Dreaming

World End



朝。旧調査兵団本部に向かわない為の理由を思い浮かべようとしたものの、良い言い訳が見当たらなくて、はのそりとベッドから這い出た。
出立は昼だったか。正直行きたくない。


「つっても、遅かれ早かれリヴァイには会うんだからさっさと会っちまえよ。」


頭の端に思い浮かんだ事をアポロに言われて、は眉を寄せた。
朝っぱらからやかましい奴が出てきたものだ。
当の本人のアポロは影から頭だけを出している状態で生首に見えなくも無い。


「うるさーい!」
「俺は良いと思うぜ。リヴァイ。小太郎は最終的にはお前の命令には逆らえねぇし、他の奴らはお前を止める力量も無い。何かあった時、お前の意にそぐわなかろうが、真っ向からぶつかれる奴はあいつくらいだ。ここじゃ、な。」


こういう時、本当にアポロは厄介だ。
自分でも認識していないような事をぽんぽん言い当てていくのだから。


「だから、あいつと居ると安心すんだろ。」
「あーもー!」


寝起きでぐしゃぐしゃの頭を更に自分で掻き混ぜて、はぼすん、とベッドに突っ伏した。


「分かってるわ ぼけー!」
「そっかそっか。」


言いたいことを言ってすっきりしたのか、アポロはドアから飛び出していった。
大方、ハンジを叩き起こしに行ったのだろう。


「・・・着替えよ。」


そう呟いて窓の外に視線をやると、清々しい朝日の光が目にしみた。























馬の蹄の音が響くのは旧調査兵団本部へ続く閑散とした道。
ハンジは後ろを走っているが暗い顔をしているのに、笑いをかみ殺した。
彼女からすれば、今更何をそんな暗い顔をする事があるのか分からない。
は以前からリヴァイにはいち早く心を許していたし、その隣を居心地よさそうにしていた。詰まるところ思いあっているというのに、何故悲壮な顔をするのか。


、そんな今にも死にに行くような顔しちゃって、どうしたのさ!」
「・・・何も聞かないで。」


そう言って口を噤んでしまったにため息をつく。
コレはひと悶着ありそうだ。


「あ、そういえばエルヴィンから伝言。硬質スチールの試作品、ペトラが試してくれるって。」
「ペトラか。良かった。」


異性か同性か、比べるとやはり同性の方が説明しやすい。加えてペトラは此処に来た時からお世話になっている相手だ。


(エルヴィンはグンタ辺りどうかって言ったらしいんだけど、リヴァイがペトラにしちゃったんだよね。って言ったらどういう反応するかなー。)


それを聞いた時は、あの人類最強が可愛い焼きもちやいちゃって!と笑ってしまったが、今それをに言ったところで、彼女はどう反応して良いか分からないだろう。
取り合えず次の酒の場ででも言ってみよう、と決めてハンジはようやく見えてきた旧調査兵団本部に胸を躍らせた。
勿論、とリヴァイの関係がどう転ぶかにも興味があるが、エレンにはもっと興味がある。


「分隊長!よだれ!よだれ出てます!!」


隣を走っていたモブリットが慌てて指摘すると、はっと我に返ったハンジは涎を拭った。
リヴァイが居たなら、間違えなく軽蔑の眼差しで暴言を吐いていることだろう。


「おい、、まだかよー。待ちくたびれたぜ。」


加えての影の中の住人まで待ちきれないと来た。


「モブリットさん、2人とも暴走するかもしれないけど、アポロは小太郎がどうにかするんでハンジはよろしく。」
「・・・出来ればコタローさん、分隊長も止めてくんないかなぁ・・・」


ぼそり、と呟いた言葉に、は何だかモブリットが不憫に見えて仕方が無かった。


古城の入り口にたどり着くと小太郎が出迎えて、そのまま厩に馬を繋ぎながら言葉を交わす。


「へぇ、リヴァイ班は今掃除中、ね。大変だ。」


リヴァイは生き生きと掃除の指揮を執っているのだろう。面白そうにハンジが呟いて、もそれに頷いた。
掃除には煩いことくらい、既に知っている。


「あと少しで、休憩。」
「じゃぁ其れまで待たせてもらおう!食堂はどこだったかな。」


暗に食堂に案内しろ、と言われて小太郎は食堂へと足を進めた。
の隣にはいつの間に出てきたのかアポロがにやにやとしながら歩いている。


「もうすぐご対面だな。楽しみだぜ。」


どっちに対するご対面なのか。両方な気がしてはじろりとアポロを睨んだ。


「おいおい、エレンのこと言ってんだって。リヴァイだなんて誰も言ってねぇ。」
「はいはい、アポロもをからかわない!」


珍しくハンジが仲裁に入るが、彼女の顔も締りがない。
殴りつけたい衝動を必死に抑えながらは無言で足を速めた。























食堂で雑談をしながら待っていると、掃除をしていた面々が集まり始め、は落ち着かなく視線を上に上げた。
エルドとグンタがまず入って来て、その後ろからはペトラとオルオが言い合っている声が聞こえてくる。


「ペトラさん」


目的の人物を見つけたはすぐに立ち上がって彼女の元へと向かった。


「昼食の後、少し時間欲しいんだけ、ど・・」


言いかけて、ペトラから数歩離れて来ていたリヴァイと視線が合って、不自然に言葉が途切れるが、その横を凄い勢いでハンジとアポロが通り過ぎたことで気がそれる。
勿論、2人の目当てはリヴァイの少し後ろを歩いているエレンで、エレンは2人に気付くと、頬をひくりと引きつらせた。


「エレンエレンエレン!今日も新しい実験内容を考えてきたんだ!」
「さっさと飯食えって!今日も盛りだくさんだからな!!」
「え、あ、あの、午後は、掃除が・・」
「そんなの良いから!!」


そう、2人がエレンに群がっている間もリヴァイからの視線を感じて、はらしくもなくあせる。


ちゃん、昼食の後が、どうかした?」
「あ、」


ペトラはが言いかけた言葉が気になるのか、そう声をかけてきて、は小さく声を漏らした。


「えっと、そう、改良した超硬質スチールの実験に協力して欲しくてさ!」


少し声が大きくなってしまうが、それはアポロとハンジの大声のお陰で目立つ事は無かった。


「あぁ、それなら聞いてるわ。大丈夫よ。」


にっこりと微笑みながら頷かれて、はぎこちなく笑った。
眉間に皺を寄せて一連の会話を聞いていたリヴァイは、会話が途切れたのを見計らって足を踏み出す。


「・・オイ、」
「あ、私準備あるから、先行ってる!ご飯食べ終わったら小太郎に場所聞いてくれれば良いから!」


言い終わるか言い終わらないかでダッシュし始めて、軽々と窓を飛び越えたはそのまま走り去ってしまう。
ペトラはいつも以上に忙しないに唖然とし、事情を知るハンジとアポロはそれぞれエレンの手を掴んで逃げられないようにしながらもニヤニヤと笑っている。


「・・・ペトラ、今日の昼食は、ゆっくり食え。」
「え?あ、はい!」


リヴァイはじろり、とニヤニヤしているアポロとハンジを睨みつけると、小太郎を呼んだ。


「兵長、あの、昼食は・・?」
「俺は後で良い。行くぞ、コタロー。」


取り付く島も無く、リヴァイは小太郎を連れて踵を返した。


「ねぇ、アポロ。」
「おお、ハンジ。ありゃ、勝負に出る時の男の顔だな。」


くっくっく、と抑えきれずに笑いながら2人は顔を付き合わせる。


「俺、別に飯食わなくても良いし、ちょっと行ってくるわ。」
「報告待ってるよ!」


アポロは力強く頷いて、その場から姿を消してしまった。
残っているのは、1人ニヤニヤしているハンジと、困惑しているペトラとエレンだ。


「あ、あの、ハンジさん。一体・・」
「よくぞ聞いてくれた、エレン!」


俯いていたハンジがぱっと顔を上げた。その顔は紅潮していて鼻息があらい。
あ、これ、不味いやつだ。と悟ったときには既に遅く、ハンジはべらべらとこれまでの経緯を話し始めた。


ひとしきり話終えると、ようやく昼食にありつくことが出来た訳だが、余りにも予想外の展開にエレンは戸惑いを隠せない。
なんて言ってもあのリヴァイが、あのに告白なんてものをやらかしたというのだから。


「きゃー!え、それ本当ですか!?」


話に身を乗り出して食いついたのはペトラで、初めて彼女の女性らしい悲鳴を聞いた気がすると思いながらもエレンはペトラを見た。
ペトラは何故か頬に手を当て、照れている様子で、益々何故そういう反応になるのか分からずにエレンは眉を寄せる。


「実は私、前から2人のこと応援してたのよ!兵長ったら、恋愛には興味ないなんて顔をしておきながらいつのまに!」
「だよね。私もリヴァイはむっつりだと思うんだよ。」
「む、むっつり・・」


色めき立つ女性2人に、エレンはいつまでたっても腰が引けている。
今まで傍に居たのがアルミンとミカサということもあり、恋愛話には免疫が無いのだろう。


「あー、早くアポロから報告上がってこないかなー。」
「ハンジさん、是非その場には私も!」
「勿論だよ!」


これは完全に見世物だ。エレンは若干リヴァイとに同情しながらも、勝手に耳は2人の会話に傾いてしまう自分を止められなかった。


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2013.10.16 執筆