白銀の髪に青い瞳。
それは狼人間の特徴の一つだ。とはいってもその容姿の人が全て狼人間という訳では無い。
そもそも、今の時代、純粋な狼人間がいない。その血は薄れ、ほぼその狼人間としては機能しない。
だが、たまに、先祖返りのように狼人間の容貌を持って生まれる人が居る。
其の人たちは狼に転換しないものの、常人よりも強い肉体を持つ。
「・・・あの人、狼人間の血が流れてる・・・。」
じっとシルバを見つめていたはぽつりと呟く。それを拾ったシャルはを見下ろした。
「狼人間?」
「うん。」
頷いて、シャルに下ろすように目で訴えると、シャルは少し迷ったあと、を地面に下ろした。
「彼らは、満月の夜、よく泣いてた。」
空を見上げると、今日は満月。
彼らにとって、今夜は動きやすい日だろう。
「先祖返りなんて、珍しい。」
フィンクスが抑えきれずに飛び出し、土ぼこりが舞う。
は月を見上げた。
耳に入る歌に、シルバは四肢が重くなるのを感じた。
今回のターゲットに見覚えも無ければこの歌に聞き覚えも無い。
それなのに、何処か懐かしさを感じさせる歌は、急速にシルバの闘争心をそぎ落とした。
「なんだァ?急に鈍くなりやがって。」
フィンクスはシルバの異変を感じて、口を曲げた。
「・・・・」
しかし、シルバは視線を一瞬に向けただけだった。
これは手を抜かれているのだろうか。
「気に食わねぇな・・・。」
自分も舐められたものだ、と、手にオーラを篭めた時、木々が波打ち始める。
それは枝葉を伸ばし始め、シルバへと集まり始めた。
縦横無尽に走る枝に、フィンクスは跳躍して後ろへと下がった。
「くっ」
シルバは伸びてくる枝を切り払おうとするが、手が上手く動かない。
「・・・おい、!こりゃぁ、お前の仕業か?」
枝はぐるぐるとシルバの身体に纏わり付き、拘束していく。
念を使った様子は無いのに、次第に力が抜けていく身体に、シルバは久しぶりに危機感を覚えた。
「うん。」
はゆっくりとシルバに近づいた。
「こんなに狼人間に近い人、久しぶりに見た。」
「・・・狼人間?」
先ほどシャルが聞き返した時のように、シルバも低い声で聞き返した。
「・・・数百年昔、満月の夜になると理性を失い、狼のような顔に強靭な身体を持つ民族がいた。それが狼人間。貴方みたいに、狼人間の血が濃く出る人は銀色の髪に青い瞳をしている人が多いの。」
今まで襲い掛かってきた人間に対するには、余りにも警戒心が無いの行動に、は、と気付いたシャルが慌てて駆け寄った。
「!」
「大丈夫。狼人間に近い人は、歌で抑える事が出来る。問題はあの”イルミ”って人だよ。」
ため息をついて、は廃墟を振り返った。
其のとき、シルバのポケットに入っている通信機が音を立てる。
仕事中に鳴る事のないその通信機に、シルバは疑問に思いながらもに視線を送った。
「・・・どうする?」
「どうするって、放っておきなよ。」
そう言いつつもシャルは困ったようにシルバを見た。
こちらの危機は脱したものの、扱いに困るというのは正にこの事だ。
シルバを始末してクロロの指示通りここを立ち去るか、どうするか。
「これが鳴るということは、今回の依頼に対して何かがあったということだ。」
「だから拘束を解けって?」
シャルは笑いながら問うと、シルバは無言で頷いた。
シルバの通信機はようやく音を止めたが、今度はフィンクスの携帯が震えた。
「なんだ?」
は、と思い出したようにシャルは先ほど切ってしまった携帯を見る。
そこにはレインからの通信履歴が数件液晶画面に表示されている。
『あ、やっと出た!もー、シャルにかけても出ないからさぁ。』
「んで?」
そう言いながらフィンクスはスピーカーフォンにして、全員に声が聞こえるようにする。
『ゾルディックへの依頼はさっき取り消させた。多分、そっちに居るゾルディックの奴らにも連絡が行くとは思うんだけど・・・・。』
「あぁ、さっきのはソレかぁー。」
がしがしと頭を掻いて、この場をどう収めようかと考えていると、後ろから気配が2つ分近づいてきた。
斜め前に立っているフィンクスが軽く手を上げた。クロロたちだ。
「あれ、親父、何で捕まってるの。」
こんな姿の父を見るのは初めてだ。傍から見れば分からないが、イルミは珍しく驚いた表情をした。
「あぁ・・・其の子に一本取られた。」
視線の先には標的のの姿があって、ますますイルミは混乱した。
「・・・もう拘束は解いて良いってこと?」
クロロが頷くと、するすると木はその手を解いた。
先ほどまで拘束していた木々は何も無かったように佇んでいる。
植物を操るとは依頼主から聞いていたが、成る程、厄介な能力だ。
「今後この手の依頼は断って貰えると有り難いんだが。」
クロロの言葉に、シルバは意外にも大人しく頷いた。
「その子相手では、少々分が悪い。」
イルミは首を傾げた。
先ほどの木々を操る能力は確かに見事だとは思うが、自体はたいした念の使い手ではない。
何故シルバを拘束できたのか未だに謎だ。
「まぁ、俺からしたらクロロは上客だからね。異論は無いよ。」
そんなことよりも、今はシルバが興味深そうな目でを見ている事の方がきになる。
シルバは感情を余り外に出さない。
それが今はどうだろう。その目には興味の色がありありと見て取れる。
「それで、先ほどの歌だが・・・」
「ストップ。」
とシルバの間に割って入ったのは意外にもシャルだった。
「キチェスに関する情報を渡す気は無いんだ。悪いね。」
シャルを持ってしてもほとんど情報がつかめないキチェスに関する情報。
それを易々と彼らに教えることは彼の情報屋としての矜持が許さない。
そもそも、自分の能力について話すなんて命取りになりかねない。狙われている今であれば特に。
「シャルさん、彼はある種、私の同胞だから少しくらい話しても良いと思うんだけど・・・。」
「。シャルの言う通り、易々とキチェスについて話すな。」
クロロにも窘められて、は眉を寄せたが、渋々と頷いた。
シルバは稀に見る程、濃くその血を受け継いでいる。だから、知る権利があるのだと判断したのに、この2人がいる手前、諦めるしか無さそうだ。
広間に戻ると、そこはもう、凄まじい荒れ具合だった。
壁には所々穴が開き、ヒビが入っているし、家具もほとんどがその形を崩されている。
むしろ、まだこの廃墟が倒壊しないのが不思議なくらいだ。
「まさか、ゾルディックから2人も来るだなんて。大変だったわね。」
くすくすと笑いながら矢鱈とセクシーにスーツを着こなすパクノダに、は取り合えず笑って返しながら、先ほど受け取ったチューハイを口に運んだ。
「でもアンタが当主の方、足止めしたんだろ?やるじゃないかい。」
褒められたものの、素直に喜べない。アレは、相手がシルバだから出来た芸当だ。
シルバと競る能力者と認識されてはかなわない。
「ありゃぁ圧巻だったぜ。急に木が動き始めるんだからな!」
酔っているのか、フィンクスの声が少し大きく感じる。
「はー、俺も心行くまで飲みたい・・・。」
その横でちびちびビールを飲みながらシャルは相変わらずパソコンに向かっている。
MSC本部に関する情報を集めているのだ。中々彼らも上手く情報を隠していて、進みは思わしくない。
「飲めば良いだろ。」
「え、団長がそれ言うの?」
明日までにMSC本部の見取り図と彼らのキチェスの所持品について調べるように言ったのはクロロだ。
シャルはこれ見よがしにため息をつくと、ビールを一気に飲み干した。
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