Dreaming

In Too Deep #7



はい、これ。と昼休みに担任から手渡されたのはA4の紙とB5にも満たない紙。
突然渡されたそれを手にとって、内容はすぐに把握できた。
A4のほうには部活一覧、そして小さいほうの紙には入部届け、と書いてあるのだから。


「強制じゃないんだが、出来れば何か入ってくれ。やむ終えなく何にも入らない場合は該当無しの所にチェックつけて今週中に提出な。」
「分かりました。」


職員室に寄ってそのまま屋上で昼食を食べる予定だったは、職員室を出ると右手にお弁当、左手に紙を持ったまま屋上へと向った。


「部活、ねぇ・・」


お弁当を手早く食べ終え、部活一覧を眺める。
一通り見てみたが、やりたい部活など無い。
前はテニス部一同に頼み込まれて一時期だけではあるがテニス部のマネージャーをやっていた。
しかし、それ以外は生徒会の仕事を理由に部活には入っていなかったのだ。

はぁ、とため息をついて、いつぞやのように煙草と携帯灰皿を取り出した。


「どっちみち面倒くさいのは嫌なのよね・・・一応仕事もあるし。」


引継ぎも先日終ったし、柏木がいればほぼほぼ問題は無いが、定例会議には出席することになっているし、転校初日のように助けを求めている者もいくらかいる。


「該当無し、かな。」


そう呟いていると、眺めていたリストを奪われて、はその相手を見た。
また、屋上の上がったところで眠っていたのだろうか。そこには流川が立っていて、眉を寄せて煙草を見ている。


「あぁ、ごめんなさい。」


火を消して流川を見上げると彼は未だにプリントを見ている。


「コレ・・」
「部活に入らないかって言われて。ま、入る気は無いんだけれどね。」


それを聞くなり、流川は一緒にクリップで留めてあった入部届けだけを取ると、背を向けて走って屋上を出て行ってしまった。


「え?ちょっと!」


も荷物を纏めると慌てて流川を追う。
流石バスケ部。足が速い。とぼんやり思いながら流川の後ろを追うが、差はどんどん開いていく。
方向からして教室だろう、と途中で見失った流川を探しに行くと、案の定教室では自分の机に向って何かを書いている流川の姿がある。
クラスメイトは慌てて入ってきた流川を追って、これまた慌てて入ってきたに興味津々だ。


「流川君。それ、返して。」


書き終えたのか、顔を上げた流川は「ん」と入部届けを差し出した。
そこには既に文字が書かれてあって、”バスケ部マネージャー”とある。

差し出されたそれを受け取らずに文字を目で追うと、は呆れたように声を上げた。


「無理よ。」
「む・・・テニス部のマネージャー・・・」
「あれは必要に迫られて。」


流川は思わしくないの表情に眉を寄せると入部届けを持ったまま立ち上がった。
がたん、と音を立てていきなり立ち上がった大柄な彼の姿に、だけではなくクラスメートも息を飲む。


「あ、ちょっと!」


が首を傾げて流川を見ると、彼はくるりと背を向けて走り出した。























早くも流川を見失ったは息を荒くしながら通りかかった花道のクラスに駆け込んだ。
話題の転校生の登場に周りが沸く中、晴子と話していた花道は不審に思って声をかける。


「おぉ、。どうかしたのか?」


声をかけられると、はずんずんと2人の元へ向う。


ちゃん・・?」


晴子も不安そうに彼女に声をかけると、彼女はにっこりと笑って口を開いた。


「流川君、見てない?」
「あぁ?」
「あ、流川君なら、さっき凄い勢いで走っていったけど・・。」


ぽっと顔を赤らめながら晴子が言うと、はぐっと握りこぶしを作った。


「そう。邪魔したわね。」


そう言って踵を返そうとするの肩を掴んで花道は引き止める。


「オイ。ルカワがどうかしたのかよ。」


振り返ったは物凄い良い笑顔をしいていて、それを直視した花道と晴子は悪寒を感じた。


「私の入部届けを勝手に取って勝手に書いて持ち逃げよ。丁度良いわ。花道、捕まえるの手伝って。」


は怒りが収まらないのか、花道の耳をむんずと掴むと引きずって歩き始めた。


「いでででえ!コラァ!俺様は自分で歩ける!!」
「そ。じゃぁさっさと歩いて。」


ぱっとが耳を離すと、花道はおーいてー、と呟きながら耳を揉み解した。


「ではハルコさん!あのキツネの捕獲に行ってまいります!」
「あ、うん。」


教室から出て行く二人を見つめていた晴子は、はぁ、とため息をついた。
入部届けを流川に取られて、それを追いかける。


「私も、取られてみたい・・・。」


と呟いて、ぶんぶんと晴子は頭を横に振る。


(だ、だめよ!ちゃんは困ってるんだからそんなこと言っちゃぁ!)


そうは思ってもやはり羨ましい。晴子はもう1つため息をついた。























花道とが流川を追って駆けつけた時には既に入部届けは出されていて、見つけたのは、職員室から出てきた流川の姿だった。


「コラァ、ルカワー!てめぇ、の入部届けをどうした!」


その怒声で気付いた流川はその後ろにもいるのを見つけて眉を寄せた。


「もう出した。」
「えぇ?安西先生に?」


こくん、と流川は頷くが、なぜそこに安西の名前が出てきたのか分からない花道は首を捻る。


「むむ?何故親父?」
「あぁ、流川君、入部届けにバスケ部マネージャーって書いてたのよ。」


それを聞いて花道はきらりと目を光らせてを見た。
あぁ、これは絶対変なことを言い始める時の目だ、と警戒すると、満面の笑みでおおきく花道は笑い始めた。


「そーかそーか!も俺様の雄姿を間近で見たかったか!!」


やはり全くの見当違いのことを胸をはって何故か少し照れながらも言い始める花道に、流川とは2人で呆れた顔をして見た。


「バカ・・・」
「そうね。馬鹿ね。」


2人に思い切り馬鹿にされた花道は2人して!と怒り始めるが、直ぐに彼はの肩を叩いた。


「ま、良いじゃねーか。仕事はひと段落ついたんだろ?」
「まぁね。」


の家に行った時、同じような話を彼女と柏木がしていたが、流川はよく知らない。
そんな会話をと花道がしていることが癇に障って、不機嫌そうに花道をにらみつけた。


「それに、折角だから部活を楽しむってーのも大事なんじゃねぇか?」


珍しく説得力のある言葉に、は目を丸くした後、その目を細めて笑いながら考えるそぶりをした。


「・・入れ。というか、もう入ってる。」


その強引な物言いに、はまた笑った。
言い方は気に食わない前の学校のあいつ(跡部)に似ているが、嫌悪感は無い。自分は存外に流川も気に入っているのだろうか、と思いながらも頷く。


「分かったわ。」


それを聞いて、珍しく流川も少しだけ笑った。






















「・・という訳ではマネージャーになったんですよ。」


教室に戻ってきた花道から事の顛末を聞いた晴子は「そうなんだぁ。」と少し寂しそうに言った。


「ま、あいつの応援なんてハルコさんの応援に比べれば味噌っかすのようなものですがね!」
「ふふ、ありがとう。」


そう、流川も思ってくれれば良いけど、と思ったがそれは恐らく無い。


「・・私も、頑張らなきゃ。」


ぽつり、と呟いた言葉に花道は何のことか分からずに首を傾げた。


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2013.12.5 加筆修正