これが私の生きる道 イタチ編

結局、がアカデミーに出て来たのは3日後だった。任務は2日目に終わっていたが、その次の日朝一で報告書を出した所を拉致され再度修行を付けられていたのだ。
任務では軽傷で済んだものの、サソリの修行のせいで左腕は骨折しているし、手足には複数の打撲によるアザ。おまけに頬は飛び道具が掠ったせいでガーゼが貼られてある。正に満身創痍な訳だが救いなのは今日が金曜日で今日を乗り切れば休みが待っていることだろうか。
医療忍術で治して行ってくれれば良かったものの、砂から来た使者がサソリを急かすものだからおざなりになってしまったのだ。


、お前どうしたんだ、それ。」


いつも通り少し早めに登校して本を読んでいたイタチはが左腕をつって頬にガーゼをあてて登校して来たのを見てぎょっとして言った。


「・・ちょっとね。」
「ちょっとで済む話じゃないだろ。それに3日も休んで・・大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃない。」


そう言っては机にカバンを置いたのを見てイタチは慌てて立つと椅子を引いてやった。


「何があったんだ。」


不問にしてくれる気は無いらしい。はため息をついて首を横に振った。


「ここじゃちょっと。」


担任が何と3日間不在にしていたことを説明したのかは知らないが、ここで任務に出ていたなどと言うのは浅慮だろう。イタチの性格上、話を聞くまでしつこく聞いてくるだろうしは仕方なしに昼休みにでも掻い摘んで事情を話すことにした。


「それで、一体何があったんだ。」


昼食どき、2人は弁当を持って屋上にいた。いつも通り2人ぶんの弁当をイタチは持っている。恐らく3日間ずっと2人分持って来てくれていたのだろう。流石に申し訳なくなっては素直に謝った。


「ごめん。3日間、お弁当無駄にしちゃったわね。」
「大丈夫だ。放課後の修行の前に良い腹ごしらえになったからな。」


アカデミーを休むことになった時点で連絡するべきだったのにすっかり忘れていた。


「次からはちゃんと連絡するわ。」
「そんなことより、だ。」


弁当を包んである布の結び目を解いて弁当箱を出してに手渡しながらイタチは本題に入ろうと急かす。


「ありがと。」


それを受け取っては割り箸をぱちりと割った。


「そもそもの話になるんだけど、私、正式にじゃないんだけど、砂の人に師事してて。」


そう話し出したに、イタチは水筒からプラスチックのカップにお茶を注いで渡した。全く甲斐甲斐しいものだ。


「その人が木の葉との合同任務でこっちに来てたんだけど、丁度良いから修行ついでに着いてこいって言われてね。その前後にみっちりシゴかれたものだからこの有様よ。」
「合同任務ということは、ランクも低いものじゃないだろう。よく、五体満足で帰ってこれたな。」
「まぁ、ね。」


頷いてようやくは弁当に箸をつけた。
流石に言えないが、任務の時は念で身体を強化している。勿論チャクラコントロールがもっと上手くなれば同様の事がチャクラでも出来るだろうがまだその域に達していないは"発"以外の念の使用をサソリに許されていた。
とは言え、"発"も使わなければ鈍る。サソリと2人だけの任務の時は"発"さえも回数制限はかけられるものの使用可能だ。
お陰でサソリがこなすレベルの任務にもあたれる訳だ。


「それで、その腕はいつ治るんだ?」
「んー、この感じだと今月中には治ると思うんだけど、どうかな。」


このまま"纏"をしていれば骨折は早めに治るだろうし、流石に不便なので今日にでも病院に行って医療忍術で治してもらえないか聞いてみるつもりだ。駄目なら自分でも医療忍術を使ってみるが、自分に対してはまだ上手く出来る自信がない。


「そうか・・がいないと組手で困るよ。」


既にが3日間いない間に既に以外と組まされたイタチは困った顔をして言った。それを尻目にようやく弁当を口に運び始める。


「イタチは誰とでも器用にこなすじゃない。」
「・・・そうか?」
「まぁ、息も乱さなければ汗ひとつかかないものだから反感は買ってると思うけど。」
「手加減なしで1発KOよりはマシだと思うぞ。」


あれには隣で組手をしていたイタチも相手が気の毒になった。


「だって、女だから相手にならないとか言ってたから。」


ふふ、と笑って美味しそうに卵焼きを頬張る姿はどこにでもいる少女だ。



















「・・・」


朝、靴を履き替えようと靴箱を覗き込むと、白い封筒が入っていた。無言でそれを手にとって表にも裏にも何も書かれていないのを確認する。


「何だ、それ。」
「さぁ?」


相変わらず左腕が使えないは、鞄を持ってくれているイタチに渡すと彼は中身を見たそうにしながらも彼女の鞄に入れてやった。


「・・開くのも片手じゃ不便だろう。あけて・・」
「ありがとう。でも大丈夫。片手でも刃物は上手く扱える自信があるもの。」


にこりと笑って返されてイタチは残念そうに、そうか、と返した。
左腕はギプスで固定されて吊っているものの、指先は使えないわけではないし、下ろしたって良いのだ。医師は左腕は使うなとなんども釘を刺してきたが。
は席に着くと先ほどの封筒を取り出した。チャクラの糸を天井にくっつけ封筒をつるして、持ち歩いている小刀で端を一閃。中身を取り出すと少し端っこが切れてしまっていたが、まぁ支障は無い。


「・・・ふぅん。」


6,7行ほどの手紙をさっと読んだ彼女はそれを器用に片手で小さく畳みながら隣の席で無言で己の手元を見てくるイタチに視線をやった。


「何だったんだ?」


はらはらとした様子が見て取れて自然と口元は弧を描いた。


「ひみつ」


は決して人の機微に疎くはない。既にイタチから寄せられている淡い想いには気づいているし、イタチを遠巻きに見つめる少女達の裏暗い感情にも気づいている。だが、その優秀さでも名を知られるうちはイタチと共に飛び級をした生徒として同じく広く知られているものだから、尻込みして誰1人として面と向かって何かを言ってきた女子生徒はいなかった。


「・・・」


未だ気になっているらしいイタチの視線を無視して1限目で使用する教科書を取り出してぺらりと捲る。これ以上話す気がないのを見て取ってイタチも机に教科書を広げた。















普段は物置になっている3階の教室に入ると埃っぽくては窓を開けた。見おろすとグラウンドで走り回っている生徒や帰路につく生徒の姿が見える。そのまま校門の方まで視線をやると、見慣れた姿が壁に背を預けて本を読んでいる。


(待たなくていいって言ったのに)


今日は、というか怪我をしてからしょっ中イタチの家で夕食をご馳走になっている。もう大丈夫だと言っても意外とイタチだけでなくミコトも押しが強く、なぁなぁと今日まで来てしまっていた。
山中の家の人間にも大分心配されて怪我が治るまで家に戻って来てはどうかと言われたが戻る気にはなれなかった。なんだかんだ、父母と過ごしたあの小さな家が気に入っているのだ。
あの家は、綺麗な思い出ばかりが詰まっている。


そう、思いを馳せていると、背にしていた扉がからりと音を立てた。
ゆっくりと振り返ると立っていたのは4人の少女だった。


「ちょっとあんた、年下なら年下らしくしなさいよね。私らと同じくノ一クラスの授業はやってらんないとか、イタチ君と一緒に授業受けたいからって変な言いがかり言ってんじゃないわよ!」


どうやら今いる学年の女子生徒のようだが見覚えはない。黙って文句を聞いているとどうやら彼女たちはうちは一族で、4人のうち1人の女の子がイタチのことを好いているらしい。
彼には一族の子がふさわしいから別れろ、と主張されては窓枠に寄りかかりながらため息をついた。
心底どうでもいい。


「だいたいねぇ、」
「そもそも」


まだ言い募る少女の言葉を遮ったの言葉は、さして大きな声ではなかったがよく響いた。


「そもそも、前提がおかしい。私とイタチは付き合っていないし、私は彼に色目も使っていない。そりゃぁこれだけ特異な境遇が重なればそりゃぁ連帯感くらい生まれるわよ。でもそれだけ。」


今まで大人しく黙っているものだから、てっきり大人しく言い負かされるのかと思っていた少女は怯んだようにを見ている。


「あぁ、そうそう、くノ一クラスの授業がどうとか言ってたわね。そりゃぁやってられないわよ。生け花も裁縫も料理もどなたか私より出来る方いらして?いるわけ無いわよねぇ。だって筆記も実技も試験はくノ一の首位は私だもの。授業も試験範囲の説明をする回しか出てないのに!」


ふふ、と邪気のない笑顔で言うと、少女達はぽかん、とした顔をした。


「それに、私といるとイタチのためにならないって、貴女達本当に思っているの?本気なら、貴女達はイタチの外面しか見ていないのね。」

は何故イタチが己の側にいるのかよく理解している。だから、イタチの淡い感情に気づいていながら気づかないふりをしているのだ。それが本当に恋なのか、同族意識と取り違えているのか分からないから。


「イタチの側にいたいのなら、支えられるだけの力をつけてから。話はそれからじゃないの?その前に私に当たるのはお門違いよ。」


ぴしゃりと言うと少女達は口をひき結んだ。それを見てもういいだろうかと窓のそばの机に置いてあった鞄を手に取った時、ふと窓の外が視界に入った。イタチと目があう。すると彼は本を閉じてこちらへと歩いて来る。
イタチの家で合流すれば良いと思っていたのに、どうやら靴箱のあたりで合流することになりそうだ。

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2017.01.26