目の前には鏡。
後ろには髪の毛のセットをしてくれてるメイドの人と、斜め前には化粧をしてくれているメイドの人。


「こちらのネックレスとこちらのネックレス、どちらが宜しいでしょうか。」


更にもう一人。
きらきらと輝くダイヤのネックレスを2つトレイに乗せて伺って来るメイドさん。


「・・・シャ、シャンデリアみたいなのは嫌です。」
「そうですね。ドレスが少しお色が強いですから、こちらの方が宜しいかもしれませんね。」
「・・・これってレンタル・・・じゃないですよね。」


怖い。聞くのが怖い。と思いつつも、おそるおそる尋ねると、笑顔のままメイドさんがさらりと宣うた。


「ボスがいつの間にかお取り寄せになったみたいで・・昨晩届いたばかりですよ。間に合って良かったですね。」
「はは、ですよね〜」


良かったですねぇ、とメイドさんが言ってくれるものの、としては値段が気になって仕方無い。
ネックレスだけではない。
現在着ているターコイズブルーのドレスも、目の端に映る黒いスパンコールのついたパーティバッグも、シルバーのきらきらした靴もあるのだ。


「あ、ピアスもお揃いでございますよ。」


ほら、とメイドさんが見せてくれたのは大粒のダイヤで、は気が遠くなるのを感じた。










Incomplete Love Story #8











「ディーノさん!!」


がメイドに連れて行かれて1時間と30分程。
既に支度が終わってリビングでくつろいでいたディーノの所にはやってきた。


「お、やっぱ似合ってるな。綺麗だぜ。」


と手に持って居た本をテーブルに置いて立ち上がりながらディーノは言う。


「ありがとうございます。・・じゃなくて!」


珍しく声を荒げるに、ディーノは首を傾げた。


「何だ?何か気に入らなかったか?」
「いえ、そんなことはありません。むしろ逆というか・・・」
「逆?」


いつもと違ってはっきりとした化粧を施したはきっとディーノを見上げた。


「一体いくらかかったんですか!これって、本物ですよね!」


と、着けているネックレスとピアスを泣きそうな顔で指差しながら言うとディーノは再び首を傾げた。


「本物以外に何があるんだ?それにしても似合ってるな〜。うん、確かにそっちの方が良いな。もう一つのヤツはちょっと派手だったからな。」


ディーノはネックレスを見て、そして仕上がりを見て満足そうに頷く。
いつもと違ってアップにしていて、それだけで雰囲気ががらりと変わっている。


「はぁ・・・取りあえず、今日のパーティが終わったら返品ということで・・」
「駄目だ駄目だ。それはにやったんだから、貰っとけよ。」
「そうだぜ。良く似合ってるし、ボスの気持ちと思ってよ。」


突然別の声が入って来たと思ったらそこにはロマーリオがいて、は困った様に眉を下げた。


「そうは言っても、こんな大きくて高くて重過ぎる気持ちはちょっと・・申し訳ないといいますか・・・。」
「じゃぁ、また日本に行く時は飯作ってくれよ。」


にこにこと、全く引き下がる様子のないディーノに、は何か言おうとして、うぅ、と唸って項垂れた。
何を言っても無駄だというのが分かってしまったのだ。


「・・・分かりました。」


溜め息をついてようやく頷いた。
それに、これ以上ごねてもディーノも自分も良い気はしないと思ったのだ。


「本当にありがとうございます。こういうのって中々身につけられないんで、嬉しいです。」


とにかくしっかりお礼は言っておかないと、と頭を下げる。


「おう。じゃぁそろそろ行くか。今日のパーティ会場の隣にうまいコーヒー飲める所があるんだ。」
「ボス、車は回してあるぜ。」
「用意は良いか?」
「あ、はい。」


用意とは言っても、持ち物はバッグだけ。
3人は屋敷を後にした。
























3人がコーヒーを飲み終わり、パーティ会場に辿り着いた頃、同じく彼も空港へたどり着いていた。
手荷物一つ持たず、颯爽とゲートをくぐって(トンファーはしっかりと持ち込んだ)出て来た恭弥はくぁ、と欠伸一つすると、空港を出た。


空港の壁にはってある地図を見て、首を傾げる。
さっぱりキャバッローネの屋敷への行き方が分からないのだ。
仕方が無い、と恭弥は溜め息をつくと、空港の目の前に並んでいるタクシーに乗る。


「キャバッローネの屋敷まで。」


そう言いながらイタリア語でキャバッローネと書いた紙と地図を出した。








到着