Dreaming

これが私の生きる道 #29

サソリの死後、はイタチと鬼鮫と行動を共にしていた。
別にやりたい事は無かったし、別に暁のメンバーでは無いからやらなければならない事も無いし、何だったらいつ死んでも良いとまで思っていた。かといって毎日枕を涙で濡らす事も、酷く塞ぎ込む事もない。その危うさにイタチは危機感を覚えていた。
自分の寿命は自分が1番分かっている。いや、もしかしたらここ最近自分の身体の治療をしているの方が分かっているかもしれない。そんな自分が死を迎えた後、彼女はどうなってしまうのか、と。
今、のそばにいて彼女をこの世に引き止めているのは自分くらいだ。出来ればナルト達の所へと行って欲しいが、彼女が素直に従うとも思えなければ里抜けという罪を犯した彼女を簡単に里に戻せるとも思えない。

「頼みがある。」

彼女にこれから起こりうることを打ち明けるのは、苦渋の選択だった。誰にも、この事は打ち明けるつもりなど無かった。
それでも、イタチには、この少女が血を分けた妹のようで、どうしても守りたくて、重い口を開いて、卑怯な願いでこの世に縛り付ける方法しか思いつかなかった。

「俺がもう永くは無いのは、分かるな。」

は、寂しく笑って頷いた。涙はない。

「俺はサスケにこの目を遺す。だが、流石に俺も自分で自分の目を移植するのは無理だ。」

そこまで聞いて、は彼がなにを言うのかを察した。

「暁の連中は信用できないし、横槍が入って貴方の身体が持ち去られるかもしれない。だから、私に?」
「あぁ。」

くしゃり、とは表情を歪めた。酷い男だ。最愛の人物を失って日も浅いというのに、そんな願いをしてくるなんて。

「その後は、サスケを頼む。」
「・・馬鹿じゃないの?私が大人しく聞くと思う?」
「聞くさ。お前は懐に入れた相手になら甘いからな。」

は大きく息を吐き出した。頼みがある、のくだりの前に既にイタチから彼が一族を皆殺しにして里を抜けた経緯は聞いている。
決して口外できるような内容ではないのに、に伝えたのはイタチが、本当になんとか自分をこの世に繋ぎ止めようとしているからだと感じさせられる。
イタチは多少の無茶なお願いくらいなら二つ返事で頷く程には、数少ない、いや、サソリも両親もいなくなった今となっては唯一の大切な存在だが、にも譲れないものがあった。

「・・・分かったわよ。」

だが、それを飲み込んで、取り敢えずは頷く。

「悪いな。」
「責任持って、貴方の目はちゃんとサスケに移植する。でもその後までは約束できないからね。」

そう言っては立ち上がった。イタチの死期は近い。準備すべき事は多いのだ。

「少しの間は別行動になるけど、痛み止めは1日3回まで。薬は朝昼晩ちゃんと飲んでね。」
「お前はたまに母親みたいになるな。」
「誰かさんが自分の体を省みないで無茶ばっかりするからじゃないの?」

棘を含ませて言うと、イタチは肩を竦めた。












地面は抉れ、酷い有様だ。巻き添えをくらい掛けてヒヤリとしたが、2人が倒れ込んだ後ゼツが姿を消すのを見届けてはイタチの側まで念で移動した。
素早く器具を広げ、2人の体を平行に並べる。

「神威はちゃんと周りを警戒しといてよ。10分もかかんないから。」
「りょーかい。」

急がないとマダラが到着してしまう。何度もシュミレーションした目の移植手術。元々そんなに難易度も高くない為、は淡々と進める。
宣言通りサスケに移植し終わるまで6分。培養液に入れたサスケの目を手に立ち上がったところで空気が揺れた。

!」
「分かってるわよ!」

は、サスケの目の入った瓶を神威に放ると彼はそれを咥えての影の中に潜り込んだ。
時空忍術だろうか。音もなく姿を現した仮面の男は最後に遠目に見た時のような軽薄な空気を一切無くして、別人のようだった。知っている。彼はトビではなく、マダラだ、と。

「・・お前は、サソリの部下だったか。最近はイタチの治療にあたっていたようだが。」
「ええ、彼に目の移植を頼まれてて。」

それにマダラは目を細めた。はマダラがすぐに仕掛けてくる様子がないのを感じ取ると、イタチのそばにしゃがみこんでその閉じられた瞼をそっと撫でた。

「移植したのか。」
「ええ、そうよ。貴方は信用できないんですって。」

にっこりと微笑みながら言うに、マダラは面白そうに笑った。はそれを目の端で捉えながら、イタチを抱き抱える。

「面白い。お前、暁に入らないか。」

まさか勧誘されると思わなかったのか、は驚いたように目を丸くしたがすぐにクスクスと笑い始めた。

「やり残している事があるから、遠慮するわ。」

その言葉が言い終わるか、終わらないか。の姿は何処にも無かった。
の両手はイタチを抱えていた為塞がってたし、何も怪しい動きは見せなかったと言うのに、彼女はどこに行ってしまったのか。
益々、興味がそそられる。

「イタチの体は持ち去られたか。まぁ良い。」

ひとまずサスケを回収して、こちら側に引き込んでからもイタチの遺体も探し出せば良い話しだ。さらには、目の移植が済んでいるのであれば、最早イタチの遺体は不要だ。
サソリにデイダラ、そしてイタチが抜けた穴は大きいが、新しい駒として有力そうな人物を思いがけず見つけた。懐柔出来るか怪しいが少しくらいなら手をかける価値はありそうな人物だ。

「さぁて、行くとするかな。」

マダラはサスケの体を担ぐと、その場から姿を消した。













イタチは子供特有の高い、鈴の鳴るような声に瞑っていた目を開いた。

「もう、イタチ。聞いてた?」

目の前には幼いがいる。これは、まだアカデミーに入る前の彼女だ。本人に言うと拗ねてしまうがやはり可愛いな、とイタチはその頭を撫でると呆れたような顔をしていたは眉をしかめた。

「悪い、何の話だったか」
「だから、今度サスケを連れておいでって言ったのよ。」
「・・いいのか?」

驚いて確認する。サスケが来れば同い年ということもあってに壮絶な対抗心を燃やすだろう。それが嫌でいつもサスケが来ると音もなく姿を消していたというのに。

「いつまでも逃げ回ってても、ね。それに貴方の弟なら、まぁ、面倒を見てあげてもいいかなって。」

照れ隠しにそっぽを向く彼女が、本当に可愛くて、イタチは頬が緩むのを感じた。

「あぁ、今度連れて来るよ。」

これは夢だ。分かっている。幸せな、夢だ。
涙が溢れそうで、イタチは上を向いて強く目を瞑った。

「泣かないで、イタチ。」

そのの声に違和感を感じた。驚いて目を開けると、目の前には大きくなった、そう、最後に会った時のが立っている。

「大丈夫。きっと、またサスケに、会えるから。」
「え?」

がイタチを抱きしめる。イタチは驚いたままの旋毛を見下ろした。彼女の体温が暖かい。途端に眠気が襲って来る。

「おやすみ、イタチ。」

ブラックアウトする直前、の声だけが耳に残った。



浮上する意識。指先が無意識のうちに動くが、それは酷く強張っていた。ぎしぎしと音がなりそうな程だ。ついで襲って来るのは体のあちこちの痛み。

「う・・」

喉も掠れている。何が起こっているのか、状況が把握できない。目を、開かなければ、と思ったが、目は何かで覆われていて、目がうまく開かない。

「あっ、目が覚めましたか!?」

ついで聞き覚えのない女性の声。イタチは悲鳴をあげる体を無視して、体を起こそうとすると、女性が悲鳴をあげて駆け寄ってきた。


「イタチさん!貴方全治3ヶ月ですからね!?まだ起き上がるのは無理です!」
「・・誰だ」

冷たい声に、女性が体を竦ませるのを感じた。

「俺は、何故生きているんだ。サスケは、は・・」
「その説明はアタシがしよう。うちはイタチ。」

イタチは乱暴に目を覆う何かを取り払った。途端に、飛び込んでくる光が眩しくて、目を瞑る。

「こら、乱暴にするな!まだ移植手術から日が経ってない。大人しくしていろ。」
「移植手術・・?俺の目に?」

混乱しながらも、イタチは薄っすらと目を開けた。ぼやけている視界に、女性が2人うつる。

「ああ、そうだ。アタシはに頼まれて、うちはサスケの目をお前に移植した。2週間程前の事だ。」
「貴女は・・五代目、火影・・?」

イタチの混乱は最高潮まで達していた。なにが、どうなって、こんな事になっているというのだ。
なぜ、自分が抜けたはずの木の葉の人間に介抱されているというのだ。

「ひとまず落ち着け。シズネ、水を飲ませてやってくれ。」
「は、はい!」

豚を抱えた女性はシズネというらしい。イタチは混乱する頭を抱えた。
どうやらこれはの仕業らしい。ならば彼女は一体どこにいるのか。

「ど、どうぞ。」

ぷるぷると震える手で水の入った湯呑みを差し出されると、イタチは少し迷った後に受け取ってそれを口に含んだ。飲み込むと咳き込んだが、しばらくすると落ち着いてもう一口水を飲み込む。
それを見て2人はほっと胸をなで下ろすと、イタチの傷を確認し始めた。

「経緯は後で話すが、あと2ヶ月と少しは動き回るなよ。折角助かった命なんだ。大事にしろ。」

それだ。自分の記憶が正しければ、助かるだなんて万に1つもあり得ないのだ。

「シズネ、私に茶を、イタチにはそうだな。経口補水液を。」
「分かりました。」

イタチはすぐにでもいくらか質問したかったが、ぐっとこらえて目の前の綱手を静かに見つめた。拘束もなく手厚く手当てをされている、ということは綱手は全てを知っているということなのだろう。一度捨てた命だ。どうなろうと別に構わないが、サスケとの事だけが気にかかる。
それが分かっているのか、綱手はため息をついて重い口を開いた。


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2017.06.01