到着した会場は立派な門構えをしている、ゴシック調の建物で、一歩中に入るとそれはもうきらびやかな世界が広がっていた。
「そんな固いパーティーじゃねぇから気負わなくて大丈夫だぜ。」
と言いながらディーノは腕を出すので、取りあえずそれに自分の腕を絡めてみる(目の前の男女のマネだ)。
すぐにディーノがボーイからワインを二つ受け取って一つに渡した。
余りワインは得意では無いが、取りあえず、とそれを口にする。
「ちょっとだけ挨拶に付き合ってもらえるか?」
「はい、大丈夫ですけど、一緒に行って大丈夫なんですかね。」
この世界に疎いではあるがディーノが結構な地位にいることは知っている。
そんな彼の挨拶回りというと、凄くハードルが高そうな気がして、は心配そうにディーノを見上げた。
「構わねぇよ。」
はは、と笑ってディーノに連れられるまま会場内を進む。
其処には年配の柔らかい笑顔を浮かべた男性が立っていた。
Incomplete Love Story 9
「お久しぶりです。9代目。」
9代目?
呼び名に何処かのファミリーのボスなのだろうと思っていると、男性はディーノに気づいて笑みを浮かべた。
「久しぶりだね。ディーノ君。そちらの可愛らしい女性は?」
年配だからと侮ってはいけない。やはりイタリアーノはこういう恥ずかしい事をさらりと言うのか。
と妙に納得していると、ディーノが軽く紹介してくれた。
「こちらがボンゴレの9代目だ。」
「私は雲雀と申します。」
この人が・・・と思いながらそう言うと、9代目は少し驚いた顔をしたが、すぐににこりと微笑んだ。
「雲の守護者のお姉さん、だったかね?ディーノ君から話は聞いているよ。」
「はぁ・・」
どういう風な話を聞いているのだろうか、と気になるが今は聞けそうにない。
「一般人だった君たちを巻き込む形になってしまって申し訳ないね。」
「・・いえ、弟は大分、その、こちらの世界に合っているとは思いますし、私自身以前と変わった事はありませんし・・・。」
「そうか・・・それは良かった。是非、今日は楽しんで行ってくれ。」
おお、何だか凄く良い人だ。と、弟が訳のわからないマフィアの世界に足を突っ込んで少し、本当に少しだが心配していた訳だが、安心した、とはほっと息をついた。
もしかしたら、ディーノはこのマフィアの世界のことを良く知らないのに、弟がボンゴレに関わってしまったに対して、そのボスと接触させることで安心させようとしたのかもしれない。
「う”お”ぉぉおい、あの女、この前の女じゃねぇのかぁ?」
丁度そのとき、いつぞやの様に背後から野太い声が聞こえて来ては振り返った。
そこには、忘れもしない、長い銀髪が印象的な男性と、
「XANXUSさん・・?」
ぽつり、と今日のお昼に食事を共にした男性の名を呟くと、隣のディーノがぎょっとしたようにを見た(9代目も驚いてを見ている)。
「って、知り合いか!?」
「はい。ちょっとした偶然で知り合いまして・・」
そう話してるうちにXANXUSがつかつかと歩いて来た。
出たくも無いパーティに引っ張り出されたXANXUSは周りから見ても分かる位不機嫌だった。
そんな彼と共に行動するのは御免だったスクアーロだが、生憎とヴァリアーからはXANXUSとスクアーロが出席すると伝えてある。
会場に足を踏み入れ、寄って来る人々をあしらいながら足を進めると、9代目とディーノが話しているのが見えて、何とはなしにそちらを眺める。
スクアーロは目を疑った。
ディーノの横に立っている女性の横顔が一瞬見えたのだ。
その顔は今日の昼みかけたばかり。
「う”お”ぉぉおい、あの女、午前中の女じゃねぇのかぁ?」
そう言うと、XANXUSもそちらに目を向けて眉を寄せた。
スクアーロの声で振り返った女性はだったのだ。
いつも会う時の彼女とは雰囲気も髪型も違うが、矢張り彼女だ。
一体どういうことだろうか。
からはマフィアとの繋がりは全く感じられなかったのに。と、XANXUSからは疑問が浮かぶ。
(取りあえず跳ね馬の隣にいるのが気に食わねぇ)
XANXUSはつかつかと歩いての目の前に行く。
「何で此処にいやがる。」
「・・・・それ、イタリアで最初に再会した時も言われましたね。」
苦笑しながら言っては続けた。
「イタリアでお世話してくれていたのがディーノさんで、今日のパーティに誘ってもらったんです。」
「跳ね馬のところに・・・?」
XANXUSはディーノを睨みつけるように見た。
「何だか良く状況が見えねぇな・・・」
ぽりぽりと頬を掻いてディーノはとXANXUSを見比べた。
「もしかしてXANXUSはさんの弟君のことを知らずに親しくしていたのかもしれないね。」
「・・・弟だと?」
に弟がいたとは初耳だ、と声をあげたのはXANXUS。
丁度そのとき、ロマーリオが携帯片手にディーノの元へと駆け寄って来た。
「ボス!」
「どうした。そんなに慌てて。」
「それが、雲雀恭弥が屋敷を尋ねて来たらしい。」
その瞬間、XANXUSは理解した。
成る程、が雲雀恭弥の血縁者ならば、ディーノと親しくしているのも説明がつく。
「此処がバレるのも時間の問題だな・・・どうする。」
「バレたらまずいのかぁ?雲雀恭弥ってあの雲の守護者のことだろうが。」
黙ってXANXUSの後ろにいたスクアーロが口を開くがすぐに「黙ってろカスザメ」と一蹴される。
「恭弥はシスコンでな、姉ちゃんが黙ってイタリアに来たから連れ戻しに来たみてぇなんだ。」
「困ったちゃんなんですよ。」
あはは、と苦笑まじりに言うと、は溜め息をついた。
「・・・そういうことか。」
恭弥のことを思い出しながら、XANXUSは呟く。
「急に日本に帰るって言い出したから何かあるかと思ったが・・・そんな理由なら別に構わねぇな。」
何が構わないのだろうか、とディーノ、スクアーロ、9代目、ロマーリオは首を傾げた。
「跳ね馬、こいつはこっちで預かる。」
「はぁ!?」
一体急に何を言い出すのだ、とディーノは素っ頓狂な声をあげた。
驚いているのはディーノだけでは無いようで、9代目も驚いた顔をした後、すぐに笑みを浮かべるとXANXUSに尋ねる。
「一体どういうことかね?」
「理由はねぇ。が、俺はこいつが気に入ってる。そんな理由なら帰す必要はねぇ。」
そう言ってXANXUSがを抱えるのと、恭弥が会場に入って来るのは同時だった。
「げっ、もう到着しやがった!」
ボンゴレリングを持っているからか、どうやら会場に入るのに苦労をした様子は無い。
「・・・何、その男。から離れなよ。」
「おい、XANXUS。ここで騒ぎを起こすのはマズいぜ。早くを連れて行け。」
ディーノはどちらかと言えば、本当にどちらかと言えばXANXUS派だ。
人生初の旅行くらい自由にさせてやりたい。
「さっさと行こうぜぇ!」
「そうはさせないよ。」
恭弥がトンファーを出して距離を詰めるのと、テラスにXANXUSとスクアーロが跳躍するのは同時だった。
「あ、ディーノさん!お世話になりましーー!」
「黙ってねぇと舌噛むぞ。」
の言葉は途中で終わり、そのままテラスから外へ。
ディーノはそれを追いかけようと足を踏み出した恭弥を後ろから羽交い締めにして「まぁまぁ落ち着けって」と宥める。
恭弥はぎろりと睨みつけたが、流石にこのような場で派手に暴れることはしないのか、溜め息を盛大についてトンファーを降ろした。
「何で猿山の大将とが一緒にいるわけ。」
「そりゃぁ俺も聞きたいところなんだがな。」
ははは、と笑ってディーノは頭を掻いた。
はっきり言って、予想外の展開に結構動転している。
だが、先ほど見た感じ、XANXUSとは親しい仲のようだったし、XANXUSの所ならば恭弥も易々と押し掛けることは出来ない。
もしかしたら好都合かもしれない。
「・・・君は、雲雀恭弥君だね。」
黙っていた9代目はようやく口を開いた。
彼も息子の思ってもみなかった行動に驚いているようだ(そうは言っても少し嬉しそうなのだが)。
「どうやら私の息子がまた迷惑をかけた様だね。」
「全くだよ。」
恭弥が怯む事無くさらりと言うので、ディーノは慌てて「こら!」と窘める。
「いや、良いんだよ。」
そうして9代目は続けた。
「本当に悪いんだが、取りあえず今夜はそっとしておいて貰えないかね。明日、XANXUSに連絡を入れるように言っておくから。」
眉間に不覚刻まれたしわが一層深くなって、恭弥の不快感が伝わる。
「それまでにあの男がに危害を加えたら?」
「それは無いと思うがね。」
笑顔で9代目は言い切った。
「とにかく、悪いが明日、このことについては連絡するよ。」
そう言って9代目は3人の前から去って行った。
残されたディーノとロマーリオは、そろりと恭弥を見る。
「ま、まぁ、9代目は嘘は言わねぇだろうし、取りあえず今日は帰ろうぜ。」
「・・・仕方無いな。」
と言いつつも諦めきれないのか、恭弥はぎろりとディーノを睨んだ。
「もしに何かあったら貴方もあの老人もぐちゃぐちゃにしてあげるから。」
「お、おぉ。」
苦笑しながら頷いて、ディーノとロマーリオは恭弥を宥めながらキャバッローネの屋敷へと向かった。
逃亡