地図と、目の前の店を見比べて、はあれ、と声を漏らした。
次いで、身長的にの腹ぐらいの位置に頭のあるアポロも同様だ。
「此処って”最初”に入った店だよな。」
「そーだねぇ。」
頷きながら店に入ると、以前注文を取ってくれた女子高生が目があった。
「いらっしゃいませ・・・あ。」
「こんにちは。」
にこりと笑って出迎えたかと思えば、彼女は目が合うと少し固まる。
それに内心首を傾げながらもが店の中に足を踏み入れると、それを追ってアポロも中に入った。
「日本には慣れましたか?」
「あぁ・・はい。まぁ。」
勧められるままに席につき、メニューを開く。まだひらがなとカタカナしか読めないが、メニューの大半はカタカナだ。
ゆっくりとメニューを読んでいると、目の前に腰掛けているアポロは決まったのか、ぱたんとメニューをテーブルに置いた。
「オレはアイスコーヒーでいい。」
「ふーん。」
アポロが経口で摂取したものは吸収されることはなく、消滅する。
味だっていまいち分からない。分かるのは成分だけだ。
つまり、何が言いたいかというと、アポロに食事や飲み物を与えても無駄だということだ。
だからか特段はアポロの言葉を聞き流してメニューに目を通し続けた。
「よし。」
決まったのか、注文をとってもらおうと顔を上げて見回すと、眼帯を付けた店員、金木が視界に入った。
「おっと。あの変わり種がいるじゃねぇか。」
「その言い方は良くない。」
「そーかぁ?」
笑い飛ばして、アポロはおーい、と金木に向かって手を振る。
「あ。ちゃん、アポロくん。いらっしゃい。」
気づいた金木が、トーカから水の入ったグラスを受け取り2人の方へやってきた。
ことん、とテーブルに置かれた2つのグラスに礼を言いながら、注文を取ってもらう。
「アイスコーヒーとアイスカフェラテ。あとは、サンドウィッチ。」
「今日も変わった色してんな、お前。」
注文を伝票に書いていた金木は、アポロがに続けて言った言葉を聞いてその動きを止めると首を傾げてアポロを見た。
「いろ?」
「おう。色。」
「ちょっとアポロ、余計な事言わないでよ。」
アポロの口を抑えようと手を伸ばすと、彼はそれをひょいっと避けてにやにやしながら続けた。
「今日はこの店、赤いやつばっかだな。で、お前だけだ。赤黒い色をしてる奴は。」
「・・・えっと・・・」
要領を得ないアポロの言葉に金木が助けを求めるようにを見ると、は大きくため息をついた。
「私たち、人のオーラが見えるの。喰種の人達は赤いオーラで一般人は透明なオーラ。で、金木さんだけ赤黒い色をしてる。」
店内に客は少ししかいない。それも全員喰種だ。
一部は驚いたようにを見、一部は威嚇するように目を赤く染めた。
「え?え?」
「あぁ、もう、ほら。アポロが余計なこと言うから。」
その殺気をびしびしと感じ取っては苦笑しながら水をのんだ。
「だってよ、ほら、気になるだろ?お前が気にならなくてもオレは気になる。」
ここまでマイペース過ぎるのも考えものだ。この殺気の中、アポロは頬杖をついてのんびりとぐるりとたちを見ている人に目をやる。
「裏で、話を聞かせて貰えるかい?」
一髪触発。ぴんと張り詰めた空気の中、穏やかな声が店内に響く。
「芳村さん・・」
ほっとしたような金木の声。あぁ、確か店長とかマスターとか呼ばれていた人だ。
そう合点がいって、はこくりと笑顔で頷いた。
「ほんと、すみません。こいつが挑発するような事を言って・・」
「オレが悪いのかよ!」
ぺこりと頭を下げると、納得がいかないアポロが抗議するが、はその頭を押さえつけてぐりぐりと手に力を入れた。
「店長。危険です。」
「まぁまぁ、トーカちゃん。」
その一方で警戒心丸出しのトーカを宥める芳村は、冷静に目の前の2人を分析した。
2人とも、良い意味でも悪い意味でも素だ。
それは、この状況で、仮に芳村とトーカが2人に向かってきても、問題なく迎撃または逃げ果せるという自信があるからだろう。
最初、に会った時も感じたが普通の人間とも喰種とも違う存在に、芳村はどうしたものかと内心ため息をついた。
だが良い意味で取れば、ざっくばらんに本心で交渉可能ということ。更に、様子を見るにあちらに敵意は全くと言って良い程無い。
「では、そうですね・・・コーヒーでも飲みながら、話を聞かせてもらえますか?」
「店長!」
反対だ、と言外に言うトーカに芳村は首を横に振ると、彼女は舌打ちをして「コーヒー淹れてきます」と言い捨てて部屋を出て行った。
「すみません。悪い子ではないんですが。」
困ったように笑いながらソファに座るよう促す芳村に、はソファに腰掛けながら笑顔で首を横に振った。
「結構好きですよ、ああいう子。」
「も昔ああいう感じだったよな。」
「えー、そうかな。」
蜘蛛の仕事やり始めて暫くたった辺り、あんな感じだったぜ。疑わしきは罰せよみたいなよ。と笑いながらいうアポロには相槌をうつにとどまり、芳村を見た。
「えぇっと、で、何話します?」
「金木君との関係、私達喰種をどう思ってるか、まずはそれについてお聞きしても良いですか?」
「僕、ですか?」
芳村の横に腰掛けた金木が自分の名前が出てきたことに驚いたように声をあげる。
「はい。下で、先ほど興味深い話をしていただきましたね。何でも、オーラが見える、と。」
「あぁ、その話。」
「・・・僕も、興味はあります。」
自分だけ赤黒い色をしていると言われたのだ。少し気にしていた金木は頷いた。
「さっき言った通りだ。喰種は赤いオーラ。一般人は透明。で、お前だけ赤黒い。金木との関係が聞きたいっつったが、きっかけは金木のオーラだ。」
「え、そうなの?」
金木も初耳だと聞き返すとアポロは頷いてみせた。
「と公園にいたら変わったオーラの色の奴がいるってんで、気になって話しかけたのがきっかけだ。」
「・・・そういえば、あの時、見間違えかと思ったんだけど、アポロ君はちゃんの影から飛び出してきたように見えたんだけど、あれってもしかして・・・」
ごちん、とアポロの頭にの拳骨が落ちた。
「やっぱ見られてたじゃん。馬鹿。」
「えー、仕方ねぇだろ。がとろとろしてっから。」
やっぱり、見間違えじゃなかったんだと金木が確信したところで、トーカがコーヒーを持って部屋に入ってきた。
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