久方ぶりに会ったと言うのに甘さの欠片も全く見られない修行という名の虐待は1日半まるまる続いた。食事の時間も睡眠の時間もそれぞれ毒薬を盛られた時の対処法と睡眠時の奇襲の対処法を学ばされるという、本当に血も涙も無い修行メニューだ。
流石に任務に出る前は治療と睡眠に半日近く時間を割いてはくれたが、治療の間も修行みたいなものだったのだから心身ともにやすまったのは本当に最後の睡眠時間のみだった。
「オイ、敵の数は。」
木の葉の忍が任務で手に入れた巻物を帰還途中に強奪された事件があったのだが、今回はその巻物の奪取と敵組織の殲滅が任務だ。
アジト周辺には結界がはってあり、その手前で足を止めたサソリは一呼吸遅れて自分の隣の木に着地したに視線を送ることもせずに尋ねた。
「・・・47、かな。ここ一帯で見てるから何人か違うの混ざってるかも。」
「忍術は水遁だけにしろよ。他のはお粗末過ぎる。傀儡も今回はナシだ。」
一緒に来ている暗部・・テンゾウを意識してのことだろうが相変わらず口が悪い。
「分かったら行け。どうせ壊滅させんだ。正面から堂々と行け。」
「ちょ、本気で言ってんですか!?」
後ろで静かに見守っていたテンゾウは信じられないと目を見開いた。まだアカデミーに入学して4ヶ月の少女に先陣を切らせるなど、正気では無い。
「本気だ。」
「まぁ、壊滅作戦のときはこんな感じよね。いつも。」
「あ、面白ぇ能力持ってるやついたら残しとけよ。」
当の二人はなんでも無いように会話を続ける。
「あと巻物のこともあるからな。上のやつを見つけたら分身を飛ばして知らせろ。相手は半殺しであとで治療してから話を聞き出す。」
「了解。」
はそう答えて、その場から姿を消した。
それから10分も経たずにの分身がやってきた。しかも唯の分身では無い。
「・・呪符・・?」
伝達だけすると、ぽん、と気のぬけるような音と煙と共に消えたと思ったら、ひらひらと呪符が落ちてきた。
それに手を伸ばすテンゾウだが、手に触れる前に呪符には火が灯り一瞬で消し炭になってしまう。
「あぁ、あいつはチャクラの量そんなにねぇからな。」
確かに呪符を使えば術を使用する時のチャクラの消費量は少なくて済むだろうが、呪符を使った忍術など初めて見る。
「・・・・これは、貴方が作ったんですか。」
「俺がこんなもん一々作ってやるように見えるか?」
テンゾウは信じられ無いものを見るように、さっきまでの分身体がいた場所を見つめた。
は木の葉の入り口までたどり着くと、ようやくほっと息を吐き出した。
最初はサソリとの任務にどうなることかと思ったが、結構テンゾウが手伝ってくれたし(サソリは嫌そうな顔をしていたが)命の危険を感じる任務にはならなかった。
とはいえサソリが受ける任務なだけあって相手も手練れが多く、何箇所か服が破けていたり傷を負ったりしたのだが。
「お前あの程度の攻撃食らってんじゃねぇよ。」
火影の元へ報告へ向かう道でぶつぶつ文句を言うサソリはごつんとの頭を殴ろうとしたが、慣れている彼女はその拳を払いのけて何事もなかったかのように走り続ける。
「罰として報告は全部お前がやれよ。」
「はぁ?」
は驚いて足を止めて振り返ったが、そこには既にサソリの姿はなかった。
「・・・報告って・・・」
「今回のランクのものだと、まず火影様のところに口頭で報告。で、明日中に報告書書いて提出だね。」
「はぁ!?」
一緒に立ち止まったテンゾウが教えてくれたが何の足しにもならない。
「ちょっと待って、報告書なんて書いたこと・・・。」
「あるんだね。」
「って言っても、去年砂の任務で出た時に数行書いたくらいですし。」
それを聞いてテンゾウは呆れたようにを見下ろした。
「君、まだアカデミー生とはいえ木の葉の忍びでしょ?他里の任務報告書なんてなんで書いてるの・・・」
「私だって書きたくて書いたわけじゃ無いですよ。」
力なく答えてはため息をついてうなだれた。
「あぁ、でも報告書ってテンゾウさんも書きますよね。二重で報告書出すだなんて非効率的だと思いません?」
「残念。ボクが書くのは君たちに関する報告書だ。」
「そうですか。本当に残念です。」
はもう一回ため息をつくと足を踏み出した。
それにならってテンゾウも走り始める。
「驚かないんだね。」
「そりゃ、私みたいなアカデミー生がサソリとつながりがあれば警戒するのは普通ですし、合同任務って同盟国が互いに相手の戦力を見せ合うような意味合いもあるんでしょう?分析して報告するのは普通のことだと思いますけど。」
「・・・・君、かわいくないね・・・。」
はテンゾウの言葉ににこりと笑って見せた。
「あら、私これでも容姿については褒められることが多いんですよ。」
中身が可愛くないと言っていることに気づいていてこの返しなのだろう。つくづくかわいくない、とテンゾウは心の中で呟いた。
「ふぅむ・・・・」
火影は先ほどが提出してきた報告書を見終えて唸った。
その隣にはテンゾウの姿もある。
「これは・・・」
「完璧ですね。」
「うむ、完璧じゃ。」
完全に報告書を押し付けられただったが、翌朝一で提出されたものは非の打ち所が無かった。
体裁は普通の報告書と異なるものの、簡潔に必要事項だけを取り出して書かれたそれは読みやすく、火影は微妙な表情で視線を上げた。
「あれはあのサソリから手解きを受けた云々を差し引いても、およそ普通の6歳児からはかけ離れています。」
「うむ・・。」
猿飛は昨日の任務上がりに報告に来たの姿を思い返した。
愛想の良い笑顔を浮かべていたものの、口からは何故アカデミー生をSクラス任務に同行させるのを止められなかったのか、こんな幼いいたいけな少女をあんな冷血漢と任務に当たらせるなんて木の葉はどうなっているのだと詰る言葉が次々と出てきて面食らったものだ。
「報告書にも記載しましたが、呪符を使った分身を使用する等、知識面技術面でも相当な実力者です。性格は合理主義ですが少し力任せに押し進めるきらいがあります。口も良く回りますね。将来がいろんな意味で楽しみですが心配ですよ、これは。」
「カヤとシュウの娘がのぅ・・確かにカヤは曲者じゃったか。」
「シュウさんは純粋な人でしたからね。カヤさんに似たんでしょう。赤砂のサソリともカヤさん繋がりで知り合ったと聞いていますし。」
慢性的に優秀な人材不足である現状を鑑みると、優秀なアカデミー生が2人もいる事は喜ばしい事かもしれないが、扱いきれなければマイナスだ。
「こりゃ卒業の時に揉めるのぅ」
そう言いながら猿飛はテンゾウを見た。班わけもさる事ながら、担当上忍に誰を当てるかも難しい采配となる訳だが、さて、誰にしたものか。
「ボクは嫌ですからね。」
猿飛が考えていることが何となく分かったのか、テンゾウは無表情でフラグを回避した。
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