Dreaming

Diva #3



最近2,3日おきにやってくるクロロとはすっかり顔なじみになってしまった。
彼が来る度に騒いでいた草花も最近ではすっかり大人しい(嫌な様ではあるのだが)。


「あの本は題名も作者も不明だったが、中々面白かった。恐らく数百年前に書かれたものなんだが、将来文明がどう発展して行くかが書かれているんだが・・・」


はそれにコーヒーを飲んでいた手を止めた。


「確実に俺たちはその本にそって文明を進化させている。」
「読みたい。」


すぐさま返して来たの言葉に、クロロは笑って答える。
今度持って来てやる、と。


「その代わりお前も何か持って来い」
「あー、はい、分かりました。」


何が良いだろうかと考えを巡らせる。
外に出しても良さそうな本は全てここの地下に置いてある。
家にあるのはほぼ外に出せない代物だ。

何と引き換えにしようか、というのが此処最近の彼女の悩みだ。


























久しぶりに通う本屋の空気が明らかに変わっていたと思う。
心無しか軽い身体に、居心地の良さを感じさせるあの本屋。

久しぶりに面白い本(それも1冊や2冊ではない)に出会ったからこんなに満足感を感じているのだろう。
この世に本は溢れているが、彼の知識欲を満たしてくれる本は一握りなのだ。


本屋に向かう足は軽い。


「おはようございます。今日も早いですね。」


いつものようには店先の花壇に水をやっていた。
あまり今までちゃんと見ていなかったが、見間違いでなければ季節外れの花が咲いている様に見える。


「でも、丁度良い所に来ましたね。水やり、お願いします。私コーヒー豆買いに行くの忘れてて・・。」
「・・・いつもの銘柄で良いな?」
「え?」


自分が花に水をやる姿を想像して、無いな、と即座に判断するとクロロはの返事を聞かずに踵を返した。
こうして使われるのも、この店がらみでは慣れたものだ。


それにしても、今まで気づかなかったもう一つの事に、クロロは首を捻った。
前髪から覗いたの額、其処には念で何かが貼られてあったのだ。
何も無い額に見せるためのその細工に、理由を考えたが、あまり興味を持てなかったのですぐにやめた。
人には隠したいことの一つや二つあるものだし、自分だって額の痣を隠す為にこうして白い布を巻いている。


店の近くにあるコーヒーショップでエドモンドのお気に入りの豆とついでにその横にあったチョコレートとブラウニーを買って店に戻る。


「・・・買って来た。」


店の中に入ると、今日はエドモンドだけではなくもカウンター付近で本を読みふけっていた。
この2人は店員の筈だがそれを忘れてはいないだろうか、とは思うものの今更か、と買い物袋に入っていたそれを軽く上げてに声をかけた。


「ありがとうございます。」


袋の中を覗いて、入っていたチョコレートとブラウニーに、は顔をほころばせた。
あれくらいでこう喜ぶのだから何と安い女だろうか、と思いながら椅子に腰掛ける。


「しっかし、お前さん此処最近凄い勢いで店に来てんな。」
「これだけあれば中々読み終わらないからな。」


どうだか、と口の中でエドモンドが呟いた。


「それは?」


視線を落とした先にあった飛行船のチケット。となりの国までのものだ。


「あぁ、今度、にグリーズで本を仕入れて来て貰うことになっててな。」
「へぇ・・」
「ちぃと一人で行かせるのは不安に思ってたところだ。お前、一緒に行って来るか?」


反射的に何で俺が、と答えそうになるが、その前にエドモンドが口を開いた。


「こう毎日毎日タダで本を読まれてちゃ、商売上がったりなんだがなァ・・・。」
「・・・金に困ってない癖に良く言う。」


はっ、と鼻で笑いながら言うが、まぁ確かに其れもそうだ、と他に反論する言葉が出て来なくて、クロロは頷いた。
女と2人旅だなんて御免だと思っていたが、存外に彼女は気に入っているし、彼女から色恋沙汰に発展する気配が全く無いのもこの2ヶ月で分かっている。


「飛行船のチケットは用意しとく。」


チケットの出発日は3日後の木曜。案外すぐだ。























クロロが帰った後、そのことを告げられては思い切り嫌そうな顔をした。
彼女とて別に彼が嫌いな訳ではないが、2泊3日を共に過ごすならば話しは別だ。勿論、ホテルの部屋が別なのを差し引いても。


「いつも俺と一緒だっただろ?今回は俺は行けなくなったしな。お前、一般常識が変な所で抜けてるから1人で行かせるのも心配でよ。」


確かに、一般常識が変な所で足りないのは認めているので、ぐ、とは唸った。


「いいじゃねぇか、荷物持ちが出来たと思えばよ。」
「そうですねー。」


所詮自分は雇われの身、仕方が無い。
それでもぶつぶつと口の中で文句を言いながら閉店の準備を始めた。
そうは言ってもやる事が多い訳じゃ無い。
レジの中身の清算をするのと、OPENの札をひっくり返してCLOSEにするだけ。


「それにしても、店長、クロロさんのこと信頼してますよね。なんで?」


お札を纏めて、金庫に入れる袋に詰め込む。


「あいつとは付き合い長ぇからな。」
「ふぅん・・」


次に小銭も入れて、ノートの今日の欄に金額を書き込んで行く。


「今も悪ガキに代わりはねぇが、昔も相当な悪ガキで、何度か俺も苦い思いをさせられたが・・・ま、俺も今は隠居の身だしな。」


あ、大分いま端折ったな。とは思ったが、長い付き合いの末の今の関係なのは何となく分かった。
袋の中身をエドモンドの目の前に置いて、プレートをひっくり返そうとドアに向かった。


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