本は別に好きでも嫌いでも無い。
知識をくれる本は必要だったけれど、だからと言って何かが満たされる訳ではなかった。
ただ、幼い頃からずっと村の外に出る事が出来なかったにとって本は無くては無い存在だっただけだ。
「、そろそろ休憩行って来い。」
古書を扱うこの店で働き始めてもう1年程たつ。
「良いんですか?」
「あぁ、帰って来る時にハンバーガー買って来てくれ。」
半月の形をした眼鏡を少しずらして古書をめくりながら言う初老の男性に、は呆れた様に溜め息をついた。
「店長、もう歳なんだから、そういうファーストフードはやめないと。」
「・・・・」
古書から顔をあげて、哀しそうな目でじっと見つめて来るエドモンドに、は再び溜め息をついた。
「はいはい、買ってきますよ、もー。」
店に来る客は少ない。
というのも、此処には最近のはやりの本なんてものは置いておらず、廃れてしまった言語で書かれた書物や念のかかった曰く付きのもの等が置いてあり、一般受けするものが置いてないからだ。
だからこそ、来る客には癖がある。
有り過ぎて、何度か危険な目にあったこともあるが、ここの店長は唯の初老の爺さんに見えて、そうでも無いのだ。
「ルイーズ。コーヒーくれ。」
例えばコレだ。
かっちりとスーツを着込んだ男性はがっしりとした身体にサングラス。
宝石店に一人はいるガードマンのような人。
エドモンドがこういう人をどこから連れて来るのかは知らないが、毎日いるのだからすっかり慣れてしまた。
(あ、これ読んだことない)
仕事内容は本の整理をしたり、たまに本の仕入れにエドモンドに連れて行って貰ったりすることだが、合間に本を読んでいても怒られない。
店長もそうしてるからかどうかは知らないが。
先にも述べたが、は特段本を愛している訳では無い。
ある情報を探しているだけだ。それが本に残っている可能性は99%無いと分かっていても、可能性のあるものには全て手を出している。
「お前さんも難儀な探し物してるみたいだなぁ」
読みふけっていると少し遠くのカウンターにいるエドモンドから声をかけられて、は誤摩化すように笑った。
エドモンドのことは信頼している。だからここで働く事にした。
しかし、は何も話せずにいた。
「店長こそ、なんでまたこんなマニアックな本屋さんなんてやろうと思ったんですか?」
エドモンドは言われると腕を組んで宙を見上げた。
コレは何だったっけなぁと思い出す時の癖だ。
「・・コレクションしてても宝の持ち腐れって知ったからな。」
「へー。」
コレクション。たしかに、そう言うに値する本の数々がこの店にはあった。
だが、自分の探している情報に辿り着きそうなものは一つとして無かった。
それでも、ここで働くことにしたのは、「好きなものを仕入れて良い」というエドモンドの言葉があったからだ。
本の仕入れに行く時も、あらかじめどこに行くか決められていることもあれば、自分で希望を出す事も出来る。
(でも、中々見つからないんだよね・・・)
目立った行動をすることは出来無い。ゆっくり行くしか無いのは分かっていても、それにもどかしさを感じていたのは事実だ。
しかし、転機は彼女が思いもしない形ですぐにやってくることになる。
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