予想以上の退屈な試験には欠伸を噛み殺しながらイルミと湿原を走っていた。
ヒソカは試験官ごっこをするとかなんとかよく分からないことを言って立ち止まるものだからは嬉々として
置いてきた訳だ。
「さっさと試験終わらせて仕事行かないとね。クロロから聞いてるよ。」
「え。」
言われてはクロロから冬休みの課題と言われていたものを今更ながら思い出した。
そしてそろりとイルミを見る。
「しばらくハンター試験で拘束されるから、終わった頃には仕事溜まってると思うんだよね。いつもよりタイト
なスケジュールになると思うけどよろしく。」
「・・・私の冬休み・・・・旅行が・・・・」
イルミはこてりと首をかしげた。いつもなら可愛げがあるものの今の姿では全く可愛らしさはない。
「いくつかの国を移動して仕事する訳だから旅行みたいなものじゃないの?」
「・・・イルミって旅行とかいったこと無さそうだね。」
愚痴る相手を間違った。
ようやく見えてきた湿原の終わりには一息落とした。
「じゃ、そろそろキルも来るだろうし、暫く話しかけないでね。」
「はいはい」
まぁ、今のイルミと一緒にいると周りから変な目で見られるのは必至。目立たないのに越したことは無い。
ひらひらと手を振って適当な木の下に腰を下ろし、幹に寄りかかった。
(寒い時こそ南の島行くんじゃなかったのかよ)
(そのつもりだったけど仕方ないじゃん。まぁ、こっちはそんなに寒くないし、当たらずとも遠からず、的な?
)
言いながら自分を慰めるような言い方にはまたため息をついた。
アポロが言った通り、一週間くらい南の島でのんびりと自由気ままにジャングル探検とか海で泳いだり、という
のを期待していたのにコレだ。
足元は湿原を走ったおかげで泥で汚れている。
本当ならバカンスに行っているはずなのに、おかしい。
「お、。相変わらず足だけは早ぇな。」
名前を呼ばれて顔をあげると、キルアが走ってやってくるところだった。
「つーかヒソカに顔面釘刺しの訳わかんねぇヤツに、色物とばっかいてんじゃねぇよ。」
「いや、私も好きで一緒にいる訳じゃないんだよね・・・」
ははは、と笑ってみせると不憫そうな目で見られていらっときたので、立ち上がるついでに足払いをしてやった
。
見事尻餅をつくキルアにざまぁ、と笑う。
「八つ当たりすんなよ、バカ!」
「うるさいなぁ。文句なら一回でも私に勝ってから言いなよ。」
「むかつく!ぜってーいつか泣かす!」
「はいはい」
まるで逆毛を立てる猫のように威嚇してくるキルアだったが、視界の端っこにゴンの姿を捉えて嬉しそうな顔を
した。
ついで、大きく手を振る。
「おーい、ゴーン!」
視線の先を辿ると黒髪の男の子に金髪の男の子。全くの無傷とは言えない二人に、あぁ、ヒソカの遊びに付き合
わされたのかと哀れみの目を向けるとともによく生きていると感心する。
お世辞にもヒソカと対峙して逃げれそうには見えない。
「キルア!あれ、そっちの女の人は?」
駆け寄ってきたゴンに純粋無垢な目を向けられてなんとなく気まずい。
「んー、っていって・・・俺の兄貴の仕事仲間?」
「ただの腐れ縁だよ。」
そうなんだ、よろしく!と挨拶をするゴンとは対照的に、クラピカの方は警戒したような目を向けて軽く頭を下
げた。
(まぁ、試験開始前ヒソカなんかと一緒にいたしな。あとイルミもあんなナリだ。)
(警戒する方が普通か。でもヒソカのせいで警戒されてるかと思うと気分悪い!)
慰めるようなアポロの声も余り意味はなく、は今は視界に入っていないピエロに悪態をつく。
「じゃぁキルア、お姉ちゃんはちょっと一休みしてくるから。じゃぁね。」
「んだよ、そんな歳変わんねぇくせに偉そうにぃッツーーー」
ごつんと拳骨一つおとして去っていくの姿にゴンは目を瞬かせたあと、仲が良いねと笑った。
しばらくすると第二の試験内容が発表され、料理という言葉に怯みながらも1つめの豚については何となくクリ>アし、2つ目の寿司で動きを止めた。
モノとしては知っている。ノブナガが俺たちの故郷の味だ!と一度作ってくれた事がある為だ。
しかしながら、味は微妙だったし、形もぐちゃぐちゃだった為、正解がよくわからない。
つまり、知らないも同然。わかるのは材料だけだ。
「・・終わった。」
とりあえず材料くらいは揃えるか、と魚を捕りに川に向かうと、数分遅れて大量の受験生が追いかけてきた。
(誰か材料バラしたな)
(んー、誰が知ってるのかな。作り方教えて欲しい。)
そう言いながら枝で作った銛で魚をつき、一足早く引き上げた。
「で、どうするの。」
「あれ、イル・・・むぐ。」
本名を言ってしまいそうになって口を手で塞がれたが魚を掴んでいたこともあって若干魚臭い、
視線で文句をいうとイルミはため息をついて手を外した。
「詳しくは知らないよ。魚の切り身と米とあとなんか海苔?レタスも入ってた気がするけど」
「ノリって何。」
「・・・よくわかんない。」
素直に答えたのに殴られ、はイルミを睨みつけながら何となく寿司なるものを料理しようとまな板に向かっ
た。
その隣でイルミ、そして、反対側にはヒソカがやってきたものだから、やっぱり戻ってきた他の受験者が寄り付
かず、不自然に開いた空間となってしまう。
「ねぇ、味見してみるかい?」
これでいいんだろうか、と自信なさげに作った皿の上の寿司(仮)をチェックしているとヒソカから声をかけら
れて、彼の方を見る。
(あ、コレ絶対違う。)
そう思いながらもは首を横に振った。
「そんなことより早く試験官のとこ持ってきなよ。」
「そうだね・」
も出しに行ける状態だが、ヒソカと一緒にあの長い列に並ぶのは嫌だ。
せめてイルミがいれば、と思ったが彼はまだ試行錯誤している所だし、仕方がない。
ヒソカを見送って、しばらく様子をみても列に並びにいったが、残念なことに満腹だとかよく分からない理
由で試験打ち切り。
周囲の受験者が嘆き、怒るなか、はこれで試験打ち切りならそれはそれで悪くないと一人満足そうに自分で
作った寿司(仮)を口に放り込んだ。
「で、結局受かったのになんでそんなしけた面してんだよ。」
飛行船の中、探検にいくのだというゴンとキルアに連れられてはまたため息をついた。
「だって、試験が打ち切りならさっさと仕事の手伝い終わらせて冬休みの旅行とか企画できたのに、結局続行っ
て・・・」
「さんはそんなにハンターライセンス欲しくないの?」
「うん。別にいらない。」
間髪入れずに答えたにゴンは不思議そうに更に、なんで、と尋ねる。
「ハンター試験はお兄ちゃんからの冬休みの課題なだけで、別に無いと困る訳でもないし。でも変に手を抜いて
落ちたら落ちたでお兄ちゃんに殺されるからさー、ああいう不可抗力で試験終わり!ってなるんだったら大歓迎
だったんだけどなぁー」
またため息をついたにキルアはふんと鼻を鳴らした。
「なんでもいいけどぜってぇ兄貴には俺がハンター試験受けてること言うなよな。」
「言うメリットがない。いわないよ。」
言わなくても知ってるしね、とは言わないでおく。世の中知らない方が幸せな事もあるということだ。