Dreaming

君を照らす光 #13



傷は勿論完治とはいかないが、学校を休む程ではない。(昨日の入学式・始業式は休んだが)
身支度を終えたは、治りかけの傷とギプスのせいで滑らかに歩けない足に苛々しながらも家を出た。
怪我の関係上、1階の部屋を一時的に使わせてもらっているから家の中を過ごすには問題は無い。
それが外となるとそうは行かない。


「おはようございます、さん。」


外に出ると柏木がロータリーにつけている黒いマイバッハの後部座席を開けて待ち構えていた。
景吾は朝練のため既に家を出ている為、車に乗るのは1人。
いつもなら学校の近くまで送ってもらってそこから歩いたり、時間があれば送迎は遠慮するところだが、この足では有り難い。


「おはようございます。」


素直にそう返して柏木の手を借りながらは車に乗り込んだ。


「松葉杖は一応トランクに入れていますが、入用ですか?」
「あぁ・・・いえ、邪魔なんで良いです。ありがとうございます。」


すぐ動き始めた車の窓から見慣れた景色が移り変わっていくのを眺める。
医者の話では今月中はギプスが取れないとお墨付きを貰っている。
動きにくいから勝手に外した事があったのだが、こっぴどく叱られた(医者からだけではなく、景吾からも)為、忌々しいとは思いながらも暫く付き合ってやるか、と息をつく。


「ですが、校内の移動が心配です。エレベーターは着いていませんでしたよね?」
「・・・そうですね。」


よもや、誰か学校に付けるなんて言うのではないかとびくびくしながら返すと、それが分かったのか、柏木は苦笑する。


「教室まで僭越ながら私がお送りしましょう。本日は移動教室はありませんし、体育の授業中は教室で待たせて頂けるよう、掛け合います。」
「いや、大丈夫。」


バックミラー越しに笑顔の柏木と目が合う。


さんの大丈夫程信用出来ないものはございませんので。また、これは景吾様から申し付けられている事でございます。」


ふてくされたように少し乗り出した体を座席にぽすんと預けた。
景吾の命令ということは、相当の理由が無いとやめて貰う事は出来ない。


(痛いのは、我慢できるんだけどな)


本当にギプスって不便だと内心悪態を付きながらも良い理由が見つからずに嘆息すると車が止まった。
校門の側に停められた車内から外を見てみると、人がまだまばらな事にほっと胸をなでおろす。


「階段までは歩きます。」


差し出された手を取りながら言うと、柏木は困ったように眉尻を下げた。


「時間はあるし、大丈夫。」
「そう言っても、朝から無理をなさると、後々支障があるかもしれませんよ。」


引き上げられて立ち上がる。


「それくらいで音を上げるような軟な体してないです。」
「そうかもしれませんが、数週間碌に動いてないでしょう?2年に上がられた初日、それも朝から無理をなさるのには了承しかねます。」


ピシャリと言われて、はまたひとつため息を落とした。
柏木が自分の事を心配していてこう言っているのは分かっている。


「・・・分かりました。お願いします。」


ここで押し問答しても仕方が無い。恥を忍んで頷くと、柏木は車に鍵をかけてを抱き上げた。
荷物も勿論器用に持って。


(この前も、景吾にこうされて此処を歩いたばっかりなのに)


恥ずかしさに顔を顰める。人が少ないとは言え、周りにいる人達からの視線は痛い。
しかし、それほど懸念したような声が聞こえて来ないのは、恐らく柏木がびしっとスーツを着て平然と歩いているからだろう。


「あんな人、うちの教師にいたっけ?」
「え、でも、あんな格好良い人いたら、覚えてると思うけど。」


面食いじゃん、うちらって。と言って笑っている声が聴こえる。
よく一緒にいるのが、景吾や恭弥、そして鳳にジロー、宍戸ということもあって、今まで気にした事が無かったが、言われてみれば整った顔をしているかもしれない、と柏木の顔を盗み見た。


「どうかしましたか?」


視線を向けられると当然目が合う。
少し驚いたような顔をしている柏木には苦笑した。


「さっき、女の子が柏木さんの事格好良いって言ってたから、言われてみればそうだなぁって。」
「・・ありがとうございます。」


面食らったような顔をした後すぐに笑って返す柏木は、こういう不意打ちに、流石、慣れているらしい。
























教室に入ると、既にそこには数名の生徒が居て、各々机に向かっている。
入ってきたを見てぎょっとするものの、目が合った生徒には柏木が微笑んで返す。
前から意外と状況に意外とゴリ押ししてくる人だとは思っていたが、笑顔で人を黙らせるのも得意らしい。


「では、教員の方に、話を通して来ます。」
「ありがとうございます。・・あ、結果はメールで、良いですから。」


コレ以上目立つのは御免だとばかりに言うものだから、柏木は「かしこまりました」とだけ返して一礼すると教室から出て行った。


「雲雀、学校に来て大丈夫なのか?」


朝練が終わって自分の教室に向かっていたのだろう。テニスバッグを肩にかけて歩いていた桃城はに気がつくと、がらりとドアを開けてに声をかけた。


「はい。もう大丈夫です。」


少し離れた場所から声をかけているため、声が大きい。


「って、そうは見えねぇけど。」


彼の視線は見えているギプスを捉える。


「うるせぇ・・・さっさと自分のクラスに戻れ。」


その後ろから、と同じクラスらしい海堂がクラスに入ってくる。


「んだよ、マムシ。」
「やんのかコラ。」


喧嘩し始めた2人にあきれて、息をついた所で、机の上に置いている携帯が光る。
メールは柏木からで、体育の時間教室で過ごす事を了承してもらえたということと、放課後教室まで迎えに行くからくれぐれも動かないことと書かれてあった。
柏木のメールに返信したり、景吾に文句のメールを送ったりしているうちに、教室内の人口密度が高くなってくる。
視界にちらちら入る生徒はほぼ見たことが無い生徒ばかり。


「よっし、皆揃ってるなー」


しかし、担任は何の因果か一年の時と同じ教師。


「今日からしっかり授業始まるから、気ぃ引き締めてけよー。」


言っている本人が気を引き締めていない気がしたが、は意に介さずに文庫本のページを捲った。


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2014.02.27 執筆