Dreaming

これが私の生きる道 #23



サソリがふらりとアジトにやってきたのは丁度が里を抜けて2日目の夕方だった。
呼び出された、と不服そうに神威が姿を消して半日後のことだ。
サソリが神威を呼び出すのは移動手段として使う時だけであるため、サソリが今日来ることを予測していたは大した驚きもなく出迎える。


「よォ。里を抜けた気分はどうだ?」
「どうって・・・窮屈さが無くなったくらい、かな。」


肩を竦めて見せると、サソリは相槌を打っての正面に腰を下ろした。


「2週間後に土の国で任務がある。1週間後に出発するつもりだ。」
「ふーん。それまで何するの?」


その質問を受けて、サソリが浮かべた嗜虐的な笑いに、は聞くんじゃなかったと即刻後悔した。


「そりゃぁ、お前。修行に決まってんだろ。言っとくが念が無けりゃお前は半人前だからな。」
「あぁ・・・そ。」


半人前、という言葉に青筋を立てるものの、今までの修行の中で1度たりともサソリに勝ったことの無い身としては甘んじて受けるしかない。


「オイオイ、念が無けりゃっつっただろうが。」


静かに怒るを頬杖をついて面白そうに眺める。


「それ、フォローしてるつもり?」
「まぁな。」


調子が狂う。いつもはフォローなんてしないくせに。


「明日は朝6時から始める。さっさと寝ろよ。」


そう言って立ち上がると、サソリはの頭を乱暴に撫でて自室へと向かった。
なれないフォローをしたり頭を撫でるなんて事をしたり、らしくないことばかりが目に付いては眉を寄せた。

変なものを食べたのだろうか、と思うが、彼は食事に影響されない体だし、とうとうボケたかと思ってもまだボケるには早い。


「・・・・怖っ」


身震い一つして、も立ち上がった。























サソリは存外に機嫌が良かった。
神威を迎えに呼びだしたのがついさっき。普段は移動に神威を使う事は余り無いが、予想以上に自分自身が人生初めての弟子がようやく手元に来るのが嬉しいのか、気持ちが急く。


「何だよ、随分機嫌良いな。」


サソリを背に乗せている神威もそれを感じ取ったのか、訝しげに尋ねてくるものだから低く笑った。


「明日から何をしてを苛めてやろうか考えてたら機嫌も良くなる。」
「ははーん。成る程な。嬉しい訳だ。」


虎の癖して表情豊かな神威の表情は今見えないが、にやにやと笑っていることだろう。


「まぁな。手塩にかけ・・・ちゃいねぇが、一応俺の初弟子だ。あいつは使える。」
「おーおー、はこれからこき使われんだろうなァ。可哀想なやつ。」


口ではそう言いながらも、相変わらずサソリは素直じゃない、と内心呟く。


「最近碌に動いてねぇから扱き甲斐があんじゃねーの?」
「そりゃ楽しみだ。」


喉の奥で笑って神威は大きな岩を飛び越えた。
もうアジトに近い。
いつもはもう少し警備の厳しい国境も今は手薄だ。やはり木の葉崩しで受けた痛手は相当なものらしい。


「そういや、は大蛇丸と接触してねぇんだろうな。」
「あぁ。」


はこの世界では異質。その存在が大蛇丸に露呈すると変な介入をされかねない。
大蛇丸とが接触しそうになったら回避しろ、と神威に言い含めていたが、その必要は無かった。は木の葉崩しの際もわれ関せず、引きこもりを決め込んでいたのだから。


「中忍試験も見に行かなかったし、必要最低限しか外に出てなかったからな。あぁ、でも珍しく面倒見良く修行を手伝ってやってたが。」
「修行?」


ようやくアジトのある森の中に足を踏み入れた。
岩場を移動していた時とは違って比較的平坦な道に、振動が和らぐ。


「うちはサスケだよ。知ってんだろ。」
「イタチの弟か。」
「そいつも里を抜けたみてぇだけどな。」


つまり大蛇丸の所へ向かった、ということだろうか。
大蛇丸が余計な力をつけるのは喜ばしいとは言えないが、それを考えるのはリーダーの仕事だ。
彼のことだからもう既にその情報は行っていることだろうが、アジトについたら一応伝えておくかと心にとどめる。


「もう着くぜ。」


その声に、サソリは印を組んだ。























けほ、と口の中の唾液を吐き出すと、そこに血が混じっていないことを認めてほっと胸を撫で下ろす。
怪我をしたら、次、どんな新薬を使われるか分かったものじゃない。


「オイ、今、余計な事考えただろう。」
「まさか。」


今ので骨は折れなかったが、夕方には青あざになるくらいの痛手は負った。
手当てを受ければ綺麗に治るが、右の鳩尾辺りに違和感は暫く残るだろう。
次は食らいたくない、そう思っているとサソリは印を組んだ。


「!」


さらさらと地面の砂が蠢き始めて、跳躍すると木に飛び乗る。
一面の砂が浮いてに向かって飛び掛ってきた。


「え、ええ?」


網のように覆いかぶさろうとするそれにどうして良いのか分からず、は唯逃げる。
相手は砂だ。数が多すぎる。


「おいおい、逃げてちゃ終んねぇぞ」


そして正面から飛んでくる複数の光る何か。
千本だ。
咄嗟に印を組んで水分身に差し替えるものの、すぐに本体の居場所はばれて、サソリ自身が棒苦無を持って襲い掛かる。


「変わり身で逃げるんならもっとばれないようにしろよ。」
「サソリが鋭すぎなの!」


背中に背負っていた刀を引き抜いて苦無を弾く。
が、苦無を持っていない方のサソリの腕がかぱりと開いて、は顔を引きつらせた。
これはアレだ。飛び出す系だ。
避け切れない。と重症を覚悟した彼女だったが、腕から噴出されたのは、白いガスだった。


「・・・なーんてな。唯の麻酔ガスだ。」


ほっとしたからか、それともガスの効果か、どっと身体から力が抜けて、はその場に座り込んだ。


「流石に此処でいつものやつぶっ放す程俺も鬼じゃねぇよ。」
「麻酔、も、結構、ひど・・」
「あぁ?聞こえねぇ。」


やくざだ。























今日からありがたい人傀儡の講義に移る。とありがたくもない言葉を頂いたのは今朝のことだ。
久しぶりのサソリの特訓でぐったりしていたは朝早くからたたき起こされて、じろりとサソリを睨みつける。


「勘弁してよ。昨日の今日でこんな早く起きれないわ。」
「なんだったら、眠気覚ましを処方してやろうか?」
「・・・・年寄りは早起きって本当みたいね。」


その瞬間、苦無が脳天目掛けて放たれ、それを持っていた本で受け止めた。


「お前、俺と年変わらねぇだろ。」
「あらやだ。女性に歳の話するなんてナンセンスよ。」
「・・・いいから始めるぞ。」


そう言ってサソリは巻物を手に取ると、ソレを開いた。
出てきたのは人型の何かで、まさかサソリが模型なんてものを出すなんて考えられない。


「まさか、それって・・・」
「あぁ、この前の任務の時殺した奴の死体だ。防腐処理はしてあるが、次はお前がやれよ。」


グロテスクなものが苦手か否かと問われると、最早慣れてしまって苦手とは言わない。
が、その死体を弄繰り回すとなれば話は別だ。


「ね、ねぇ。それ、素手でやるの・・?」
「それ以外何があんだよ。傀儡使ってやれるほどの腕持ってねぇだろ。」


ついで、サソリが取り出したのはメス。


「ほら、1回しか見せねぇからよく見とけ。」


すぐさまは部屋を飛び出そうとしたが、それを見越していたのかサソリが部屋に置いておいた傀儡が2体(それも捕獲用)彼女を取り押さえ、結局は見たくも無い人傀儡の作り方なんてものを一部始終見る事となった。


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2013.11.30 執筆