Dreaming

Diva #32



翌日、正式にレインは旅団を抜け、アジトを去った。
まずはエイジアン大陸に行ってみるらしい。
出て行く前に本をクロロの家まで移動させて行けと言われると、「金取るからね」と冗談を言いながらも本を移動させてくれた。

他の面々はというと、折角だし歌を聞かせてほしいとにせがんだり、メンバー同士で取っ組み合いをしたりして、気が済むと散り散りにアジトから姿を消した。


「俺達もそろそろ行くぞ。」


声をかけられて、ウヴォー、マチ、シャルとトランプをしていたは顔を上げた。
レインに本を移動させて貰う際に、荷物も一緒にクロロの家まで届けて貰った為、持って行くのは小さなバッグだけ。
神経衰弱をしていた面々は、手持ちのカードを数え始め、マチがにやりと「アタシの勝ちだね」と言い放った。


「あーあ、負けちゃった。」
はまだ良いよ。ウヴォーなんて一枚も取ってないんだからさ。」


言われたウヴォーは悔しそうに唸るとカードをぐちゃぐちゃにしてしまう。
それを笑って見ながらは立ち上がった。


「また今度な、。次は別の歌聞かせてくれ。」


ウヴォーは余程の歌が気に入ったらしい。外見から、1番歌とは縁が無さそうに見えるのに。


「うん。3人ともまたね。」


ひらひらと手を振ると、3人とも降り返してくれるのを尻目には振り返った。
クロロは荷物も何も持っていない。あるのは車のキーだけだ。


「クロロもやればよかったのに。楽しかったよ、神経衰弱。」
「俺がやったら1人勝ちだ。つまらん。」


大層な自信だ。どこからその自信は来るのか不思議に思ったが、クロロなら確かに1人勝ちしてしまいそうだ、と思いとどまる。


「クロロの家って遠いの?」


車に乗り込みながら尋ねる。


「・・・半日あれば着くんじゃないか?」


予想以上にかかる。これは長旅になりそうだ、とエンジンをかけるクロロを視界に入れながらシートに身体を沈めた。
































揺さぶられて目を開けると、車は地下の駐車場にあった。
どれだけ寝ていたのだろうか。クロロに悪いことをしてしまった。
そう思いながら身体を起こすと、クロロと目が合う。


「ごめん。寝てた。」
「あぁ、知ってる。随分と気持ちよさそうに寝ていたからな。」


少し怒っているのだろうか。


「・・・冗談だ。怒っていない。」


少し笑いながらクロロはドアを開けた。急いでもシートベルトを外し外に出ると、起きたばかりで力が入らないのか、少しよろめく。


「危なっかしい奴だな。」


ぐい、と二の腕を握って支えられる。
出会った当初はあの本屋に来るにしてはまともそうな人だと思った。
出会って少しすると、酷く頭の切れる厄介な人に認識を改めた。

今は、頼りになる守人。


「どうした?」


じっとクロロの顔を見つめていると、彼は首を傾げて見せた。


「ううん、何でも無い。」


何かが足りない、と思いつつも誤魔化していた日々が懐かしい。
これが、守人と共に在る、ということなのだろう。

それ以上追求して来なかったクロロは車に鍵をしてエレベータへと向かう。
外からマンションを見た訳では無いが、随分と大きいマンションのようだ。
エレベータに入ると1番上の階のボタンを押して、エレベータはぐんぐんと上へと登る。


「うわ、広っ」


部屋にたどり着いて中に入ると、広いリビングが広がっていた。


「お前の部屋を作らないといけないな・・」


呟きながらクロロは手前の部屋を開いて電気をつけた。
自他認める本の虫だけあって、部屋の中には本が乱雑に積み上げられている。
部屋の中央には今回持ち帰った本達で溢れ返っていた。


「・・・他に部屋無いの?」
「あるにはある。」


思わず尋ねるとクロロは隣の部屋を開いた。そして聞いたことを後悔する。
先ほどの部屋よりも物凄い本の量なのだ。


「だが、こっちの方が広いからな・・・明日片付けるか。」


もう一つ部屋があるが、そこはクロロの部屋なのだろう。
リビングには大きなソファがあるから今日のところはそこで寝れば問題も無さそうだ。


「とりあえず飯を頼むぞ。随分使ってなかったから食料も空だ。」


テーブルの上にはデリバリーのチラシがいくつもある。
日付は一年ほど前だ。ということは、それくらいからこの家は使っていないということだろうか。


「適当に頼むからな。」


クロロはそう言って携帯を出した。























ピザとサラダ、チキンがテーブルに並び、クロロはビールを飲んでいる。
その目の前でははジンジャーエールを飲みながらピザに手を伸ばした。


「暫く仕事は無い。明日は掃除するとして・・本はどれくらいで読めそうだ。」


問われて、思案するように視線を彷徨わせながら口の中のピザをごくりと飲み込む。


「読みたいのは最長老の日誌だから、1日か2日で読み終わると思う。」


日誌、というのはキチェスの里で見つけた箱に入っていたものと数年前集落を束ねていた最長老のものを指す。
最長老を現す文様が表紙に描かれている本はざっと見た限りでは4冊。


「そうか。」


クロロもピザを手に取り口に放り込んだ。


「他はゆっくり見れば良いかな。」


クロロが読める字で書かれているものも結構ある。暫くは2人とも本に向き合う時間が増えそうだ。


「そういえば、クロロは何処で生まれたの?」


今日に至るまで怒涛の日々で彼の身の上話まで話が上がったことが無い。
については色々と喋らされたが、不公平だ。と視線で投げかけるとクロロは苦笑しながら口を開いた。


「正直言うと、よく分からないな。俺は、気がついたら流星街にいた。」


聞いた事がある地名だ。


「守人は狼人間とキチェスの血を引いてる。元を辿れば同じ民族なんだろうね。」
「ということは、ゾルディックもか。」


ゾルディックと言う言葉に一瞬呆けた顔をしたが、少し前に襲ってきたシルバを思い出して頷いた。


「うん。あの人は凄く狼の血が濃い。一度話してみたいな。」
「・・機会があればな。」


シルバとは繋がりが無くてもイルミとはある。
頼むことは出来るが、それを了承するかどうかは難しいところだ。
彼とは完全に仕事上の繋がりしか無いのだから。


「それで、ウヴォーさんとかシャルさんとかとは何処で出会ったの?」
「あいつらも流星街出身だ。マチ、パクノダ、フィンクス、ノブナガもな。」


それを聞くだけで、彼らが血よりも強い絆を持っていることが分かる。
少しだけ羨ましい、と思った。


「もういいのか?」


まだ半分ほど残っているというのにフォークを置いたに尋ねると、彼女は頷いた。


「少し、眠い。」


ここに来るまで眠っていたというのに、まだ身体は睡眠を求めている。
緊張の糸が途切れたからだろうか。


「寝るのは良いがその前に風呂に入れ。」


は立ち上がると荷物から部屋着や下着を取り出して風呂場へ向かった。
それを尻目にクロロはビールを呷る。
彼は各地に家と呼ぶものを持っているが、家でくつろぐのは随分と久しぶりだった。


もう一切れピザを手で取りながらテレビをつけると、ニュースでヨークシンが映っている。
デニスとエドガーの屋敷が映し出され、何者の仕業なのか現在捜査中とテロップが流れる。


「・・・ついでに金目の物も盗って来るべきだったな。」


呟いてビールを飲み干した。


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2013.8.5 執筆