Dreaming

World End #20



本部に戻ってきたは幾分落ち着いているみたいで、ハンジはほっとため息をついた。
結局実験は当日行われる事無く、翌日に繰越になった訳だが、その時のリヴァイとの様子はなんというか、あっさりしていて拍子抜けしたが、そういう付き合い方もあるのだろうし、あの2人にはそれが合っているような気もした。


「そういえば、の方の実験はどうだった?」
「あぁ・・・うーん、ちょっと改良が必要かな。ペトラに使ってもらったら、何だか落ち着かないって言ってて。どういう影響だかわかんないんだけどね。」


また、落ち着かない、というのは非科学的な物言いだ。
そもそもの力自体非科学的なのだから仕方が無いと言ってしまえばそれまでだが。


「ふーん、あ、次の壁外調査の時は私も使ってみたい。」
「え、いきなり本番?」
「不味い?」


今良く分からない影響が出ていると言ったばかりなのに、きょとんとして聞き返すハンジにはため息をついた。


「とにかく、本番でいきなり使うのはだめ。ま、今度試してみてよ。」


そう言うものの、今までハンジが訓練に参加していたところを見た事は無い。
ハンジだけではない。リヴァイもミケもだ。
分隊長にもなると訓練は免除されるのだろうか、と思いながらハンジを見ていると彼女は何を勘違いしたのか、にやにやしながらに抱き着いた。


「そんなに私の事心配してくれるなんてっ!」
「・・・・うざっ」


べり、と引き剥がして代わりに隣にいたアポロを突き出した。


「ほら、実験結果のまとめとかあるんでしょ?」
「あぁ!そうだった!」


餌を放り投げれば予想通りそれに飛びつくハンジ。アポロと一緒にまた騒ぎ始めたのを尻目には自分の机に向かった。























捕らえていた巨人二体が殺された、と知らせを受けたのはそれから数日後の事だった。
泣きながら巨人の名前をぶつぶつ呟くハンジを引っつかんで古城へ向かう。
古城の入り口では小太郎が待ち構えていて馬から飛び降りると彼の元へ向かった。


「小太郎、気付かなかったの?」
「・・・・」


申し訳なさそうに小太郎が頷くとそれを見ていたエレンが口を開いた。


さん、丁度昨日の深夜はコタローさん、エルヴィン団長に頼まれて憲兵団のところへ行っていて・・・」
「なにそれ。」


眉を寄せてはコタローを見上げた。少し遠くからハンジとアポロが悲鳴をあげ、騒ぎ立てる声が聞こえてくる。


「内容は?」
「エレンの報告書と、次回壁外遠征の計画書。」
「・・・なんでまた昨日の深夜なのよ。」
「昨日の夜、私の所に憲兵団から締め切りが昨日中だったのを伝え漏れていた、と報告があってね。急いで小太郎に届けて貰ったんだが・・・。」


出来すぎている。と視線でが言うと、エルヴィンも頷いた。
小太郎とが特異な存在であるということは上層部しか知らなかったが、この前訓練兵の講師をしたことで、いくらか彼らの異常さが伝わった事は否めない。
巨人を殺した犯人が小太郎がいない隙を狙うのも、それを知っていれば頷ける。


「その憲兵団がお出ましだ。」


リヴァイが視線を向ける先には憲兵団の面々が到着したようで調査を開始するみたいだ。

「うっうっうっ・・・ソニー、ビーン・・」
「有り得ねぇ・・・誰だよ、大事な大事な被験体殺しやがったの・・・。」


殺害現場から追い払われたらしいハンジとアポロがぐずぐず言いながらこちらへやってくる。


「オイ、。ぜってぇ、あいつら殺した奴捕まえろよ!フェイタン(兄の仲間)から貰った拷問道具あんだろ。あれ使って動機を吐かせてやる。」
「えー、拷問なら小太郎が得意じゃん。小太郎に任せようよ。」
「是。得意。」


こくこくと頷く小太郎にエレンは若干引きながらも、物騒な事を言っている3人を見つめた。


「いーや、自分でやんねーと気が済まねぇ!」
「自分でやるって、私にやらせる気でしょ?嫌だよ。」


は辛うじて常識的な思考を持っているようでほっとしたのも束の間、彼女が続けて言った言葉に固まる。


「加減がわかんないから昔から苦手なんだよね、拷問って・・・。」
「え、昔から・・?」


エレンは顔を青くした。
出会った頃から普通じゃないとは思っていたが、まさか此処までとは思わなかった。
今ならミカサが言っていた、常識が当てはまらない、とか、常人じゃない、という言葉に納得出来る。


「オイオイ、お前、ほんとどんな生活してたんだ。気色悪ぃ。」


この会話に違和感を感じたのはエレンだけではなかったらしい。
明らかに引いてます、という顔をして吐き捨てたのはリヴァイで、此処に来て初めてリヴァイが常識人に見えて複雑に感じる。


「あれ、言ってなかったっけ。私のお兄ちゃん、向こうじゃ有名な盗賊で、昔から、まぁ、色々と教えられてたんだよね。」


えへへ、と何故か照れたように笑うと、褒めてねぇ、という言葉と共にリヴァイが蹴り飛ばそうとしたが、例の如くそれは空ぶる。


「あ、でも、たまーにしか仕事は手伝わなかったから、大丈夫。」
「何が大丈夫なんだよ・・・」
「まだ堅気ってことだよ!エレン君!」


自分の周りにマトモな人は居ないのか、とエレンはうなだれた。


































「・・・なら、小太郎はエルヴィンのところに着けて置いた方が良いね。連絡係にもなるし、捕縛するんだったら何か役に立つかもしんないし。」


次の壁外調査について話を聞き終えたはそう言ってエルヴィンを見た。


はどうする。」
「んー、一緒にエルヴィンと行っても良いんだけど・・・エレンの護衛についた方が良いかな。壁外調査ではアポロは必要無いでしょ?」
「あぁ。」


しかし思い切った作戦を考えたな、とは思案した。
きっと、エルヴィンの推理は間違っていない。相当の損失は避けられないが、その分、得られるものは大きいだろう。


「はー、ほんと、難儀な世界だねー。」


ぼすん、とソファに身を沈めながら言うと、エルヴィンは苦く笑った。


「でもさ、私に話しちゃって良かったの?身元が怪しいって線で行くと、思い切り私と小太郎はアウトだと思うけど。」
「君達が調査兵団に入って6年。見極めるには十分な時間だとは思わないか?」
「・・・エルヴィンってさ、そういう事恥ずかしげも無くさらっと言うよね。」


何が恥ずかしいのか。目の前で気まずそうに目を逸らすを目の前にエルヴィンは首を傾げた。


「あー、もう、何でもない!ご期待に沿えるよう、小太郎ともども頑張ってまいりますー!」


作戦が立てられてから、実行まで間が無い。
今年調査兵団に入った者にとっては初の壁外調査。
よりにもよって初陣がこの回とはついていない。


(こんなことなら、講師なんて引き受けるんじゃなかった)


勿論全員を覚えている訳では無いが、調査兵団に入ったもののうち半分ほどは顔を覚えている。
組織の為に個の生死には頓着しない。それは幼い頃からの兄の教えで既に身に染みている。


(今は、嫌だ嫌だって思っても、実際その場になれば私も平気で切り捨てるんだろうな)


エルヴィンは正しい。今自分がやるべきなのはエルヴィンの指示通りに動くこと。
つまりはエレンの死守。


「巨人化できる人間が他にもいるとしたら、君でも厳しいかもしれない。」
「うん。そうだね。」


壁が壊されたとき、超大型巨人と鎧型巨人は道具も何も使わずに壁を破壊した。
試したことは無いが、でも相当力を入れないとあの壁は壊せないだろう。
相手は想像以上の力を持っていると考えて行動した方が良い。


事態は深刻なのにも関わらず、知らず知らずのうちに気分が高ぶる自身に気付いたはエルヴィンに悟られないように息を吐いて気持ちを静めた。


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2013.11.29 執筆