その日のXANXUSは機嫌が良かったり悪かったりの繰り返しだった。
相も変わらずスクアーロの頭は的にされて本やグラスやらが飛んで来るのだが。
「・お”お”ぃ、今日のボス変じゃねぇかぁ?」
「そうかい?」
「ボスはいつだって変だろ」
しし、と笑いながらベルフェゴールが言うと、ベルフェゴールの頬の辺りを銃弾が掠めた。
時刻は10時。
「そろそろ時間だなぁ。」
ぼーん、と置き時計が音を立てて、スクアーロはソファから立ち上がった。
「行くぞ、カス。」
XANXUSも立ち上がり、上着を羽織った。
Incomprete Love Story #5
本部での会議は1時間程で終わった。
内容と言えば、最近のヴァリアーの活動内容。そして審査。
リング争奪戦の一件以来、一ヶ月に一回このような査定紛いのものがある。
いつものようにぞんざいに答え、苛々すれば隣にいるスクアーロの頭を殴り、ようやく1時間経つ頃には、不機嫌だったXANXUSの機嫌は上機嫌になっていた。
「気持ち悪ぃなぁ。」
「るせぇ、カス。」
ぞっとするぞぉ、とぼそりと呟けば鉄拳が降って来た。
さっさとこんなところは後にしよう、と屋敷から出た時、ロータリーにつけられた車からディーノが出て来た。
それを認めてXANXUSは舌打ちをする。
丁度ディーノは電話で話していて、少し話し声が聞こえて来た。
「今日遅くなるかもしれねぇって?そりゃ良いが・・・気を付けろよ。」
心配そうな声で電話している。
女か?とスクアーロは表情の見えないディーノを眺めた。
「まぁ、帰って来る時間が分かったらまた電話しろよ。何かあったら俺が恭弥に殺される。」
ばたん、とディーノの乗っていた車のドアがしまり、ようやく前から歩いて来る二人に気づいたディーノは、少し驚いたような顔をすると2,3言言って電話を切った。
「何だ、跳ね馬。女かぁ?」
「ん・・・まぁそんなとこだ。それより珍しいな。二人が此処にいるなんて。」
どうだ、最近?と言って来たディーノに、XANXUSは舌打ちするとそのままディーノの横を通り過ぎた。
そして返答するために立ち止まったスクアーロをちらりと見る。
「今日はこのまま出かける。」
そう言って、ディーノが乗って来た車の後ろにつけてあった車の運転席に乗り込むと、エンジンをかけた。
「・ぉ"ぉ"お"い!!」
そうしてすぐさま走り去って行った車を眺めて、ディーノは少し驚いたようにスクアーロに声をかけた。
「あいつ、運転すんのか。」
「俺も初めて見るぞぉ。」
それより、とスクアーロは辺りを見回す。
見回してみても車は唯一台。ディーノの車のみ。
「もしかして、歩いて帰れってことかぁ?」
ディーノは苦笑して運転して来たロマーリオに声をかけた。
面倒臭ぇヤツに会った、とXANXUSは車を運転しながら舌打ちをした。
しかし、携帯を手に取ってアドレス帳を開いたところですぐにその不機嫌さは吹き飛ぶ。
通話ボタンを押して数コール。
『あ、はい。』
すぐに聞こえて来た声。
周囲の音から外にいることが伺える。
「どこにいる。」
『今はですね、昨日のカフェの近くです。』
「すぐ行く。」
『分かりました。カフェの前にいますね。』
「あぁ」
携帯を切って、ちらりとミラーを見る。
念のため、つけられていないことを確認してハンドルを切る。
彼女の待つ場所までここから車で5分程。
もう着きそうだ。
XANXUSは小さい道へ入ると、見覚えのある姿を見つけて車を停めた。
の方も車が停まったのを不思議に思って、車を見て、目を瞬かせた。
しかし、すぐに微笑むと、こつこつと歩いて来る。
助手席の窓を開けると、はそこから首を傾げて覗き込んだ。
「乗れ。」
「あ、はい。」
ドアを開けて乗り込むと、XANXUSは車を出す。
すぐに小さい道から抜けて大きな道に出て、その横でシートベルトを締めながらはXANXUSを見た。
「まさか車で来るとは思ってませんでした。」
「車がねぇと不便だからな。」
そう言うと、再びは瞬く。
「今日はそんなに遠出するんですか?」
「1時間くらいで着く。」
1時間。結構な時間だ。
どこに行くのか楽しみだ、とは顔を綻ばせる。
「そうなんですか。まだ、場所は秘密なんですか?」
「・・・・あぁ。」
楽しみだなぁ、と外を眺めた。
何度か車に乗って出かけてはいたが、今日はいつもとは違う。
誰かの運転する車の助手席に乗っている今現在の状況がくすぐったくて、はくすりと笑った。
一時間後、車を止めて降りる。
れんが造りの暖かみがある町並みが広がる中に一際目を引く、白いゴシック調の建物に、は口元を押さえた。
「ここって・・・」
は何で、とXANXUSNXUSを見上げた。
昔、写真で目にして以来、行ってみたいと思っていた教会。
ちょっと距離があるから別の機会に行こうかと思っていたのに。
「・・・来たがってたからな。」
「え?」
首を傾げると、XANXUSNXUSは本当に覚えていない様子の彼女にため息をついた。
「あ、もしかして・・・飲んでた時に言ってました?」
「あぁ。」
自分は全く覚えていないが、その言葉を覚えて連れて来てくれたXANXUSNXUSにはなんて言って良いか分からず、XANXUSNXUSを見た。
「あの、ありがとうございます。凄く嬉しいです!」
「・・・気にするな。」
ほら、行くぞ。と教会へと向かう。
その後ろをは慌てて追いかけた。
デート