全く人使いが荒い。
私は使いっ走りじゃ無いのに。
心の中で盛大に悪態を付きながら角都を探して回る。
大体の見た目と彼らがあたっている任務の概要だけ教えてもらっているが、面識は無いのだから厄介だ。
(私は伝書鳩かって)
恐らく派手に暴れまわっているのだろう。彼らを迎え撃っている忍のうち、彼らが取りこぼした奴らがに刃を向けてくる。
数が多い。舌打ちをしては10巻の巻物を次々と開いていった。
サソリからの注文だ。
『8割は傀儡でやれ。そうだな。10体は使えよ。』
鬼だ。とは思うものの、の傀儡を使用した戦闘経験はそれほど多くはない。
サソリとの稽古を覗けば20にも満たないだろう。
(10体って、むつかし・・!)
思うようにいかない状況にいつもよりも険しい顔をして傀儡を扱う。しかし両手がふさがっている為、本体を狙われると少し反応が鈍る。
避けながらも10体の傀儡の動きを止めずに足元の石を蹴りあげその石をオーラで強化してを狙ってきた相手に向かって蹴りつける。
それを食らってくれる程甘い相手では無かったが逃げこむ先を予想して傀儡の背中のカラクリを作動させて追撃する。
『メンテ面倒臭ぇから傷つけんなよ。』
もう一つ付けられた注文に青筋が浮かぶ。
「ん?何だアイツ。おーい角都ゥ!変な奴いんぞーって・・・アレ?」
いかにも学がなさそうな声が耳に届いてはちらりとその主を見た。
銀髪にはだけた胸元。
(”銀髪の馬鹿そうな変態が飛段だ”って言ってたわね)
暁のマントも着てるし、間違えないな。そう内心呟きながらも意外とあっさりと片付かない状況にため息をついた。
よく訓練されている3マンセルが3組。ここまで人数が減ると、傀儡では厳しい。彼らは生き残った忍なのだから、の傀儡のレベルで同時に相手をするのは簡単ではないのだ。
(面倒な注文つけてくれて、帰ったら文句言ってやる)
一体の傀儡の腕に深々と苦無が突き立てられる。
壊したら大事だ。慌てて一体下げて2体の傀儡を向かわせる。
(頭が混乱する。あぁ、もう・・!)
まだ自分に10体の傀儡を操るのは早い。数体、傀儡を捨ててしまおうか。そう思った時黒い影が割り込んできた。
「テメェ、ジャシン様に何してんだよッ!」
2人の忍を一気に切り捨てた飛段はまだ忍が残っているのにも関わらずを振り返ると、ぐ、と親指を立ててきた。
「ジャシン様、この罰当たりのクソどもはオレに任せろ!」
「・・・はぁ?」
何だ、ジャシン様って。と聞き返す間もなく、三枚の刃がついた鎌を振り回しながら飛段は体勢を立て直した忍が向かって来る中に突っ込んだ。
随分と無茶な戦い方をする奴だ。が、いくつか刃をその身に受けているのにも関わらず動きが鈍らない飛段には舌を巻いた。
(純粋な体術で言えば負ける気はしないけど、あの化け物じみた身体は厄介そう。)
分析しながらもも2体の傀儡を操る。2体まで減ると精度は増して、先ほど程苦戦も無く2人の忍を地面にたたきつけた。
「てめぇはよぉ、あの方を誰だと思って刃物向けてんだ?あぁ?」
何だか良く分からないがキレながら残った忍を痛めつけている姿を傍観しながら傀儡を巻物に戻しているともう一人、暁のマントを着た長身の男が現れた。
十中八九”角都”だろう。
「・・・貴様が噂のサソリの弟子か。」
「・・・まぁね。貴方が角都?」
頷く角都には懐から書状を取り出した。
「サソリからよ。」
「・・・・」
無言で受け取った角都はすぐにそれに目を通すと、すぐに書状を燃やして炭に変えた。
さて、角都が書状を見た時点での任務は終わりだ。さっさと帰ってしまおうと神威を呼びだそうとした所で、迫り来る物体に気づく。
「ジャシン様!!!」
飛段だ。上空に飛び上がったは先ほどまでの居た位置に飛び込んできた飛段を背中から蹴り飛ばした。
自然と向かう先は角都になってしまったがそれを避けない彼ではない。
避けるだけではなく足払いをする角都に見事に飛段は尻もちをついた。
「なにすんだよ角都!」
「煩い、黙れ。」
同感だ、とばかりには角都の隣で頷いた。
「って気安くジャシン様の隣に立ってんじゃねぇぞ角都の癖にッ」
先ほどから出てくる”ジャシン様”というキーワード。は話の分かりそうな角都に説明を求めた。
それが分かったのか、角都も大きなため息を付きながら口を開く。
「こいつはジャシン教という邪教にハマっていてな。その教祖がジャシンという女らしいが・・」
「へぇ、随分と若い教祖サマがいたものね。」
「ジャシン様の幼少時代にそっくりだ。お前、じゃなかった、貴方は生まれ変わりだろ!」
敬語が使えないのだろう。母国語が不自由で、よく分からない宗教に陶酔した頭の悪い奴という認識をしたは顔を引き攣らせて後ずさった。
「オレが熱心な教徒だからオレの元に降りてきてくれたんだよな。くゥー!!教徒冥利に尽きるぜ!」
「・・・飛段、いい加減にしろ。引かれてるのが分からんのか。」
「惹かれてるだと!?」
都合の良い方に漢字が変換されたらしい。涙ぐみながらなおかつ頬を染めて見つめられて、は角都の後ろに隠れた。
「・・・任務も終わったし、私、サソリの所に帰らなきゃ。」
角都を盾にしながらじりじりと後ろに下がりながら、神威を呼ぶ。先ほどから離しを聞いていたのだろう、のそのそと出てきた神威は面白そうに喉を鳴らした。
「サソリだァ?んでそんな奴のとこなんか・・一緒に行こうぜ!あんな奴放っとけよ。」
「・・・悪いけど、私馬鹿って嫌いなのよね。」
「同感だ。」
大人しく盾にされている角都が深い溜息と共に頷いた。しかしそれと同時にの観察も続ける。
サソリが弟子を取ったという話は暁の中では有名な話だったが、実物を見たことも無ければその性別、歳さえも聞こえてくることは無かった。
(10代前半といったところか。それにしては良い動きをする。)
少ししか見えなかったが傀儡を使った戦闘も、まぁ、サソリに比べれば見劣りはするが悪くはなかった。
「オイ、角都。ジャシン様をそんな目で見んじゃねぇ!」
「え、貴方達って変態コンビなの?」
「そこの馬鹿と一緒にするな。」
裏切られた、という目で角都を見ると彼は心底不快そうに眉を寄せた。
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