中学生最後の冬休み。
どこに旅行に行こうかとか、誰と遊ぼうかとかアポロと計画を立てている前に立ちはだかったのは、兄のクロロ・ルシルフルだった。
「、俺からの冬休みの課題だ。」
「え、いらない。」
即答したのも虚しく、クロロは淡々と言葉を続ける。
「課題その1、幻影旅団の仕事に同行。その2、イルミの手伝い。その3、ハンターライセンス取得。」
しかも1つじゃねぇのかよ!と内心叫びながらはうんざりとした表情で兄を見上げた。
「ライセンスがあると何かと便利だし、良い腕試し・・いや、腕試しにもならないかもしれないが、まぁ行って来い。」
「え、ちょっと待っ」
「ちなみに申し込みはもう済ませてある。場所はシャルからメールが来ている筈だ。」
言われて携帯を見ると確かにシャルからメールが来ていてそれを開いた。
終了日不明って、おいこら待て。最悪冬休みこれで潰れちゃうかもしんないじゃん!ていうか冬休み中に終わるかも怪しい!と言おうにも兄の話に付け入る隙は無い。
「心配するな。荷物も纏めてある。あぁ、一つだけ。変な奴にはついていくなよ。」
そう言いながらクロロはぐい、との腕を引っ張りあげてずるずると引きずり始める。
もしかしてこの流れはこのまま出発だろうか。
「油断も躊躇もするな。殺られる前に殺れ。」
「え、え?」
がちゃり、と玄関のドアが開く音がしたと思えばそとに放り出される。
どすん、と尻もちをついて唖然と家の中、つまりクロロを見上げるとリュックが投げつけられた。
「随時進捗は報告しろよ。気をつけてな。」
最後にぎゅうぎゅうと中身が出ちゃいそうな位の抱擁を受けたと思ったらドアがばたんと閉まった。
「・・・・マジで?」
ちーん、と到着したことを告げるベルが鳴り、はステーキを一切れ口に放り込んで立ち上がった。
ここに辿り着くまで1週間。この試験会場を見つけるのに少しだけ時間がかかってしまった。
(もうちょい拷問の仕方教わっとけば良かった。)
この試験会場の場所を吐かせようとちょっと”お願い”した所、やりすぎてしまった結果だ。
(てか、シャルは絶対この場所知ってた筈なのに。ケチだ。)
幸先良いスタートじゃない。咀嚼していたステーキをごくりと飲み込んで番号札を受け取った所では足を止めた。
遠くに、関わりたくない奴が見えたからだ。
(へぇ、アイツも参加してんのか。面倒くせぇなァ。)
(・・・人事だと思って。)
アポロのつぶやく声の中には面白がるような色も含まれていては悪態をつく。
いつも通り奇抜な服を着て、ピエロのメイクをしている奴はその見た目だけではなく異様な雰囲気からも目立っていた。
あぁ、嫌だ。関わりたくない。
そう思いながら目線を逸らすと、今度はヒソカとは違った意味で奇抜な見た目をしている男。
カタカタ言いながら視線があってしまって、思わず「うわっ」と声が漏れた。
(って、え、こっち来る・・!)
そしてこともあろうにその人物はへと向かって歩いてくる。
逃げても良いがこの限られたスペースじゃぁ追いつかれるのも必至。
「。オレだよ。イルミ。」
どうしよう、どうしよう、どうしよう。とぐるぐる考えている間に耳に飛び込んできたのは聞き慣れた声だった。
「・・・は?」
「変装して行くって言ったじゃん。」
確かに、ハンター試験にイルミも来ると言っていた。変装して。しかし・・
「いや、それ、変装ってレベルじゃないでしょ。」
「そう?」
自分の身体をカタカタ言いながら見下ろすイルミには微妙な表情のまま頷いた。
「まぁ良いや。キルもいるからオレの事はギタラクルって呼んでね。」
「・・・・とっさにイルミって言っちゃいそうだからなるべく話しかけないようにする。」
「・・・・うん。それが良いかもね。」
じゃぁ、あんまり一緒にいると気づかれるかもしれないから。と言って離れていったイルミだったが、その直後に現れたピエロには大きな悲鳴を上げた。
いや、こっちに近づいているっていうのは分かっていた。分かっていたけど、あの何ともいえないニヤニヤと歪んだ笑いを口に、顔に浮かべたヒソカと目が合って悲鳴をあげずにはいられなかったのだ。
「ヒ、ヒ、ヒヒヒ、ヒソカ・・・」
「うん。久しぶりだね♥」
「ウン、ひさしぶりダネ。」
基本旅団の仲間は気が置けない間柄だが、ヒソカだけは違う。
それは入団の時一悶着あったのと、彼の性格が原因だ。
「美味しそうだ♠」と言われて、第一印象の”変な人”を”変態”に書き換えたのは出会ってすぐのこと。
それからと言うもの、兄やシャル、マチたちが居ない隙に連れ去られて苛められながら連れ回された事が数回。の中で彼は変質者で最も一緒に居たくない人物だ。
「ここ最近団長のガードが硬くて・・・寂しかったよ♦」
「あ、あはは・・・うん。ワタシモ。」
片言で、それもヒソカから顔を背けながら何とか同意するとヒソカはくつくつと笑っての頬をつんつんと突っついた。
「ヒィッ」
「久しぶりにたっぷり苛めてあげよう♥」
「け、けけけけ結構です!!」
ばし、と勢い良く頬をつつき続けている指を折る勢いで払うと、ヒソカは肩を竦めて「残念☆」と少しだけ悲しげに呟いた。
一次試験が始まって、は大人しくヒソカの隣を走っていた。
否、走らされていた。の腕にはヒソカのバンジーガムがくっついていて中々離れられないのだ。
最初からバンジーガムをくっつけられるような失態をするな、とクロロには怒られてしまいそうだが、いかにとも言えど、ヒソカの手からかるがると逃げられるような芸当は出来ない。
せめての救いはの後ろにイルミが居てくれる事だろうか。
「い、イルミぃー、お願い、一緒に行こうよ・・!」
小声で頼み込むにイルミは仕方ないと言わんばかりにため息をついた。
「クロロからも頼まれてるし、仕方ないね。」
久しぶりに兄のクロロに感謝をしかけたが、そもそもこの状況に陥った現況は勝手にハンター試験に申し込んで家から放り出したクロロのせいである。
「あぁ、肩車をしてあげようか♣」
「いらないッ!」
お兄ちゃんの馬鹿!と心のなかで叫んでいると隣を走るヒソカがねっとりとした声で話しかけてきてはがるると逆毛を立てて威嚇した。
一体ヒソカは自分の事をいくつだと思っているのだろうか。
「子ども扱いされて怒るうちはまだまだ子どもだね。」
後ろからイルミの冷静な声が聞こえてきて、益々の機嫌は下降していった。
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