Dreaming

Wolrd End #23



見た目ぴんぴんしていても、やはり疲労は大きい。
は書き終えた報告書にペンを置くと、背後のベッドで眠っているリヴァイを見た。
薬が効いているのか、彼はぴくりとも動かない。
時計を見ると、彼が眠り始めてから3時間と少し。
起こせば起きるだろうが、呼び出しがあるまでそっとしておこうと思っていた矢先、小太郎が部屋に入ってきた。


「リヴァイ、まだ寝てるから静かにね。」


普段なら小声で話していても、それどころかドアが開いた時点で目を覚ますリヴァイだが、起きだす様子は見られない。


「今から、会議。」
「私とリヴァイ両方?」


それに小太郎は首を横に降った。


「主は休む。リヴァイと己は出席する。」
「って言っても私、ぴんぴんしてるけど。」
「ダメ。エルヴィンからの命令。」


断固として譲らないという思いが目から伝わってきては肩をすくめた。


(ま、回復に力を使いすぎてもう眠いのは事実だけど)


可哀想だが、リヴァイを起こして、自分は休むしか無いようだ。
そう思い、はベッドに足を進めると、リヴァイの肩をゆすった。
簡単には起きないと思っていたが、あっさりと目をあけたリヴァイはを見上げると、眉を寄せた。
目に入った瞬間顔を歪めるとは何事だろうか。失礼なやつめ、と頬を摘んでやると、リヴァイはそれを払って上半身を起こした。


「エルヴィンから招集。会議するって。」
「そうか。」


のろのろと起き上がったリヴァイは少し伸びをすると、を見た。
そして、また、眉を寄せる。


「何なのよ、さっきから。」


文句を言うと、すっと手が伸びてきて前髪を避けると、額にぺたりとくっつけられる。
それにマズイ、と思うが、目の前の男はしっかりと顔を険しくしていて。


「熱、あんじゃねぇか。」
「えへ」


笑ってごまかそうとしたが、すぐにリヴァイによってベッドに放り投げられた。しかし、あれ、布団なかったっけ、ベッドには。と思った瞬間、布団を手に持って待ち構えていた小太郎によって布団を被せられる。
なんというムダのない連携プレー。


「絶対安静。」
「起きて来んなよ。」


2人同時に言われて、諦めたように返事をした。























泥のように寝て目を覚ますと朝だった。
起きた瞬間影から飛び出してきたのはアポロで、彼は早く起きろとの体を揺らす。


「俺、ハンジのところに行ってくるからな。お前、ちゃんと昨日の話リヴァイか小太郎から聞いとけよ!」


が寝ている間、というか意識のない間、アポロは動けない。
彼は昨日の会議の内容が気になって仕方が無いようで、そう言うと部屋から飛び出して行った。
恐らく、ハンジは徹夜明けだろう。アポロが引きずり回さなければ良いが、と思いながらも小太郎を呼ぶと、彼は一瞬での目の前に現れた。


「主、体調は?」
「うん。ばっちり。今日早いうちに脇腹も縫合しちゃうからもう大丈夫だよ。」


ぱっくり開いていた脇腹は一応応急手当をしてあり今はガーゼがで覆われている。
貧血も無いし、後でアポロに塞いでもらおう。そう思いながらベッドから出ると、小太郎は脇腹の具合や、昨日くっつけた左腕の具合を確認し始めた。
経過は悪くないのか、一人で納得したように頷いて、ようやく手を退ける。


「あ、昨日の会議、どうだった?」
「・・・・審議中。」
「審議?」


エレンは昨日のうちに中央へ連れて行かれてしまったということだろうか。
首を傾げると、考えている事がわかったのか、小太郎は首を横に振った。


「会議の後、アルミンとミカサがエルヴィンの元へ来た。」
「へぇ?」


会議の後、ということは深夜だろう。


「2人が言うには・・・」


そうして小太郎が説明し始めた内容は、女型と思わしき兵は104期訓練兵のアニ・レオンハート、ということ。
この話は未だ未発表で知っているのはエルヴィンと小太郎くらいだということ。
小太郎が今日証拠の調査を行うということ。
そして、明日、憲兵団へのエレンの引き渡しが決まったということだった。

アルミンの推理の内容まで事細かに聞いてあり得なくは無いが、そう簡単に証拠なんてものが出てくるかどうか疑問に思う。


「どこを調べるの?彼女の部屋とか?」
「是。後は、故郷の村。」


小太郎の足なら、今日中に彼女の村へ行って調べて帰ってくるのは無理では無いだろう。
部屋よりも故郷の村を調べたほうが何がしかの情報は出てきそうだ。


「この件については、内密。」
「まぁ、証拠も何も無い訳だしね。リヴァイとかハンジには?」


小太郎は首を横に降った。


「エルヴィンが決断した後、伝える。」
「ふぅん。本当は私にも伝えたくは無かったけど、小太郎を使うから渋々伝えたってことか。じゃぁ私は知らないふりしとくよ。」


調査兵団に属しているとは言っても、小太郎の主は1人だ。小太郎の情報収集力を買っているエルヴィンは度々彼を情報収集に使うし、今回も彼以外に適役はいない。
使う以上一応話しておく、といったところだろう。


「まぁ、でも、あの足技・・・独特だからね。」


言われてみれば、体術の講義の時、アニの蹴りの構えは周りとは少し違っていて、女型の構えも似たようなものだった気がする。


「是。本人か、同じ格闘術を学ぶ者か。」
「とりあえず、小太郎はエルヴィンを手伝ってあげてよ。」


小太郎はこくんと頷いて、姿を消した。
そしてアポロを連れて戻ってくると、彼をの横におろした。


「どうしたの?」
「どーしたもこーしたも、小太郎がお前の脇腹何とかしろっつーからよー。ほら、さっさと腹出せ。」


先ほど、脇腹はさっさと縫合しちゃうから、と言ったからだろう。
別に良かったのに、と言おうにも小太郎は既にいなかった。
























腹の縫合を終え、ラフなシャツにパンツを履いたはのろのろと食堂に向かって歩いていた。
調査兵団兵舎の空気は暗い。
それはそうだろう。今回の壁外調査での被害は今までの比較しても甚大で。


(今回ばかりは、いつも通りとはいかないか・・)


今回が初の壁外調査だった新兵は勿論、何度も壁外調査を経験している兵も誰もが沈んでいる。


「あ、さん。」


声をかけられて視線を背後に向けると、そこには1人の新兵が立っていた。ジャンだ。


「おはよ。」


朝には遅い。それでも、それくらいしか言葉が見つからなくて、はそう声をかけると、ジャンは頭を下げての隣に並んで歩き出した。


「もう大丈夫なんスか?」
「うん。」


もうぴんぴんしてるよ、と手を広げて見せると、ジャンは微かに笑った。


「そういえば食事は取った?」


言われてようやく食事を取っていなかったことに気づいたジャンは、バツが悪そうに「まだです」と答えた。


「じゃぁ一緒に食べよう。1人より、誰かと食べたほうが食は進むと思うよ。」
「・・・ありがとうございます。」


過酷な壁外調査だったものの、調査兵団の新兵は1人も失われていない。
それでも目の前で失われていく多くの命にショックを受けたのは隠せない。
誰かしら誘い合って食事に行くのが常だが、それが今日は無かったのは、全員ジャンのようにどこかしらショックをうけ、塞いでいる証拠だろう。
その中、いつも通りの表情で食事に誘ってくれたの存在は有りがたかった。


「いーって。ゆっくり出来るの今日だけだろうし。」
「え?」


言った意味がよく分からなくて首を傾げると、はごまかすように笑った。


「何でもないよ。今日くらいはゆっくりしてって事。」


そう言いながらはドアを開いてカウンターへ向かう。
食堂には人がまばらにしかいなくて、いつもだったらこの時間人がひしめいているのにと思いながらジャンはの後ろに並んだ。
湯気が立つスープとパンの乗ったトレイを受け取って席につくと、ジャンは思い切って口を開いた。


「あの、エレンは・・」


早速パンを口に放り込んだはもぐもぐと咀嚼しながらジャンを見た。


「エレンは、どうなるんスか。」


ごくん、と飲み込んで、は困ったように頬を掻いた。


「どうだろうね。中央に行って、憲兵団に引き渡されるんだろうけど、どうなるかな。」
「・・・どうなるかなって、阻止するってことですか?」


真剣な顔で問い詰めるジャンに、はへらりと笑って食事を進める。
食べる事を忘れていたジャンは、思い出したようにスプーンを手に取るとスープを口に運んだ。


「さぁ、どうだろう。」


そう答えてもスープを口に運びながら開いたドアに視線を向けると、そこには眉間にシワを寄せたリヴァイが立っていた。


「部屋にいねぇと思えば・・・もう良いのかよ。」


尋ねながらリヴァイはの横の椅子を引くと腰掛けた。


「うん。リヴァイはもう食べたの?」
「あぁ。」


自然のリヴァイの視線はジャンに向かう。


「誰だ、てめぇ」
「ジャン・キルシュタインです。」


慌てて口の中のものを飲み込んだジャンは姿勢を正すと名乗って、リヴァイの反応を伺う。


「・・・新兵か。」


どことなく疲れた様子のリヴァイは頬杖をつくと、のパンを横から奪って口に放り込んだ。


「あ、何すんの!」


初めて間近で見るリヴァイの姿に怯む間も無く、目の前の2人が喧嘩を初めて、ジャンはなすすべもなくただただ2人を見つめた。


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2014.01.12 執筆