないしさっさと傷も塞げないし、何か結構痛いし骨見えてるしってまぁ、その後直ぐに治療したからこの通りもう動けるけど、私がここの人に比べたら丈夫だとか変な力使っちゃうだとか言うのは公表しないんでしょ?あ、紅茶ありがと。つーか、あの人エルヴィンの部下でしょ?ちゃんと躾けてよー!!」


一気に言ったは、ふぅ、と息をつくと満足したのか紅茶を口につけたが予想外に熱くて慌ててカップを置いた。


「まぁまぁ、2年間訓練している兵の中に入るのは特例だから、リヴァイも周りを納得させようと思ったんじゃないか?嫌でも注目されて、心無い事を言う訓練兵もいるだろうからね。(リヴァイから聞くに、唯単に力で捻じ伏せてみたくなっただけみたいだが)」


それを聞いたは、まさに目から鱗、と言うような表情をした後、おぉ、と感嘆の声をあげた。


「なんだ、あの人、良い人じゃん。そっか。確かに周りが煩かった気がする。」


自分でリヴァイをフォローしておいて何だが、そうあっさりと信じてあまつさえ感謝までしているところを見ると居た堪れない。


「が、確かに今回はやりすぎだった。私からも言っておこう。」


せめての罪滅ぼしに、と言うと、はいいよいいよ、と手を横に振った。


「結構楽しかったし。」


えへへ、と笑った少女に、エルヴィンは何と言って良いか分からず、はは、と乾いた笑みだけ漏らした。




























訓練では兵站行進、馬術、格闘術、兵法講義、技巧術、立体機動の6つを柱として行われる。
2人が苦労したのは言わずもがな、兵法講義と技巧術だ。
に至っては馬術も危うい。


「馬より自分で走ったほうがやりやすいのに」


ぶつぶつ文句を言いながら馬術の補講を受けるを見守っているのは小太郎とペトラだ。
唯一彼女の言葉が聞こえた小太郎は同感だ、と頷く。


「え、どうしたの?」


突然隣で頷いた小太郎にびっくりしてペトラが声を掛けると彼はからペトラに視線を移した。長身の小太郎に無表情で見下ろされると何だか迫力がある。


「主が、馬より走るほうが、らく、と、言った。」
「へ?」


並足で歩いているまではそう離れては居ないものの、呟いたくらいでは聞き取ることは出来ない。
小太郎は再びを見る。


「己も、同感だ。」
「あーっと、そういえば、確かに壁外に居るときは馬にも乗らなかったんだっけ?」


こくり、と頷く小太郎を見上げて、ペトラは未だに信じきれないように2人を見比べた。
常人離れした体術を使う、と言うのは聞いているが、小太郎はともかくはとてもそうは見えない。


ちゃん!次は駆け足よ!」


今日の補講にあたってはペトラが監督を務めている。
並足がようやく出来てきたところで走るように言うと、は頷いて馬の腹を蹴った。
特筆しておくが、彼女の殴る、蹴ると言った動作は見た以上の破壊力を持つ。
少し蹴ったくらいの認識だが、驚いた馬は嘶くと、全速力で走り始めた。


「大変!」


あれでは振り落とされてしまう。ペトラは隣に待機させておいた愛馬に飛び乗るとを追いかける。が、すぐに馬に乗っていたは、自分から飛び降りた。

くるり、と空中で一回転すると難なく地面に着地してばつが悪そうにしているにペトラは目を見開く。


「あー、ごめん。ペトラさん。馬、逃げちゃった。」


今、起こったことが一瞬理解できなかったが、先ずは馬を捕まえようと視線を馬が走り去った方向へ向けて、また固まる。
そこには、今しがた逃げた馬に乗って走ってくる小太郎の姿があったのだ。


「えー、一体、どういうこと・・?」


ペトラを他所に、小太郎は2人の前まで来ると馬から下りる。
馬はを睨むとぶるると嘶き、それにおっかなびっくり、は小太郎の後ろに隠れた。


「ね、ねぇ、こいつ、怒ってるよ、いっちょまえに。」


びくびくと馬を見る彼女は本当に碌な装備も無しに巨人を倒した少女なのだろうか。いや、確かに先ほど馬上から見事に着地した点は凄かったが。


「きょ、今日は切り上げましょう。」
「やったー!」


嬉しそうに手を上げると、馬はびくり、と顔を引っ込めた。






















ペトラは頭を抱えた。
馬に乗る、という行為自体は問題は無いが、力加減が悪すぎるのだ。


「動物って、何処まで力入れて良いか分かんないから、苦手。」


食事を取るため3人で歩いていると、がぽつりと呟いた。


「昔から、助けようとした猫は力入れすぎて足折っちゃうし、犬と遊んでたら気絶させちゃうし、鳥を捕まえようとしたら殺しちゃうし・・・」


ミカサに訓練をつけた時も、力加減を誤って、何度か手足の骨やあばらを折ってしまった。小さい頃からじゃれあってた人たちが規格外だった為、は中々力加減というものを学ぶ機会が無かったのだ。というか、兄達を相手に力加減なんてものをしていたら命がいくらあっても足りなかっただろう。


「そういえば、昔、よくお兄ちゃんに抱っこされたとき骨折れてたっけ。」
「え?」


食堂の扉を開いていたペトラはびくり、とを振り返った。


「お兄ちゃんだけじゃない。ウヴォー(兄の仲間)に高い高いされた時は、高く放り投げすぎて、受け止められたときムチ打ちになったし、ノブナガ(兄の仲間)とちゃんばらごっこしてた時なんて、腕が変な方向に曲がっちゃうし、あー!思い出したら腹が立ってきた!」
「ず、随分バイオレンスな幼少期だったのね・・」


ペトラは理解した。馬に乗る以前に、力加減というものを覚えさせるべきだ、と。
出なければ馬は勿論自分達の身も危ない。
小太郎は途方に暮れるペトラを励ますように、とんとんと背中を叩いた。


「成る程な。お前の馬鹿力は環境のせいか。」


食堂にいたリヴァイとエルヴィンに、ペトラは慌てて敬礼をする。


「そんな環境のせいって言うけど、鍛えなきゃ死んじゃう所だったんだから!」


あぁ、思い出してもよく自分は生きていたものだ、と身震いしながらもは壁に貼ってあるメニューを見た。
未だにこちらの文字を読むのは時間がかかる。
見本を置いてくれれば良いのに、と思いながら既に食べている人たちの物を見回した。


「あ、アレが良い。グラタン?」
「ちゃんと文字を読んで判断しろ。クズが。」


リヴァイの言葉に悪態が入るのは、最早デフォルトである。しかし、未だそれに慣れないはむっきーとリヴァイに詰め寄った。


「ちょっとー!クズって酷いじゃん!このクズ!」
「じゃぁ馬鹿だな。」


は、と鼻で笑いながら言われた言葉に地団駄を踏むとリヴァイの仲裁に入ったのはやはりエルヴィンで、彼は困ったように笑っている。


「まぁまぁ、2人とも。リヴァイ、余り女性にそういう言葉を使うものじゃないよ。」


そうだそうだー!と便乗すると、また鼻で笑われてしまう。


「女性?俺の目の前に居るのはクソ餓鬼だが?」
「リヴァイ!」


窘めるように名を呼ぶと、リヴァイはそっぽを向いた。


「あ!!コタロー!」


その騒ぎで達がいることに気付いたハンジが食べかけの食事をそのままに駆け寄ってくる。
その目はきらきらとしていて鼻息が荒い。
嫌な予感に、身体を後ろへそらすと、やはりハンジはの肩を掴んで揺らしてきた。


「ねぇねぇ、何食べるの!?ていうか、こっちの食べ物は普通に食べれるの?何注文する?早く食べてみて!」
「は、ハンジさん、きもちわるっ」


凄い速度で揺らされ、吐き気を催したところで、「ふぐぅっ!」という音と共に手が離れた。
うっぷ、と口を抑えながら見ると、リヴァイがハンジの頭を足で地面に踏みつけている。


「うるせぇ、クソメガネ。お前は黙ってろ。」


そして、頭から足をどけると、腹の辺りを蹴飛ばして壁に寄せた。
ペトラがバイオレンスな幼少時代、と評したが、これはこれでバイオレンスな職場だと思う。


「おい、さっさと飯にするぞ。」


リヴァイはハンジに目もくれずにカウンターへ向かう。
一同は気の毒そうな視線をハンジに向けた後、リヴァイの後に続いた。























時間が遅かったことと、先ほどの騒動で敬遠されたのか、食堂には余り人が居ない。
を中心にペトラと小太郎が腰掛、その正面にエルヴィンとリヴァイが座っている。


「馬術の調子はどうだい?」
「え・・。」


グラタンを口に運んでいたは固まった。何と答えて良いか分からないのだ。
歩く分には問題ないが、走ろうと腹を蹴ると、力加減を誤って馬が暴走してしまう。
リヴァイがいるこの場で言ったら確実に馬鹿にされるだろう。


「大方力加減が分からなくて、馬が暴走したんだろうよ。」


しかし、先ほどの話の流れから分かったのか、やはりリヴァイは馬鹿にしたように言った。


「うっ」


その通りで言い返すことが出来ないは言葉を詰まらせる。
ペトラはそれをフォローするように、でも、と声を上げた。


「暴走した馬から飛び降りた時は凄かったし、何より、逃げた馬を直ぐにコタローが捕まえてきてくれて・・・ってあれ、どうやって捕まえたの?」


そういえば、とペトラがを挟んだ先にいる小太郎に問いかけると、小太郎は口の中の物をごくりと飲み込んだ。


「・・飛び乗った」
「えぇぇ!?あの、ちゃんを振り落とす程暴れてた馬に!?」


こくん、と頷く小太郎はそれ以上言うことが無いのか、そわそわとし始めた。
既に彼は食事を終えている。驚異的な速さだ。


「・・・ペトラさん、私のフォローは?」


のフォローをするはずが、小太郎の話になってしまい、ペトラは誤魔化すように笑った。


「・・主・・」


いじけながらグラタンの中に入っていたグリーンピースを小皿にせっせと出していると、底冷えのするような声で呼ばれて、はびくりと肩を揺らす。


「何だお前。グリーンピースが嫌いなのか?やっぱガキじゃねぇか。」
「う、うるさーい!むぐぅ!」


叫んだところに小皿にいっぱいになっているグリーンピースを放り込んだ小太郎は、直ぐにの頭を顎に手を添えて口を閉じさせた。
これだったらグラタンで誤魔化しながら食べた方がマシだ。とが涙目で小太郎の腕を叩くが、彼は首を横に振るばかり。


「好き嫌い、駄目。」


しょっちゅう言われるその言葉に、はごっくんと目を瞑って口の中の物を噛まずに飲み込んだ。


ちゃん!はい、お水!」


ようやく小太郎の手が離れたところで受け取った水を一気に飲み干す。
はぁ、と息をついて顔を上げると、よくも表情だけでそこまで人を馬鹿にできるな、と関心するほどの表情でを見つめるリヴァイと目が合い、机の下で2人の蹴りあいが始まった。


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2013.7.26 執筆