Dreaming

君を照らす光 #23



病院を出ると、すっかり辺りは暗くなっていた。
何だかこの2日間で疲れてしまった。


「良かったんですか。彼女と余り話をされていませんでしたが。」


隣を歩いていた骸さんに尋ねられて私は頷いた。


「うん。何か、他の人達が凄く原口さんと話したがってたみたいだし。」


そう言って、足を止める。ちらりと後ろを振り返ったがここから原口さんの病室は見えなかった。


「原口さんが目を覚ます事が、私の目的だったから。もう良いの。」


病院から目を離して骸さんを見上げる。


「骸さん、ありがとう。骸さんがいなかったら原口さんは目を覚まさなかったかもしれない。」
「クフフ・・・お礼はイタリアにいらした時、デートしてくださればそれで良いですよ。」
「分かった。あ、今日はどうするの?」


骸さんは笑いながら景吾を見た。


さんは景吾君のお宅でしょう?僕もご一緒させて下さい。」


私も骸さんの視線を追いかけて景吾を見ると、彼は不機嫌そうな顔で頷いた。
珍しい。


「構わねぇよ。」


そう言いながらも携帯を開いて家に連絡してる。出たのはきっと柏木さんだ。
客間を1つ用意するように言っているのを聞きながら私は骸さんを見上げた。


「帰ったら恭弥さんのこと聞かせて。最近会ってないから。」
「えぇ、構いませんよ。」


そう微笑む骸さんはそこらへんの女の人なんかより綺麗だ。
そうして足を止めると、目の前には黒い車があって、骸さんがキーを見せた。


「僕が運転しましょう。」


ついでに少しドライブでも如何ですか、という骸さんに景吾がすぐに首を横に振った。






















1日という短い滞在のあとイタリアへと戻っていった骸さんを見送った私は翌日からまた学校生活に戻った。
原口さんが意識を取り戻したという話は月曜の朝いち、ホームルームの場で発表され、1週間の様子見を経て学校に復帰するとのことだった。

その日のお昼は桃城君と越前君にお昼に誘われて、一昨日の話を少し、聞かれたり(骸さんについてだ)、今度部活が休みの時ストリートテニスに行こうと誘われたり。
あんまり仲が良くなかったテニス部の人たち(不二先輩や菊丸先輩)からは謝られ、それ以外の交流のあまりなかったテニス部の人たち(手塚先輩や乾先輩)からは何故か感謝され、それ以降すれ違うたびに声をかけられるようになったのには少し驚いたけど、まぁ、うん、そこまで嫌な気分はしなかった。


「ねぇねぇちゃん、そろそろ先輩達の卒業に向けて準備しようと思ってるんだけどね。」


そして、復帰後の原口さんとの関係はと言うと、多分そこそこ仲の良い友達、なんだと思う。


「協力してもらっても良いかな。」
「内容による。」


いつまでたっても冷たい言い方しかできない私だけど、原口さんは嬉しそうに笑って、計画を話し始めた。
そもそもテニス部の3年の送別会に私が出て当事者である人たちが喜ぶのか甚だ疑問だった。


「お、久世、出てくれるのか。ありがとな!」


通りかかった桃城君が会話に入ってきて、此処はああしたいだとか原口さんに注文をつけ始める。
それを話し合いながらノートに落としていく様を見て、その中に自分もいることを感じて、何だかむず痒い。


「場所どうする?」
「んー、どうしよっか。結構大所帯だし。」


かと言ってあんまりお金もかけられないし、とつぶやく2人に、私は家に宴会用の広間がある事を思い出した。
恭弥さんがそういうの好きじゃないからずっと使われてないけど、まだ使うのは先だし、ちょっと掃除すれば使えるだろう。


「料理とかの準備、できるかは分からないけど場所だけなら提供できるよ。」
「え、良いの?」
「結構大人数だぜ?あ、もしかして跡部さん家か?」


だったら納得だと言わんばかりに尋ねる桃城君に私は首を横に振った。


「景吾の家程立派じゃないけど、うちも一応大人数集まれる広間あるから。ずっと使ってないからちょっと掃除しなきゃいけないけどね。」


私の言葉を聞いて固まった2人にどうすれば良いか分からず身を竦めて見せると、すぐに2人は口を同時に開いた。


「えー!凄い!そうなんだ。あ、じゃぁ今度見ても良い?そういえばちゃん家行ったことないし、行ってみたい!」
「マジかよ!まぁ、そら、跡部さんの幼馴染だもんな。すげぇ!」


きらきらした視線を2つ受けて、困惑しながらも頷くと、早速明後日の放課後(部活が休みらしい)行くと言われた。
一応3日に一回お手伝いさんが来て家を綺麗にしていってくれているが、その中にあの広間は入っていなかったはずだ。
今日にでも簡単に掃除機くらいかけておこう。


『へぇ、あの広間を使うの?』


一応恭弥さんに確認を取ると、意外とすんなり許可が取れた。


『ならその日はうちの財団から人を何人か寄越すよ。料理人も手配するから食事に関しては何も準備いらないよ。どんな食事の内容にするかは今度会って打ち合わせると良い。』


珍しく協力的だ。いや、協力的すぎて逆に怖い。
が、それを素直に伝えると機嫌を損なうのは必至だ。


『・・・何?』


いいあぐねていると、それに気づいた恭弥さんが怪しむように尋ねた。


「あ、いや。あの広間の用途なんて人を一杯呼ぶくらいしか無いから、てっきり嫌がるものだと思ってた。」
『あぁ、そういうこと。まぁ、確かに歓迎はしないけど、別に僕の見えない範囲で群れるんなら文句は言わないし、親って奴は子どもがそういうことしたいって言ったら手を貸すものだろう?』


思いがけない返答に、私は目を瞬かせた。


『今まで、がやりたいことに手は貸してきたつもりだけど、君、あんまりそういうこと言わないし。』


それは、恭弥さんがいて、景吾がいて、あとディーノさんとか骸さんとか柏木さんとかがいて、なにかしたいって欲求が無いほど私のことを、面倒見てくれてたからだ。


『これは僕のエゴだ。は気にしないくて良い。』
「エゴ?」
『最近景吾の所に世話になりっぱなしだし、気を抜けば跳ね馬や六道が君を構い倒すし。君の保護者は僕だろ?』


当たり前の事を聞かれて思わず頷く。恭弥さんに見えやしないのに。


『・・・もう少ししたら一段落する。正月は日本に戻るから暫くそっちで過ごして、春休みになったらこっちに来なよ。』
「うん。分かった。」


思えば、今回、恭弥さんが居ない期間は長い。1年近く、ほとんどをイタリアにいるなんて、初めてかもしれない。
そして最後に会ったのが三者面談の時だからもう半年近く会っていない。


『・・・あぁ、今行くよ。煩いな。』


携帯を少し離して喋ってるんだろう。少し遠くに恭弥さんの声が聞こえてきた。


「ごめん。長く話すつもりは無かったんだけど。」
『いい。また電話しなよ。』
「うん。ありがとう。」


電話を切って、今更ながら、久しぶりに恭弥さんと話した事を思い出した。
恭弥さんが、久しぶりに帰ってくる。
浮足立ったまま、私は景吾の家に帰ろうと駅へ向かった。


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2014.09.20 執筆