XANXUSはイライラと書類の山を足で崩した。
「う”お”お”ぃ、それ片すのは俺だぞぉ!!」
「うるせぇ、カス。」
吐き捨てるように言って、綺麗になった机の上にXANXUSは足を乗せた。
リング争奪戦の件で、裁判にかけられたヴァリアーだが、結果は一ヶ月の謹慎のみだった。
恐らく沢田綱吉辺りが何か手回しでもしたのだろう。
XANXUS達が反旗を翻した事は伏せられ、何事も無かったかの様に、いや、一ヶ月と少しの分溜まっていた仕事に追われる毎日。
謹慎が解けたら、日本に渡り、またあの変な女と酒でも飲もうかと思っていたのに、それは実行されずにいる。
XANXUSは携帯を取り出すと数秒眺めてそれを放り出した。
画面にあるのは、彼女の電話番号。
Incomprete Love Story #4
デスクワークに嫌気が指したXANXUSは酒を買いに外へ出ていた。
書類は全てスクアーロに任せている。問題は無いだろう。と勝手に決めつけてウイスキーでも、と道を歩く。
3月の終わりは未だ肌寒く感じる。
コーヒーでも買って行くか、と近くのカフェに入ると、XANXUSは視界に入った人物に珍しく目を見開いた。
すぐに向こうと目が合い、相手もはっとして口をあけたままXANXUSを見ている。
「てめぇ・・・」
ウェイターが席を勧めているが、構わずつかつかと目当ての人物の前へ行く。
「何で此処にいやがる」
「え、あ、あぁ、ちょっと旅行に来てまして。」
彼女の答えを聞きながらXANXUSは彼女の目の前の椅子を引くとそこへ腰掛けた。
「旅行だと?」
「はい、知り合いがこっちにいて、晴れて大学も卒業しましたし、人生初の海外旅行にでも行こうかと思いまして。」
会いたいと思っていたにしても、いざ目の前に(しかもこんないきなり)してみると、本来話そうと思っていたことは思い浮かばず、しかも目に入った携帯に怒りが込み上げて来る。
「てめぇ・・イタリアに来てんだったら何で連絡しなかった。」
「え?」
問うと、彼女はきょとんとしてXANXUSを見つめ返した。
「だって、連絡先なんて・・・」
「覚えてねぇのか?」
「えぇ?」
と、XANXUSはの携帯を取り上げると、かちかちと我が物のように扱って画面をに見せた。
そこにはXANXUSという文字の下に電話番号が表示されてあって、今、初めて彼の電話番号が携帯に登録されていたことを知る。
「い、いつの間に・・・」
「・・・」
本当に驚いている彼女を前にして怒る気が失せたXANXUSは溜め息をつくと背もたれに背を預けた。
「あの、もしかして、あの時連絡先、交換してました?」
「あぁ。」
「・・・すみません。」
少しまだ怒っているのを感じ取っては申し訳無さそうに頭を下げた。
(この調子じゃ、あの時話してたことも覚えてねぇな)
更に落胆するが、肩を落としてこちらを伺う彼女が少し気の毒になって、息を吐き出すと、何事も無かった様にを見た。
「まぁ良い。いつまでこっちに居るんだ。」
「えぇと、4月いっぱいはいる予定です。」
「・・・時間がありゃ連絡する」
「ありがとうございます。」
初めての外国で見て回る所が沢山あるとは言え、一人で見て回るだけではやはり退屈だし、イタリア語はよく分からない。
「取りあえず場所、変えるぞ。」
「はい。」
すっかり忘れていたが自分は酒を求めて外に出て来たのだ。
しかも飲もうと思った相手は目の前にいる。
近くに良い所があった筈だ、とXANXUSはコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
は携帯を閉じると、個室へと戻った。
XANXUSと共に来たのはいつもは彼が一人で訪れる酒場。
遅くなるということをディーノに伝えるために連絡をしたのだが、彼も心配性だ。
誰かと一緒なのか、とか、気をつけろよ、とか、迎えに行くか?とか。
弟の心配性なのが移ったのかと思った。
まぁ、よく知らない土地で言葉も通じないのに、と、心配になるのは普通かもしれない。と、友人と再会出来たことを告げると、納得してもらえたようだった。
「それにしても、XANXUSさんに会えて良かったです。」
「あ?」
帰って来るなり、何を言ってるんだ、という目でXANXUSはを見た。
既にその手にはウイスキーのグラスがある。
「会える確率は低いと思っていたので。」
もしかしたらもう会えないかと思っていましたし。
と言うに、そんなことは無い、と言いかけて止めた。
今回、イタリアで偶然会わなくても、自分は彼女の連絡先を知っていたし、近いうち日本に行こうと思っていた。なんて柄じゃ無くて言えない。
「・・・ふん」
できたのは鼻を鳴らすだけ。
「明日時間あるか。」
「明日、ですか?」
頷くXANXUSに、はこくりと頷いた。
「なら、付き合え。」
「どこにですか?」
「どこでも良いだろ」
そう言われてはそうですね、と笑顔で言う。
明日は、と明日のスケジュールを頭に浮かべて、午前中は本部に顔を出す予定があったことを思い出して顔を顰める。
「午後だな。連絡する。」
「はい。じゃぁ待ってます。」
彼女の口から出たその言葉が妙に心地良く感じた。
『待ってる』
そんなことを言われたのは初めてかもしれない。
「楽しみにしてますね。」
追い打ちをかけるようにそう言われて、XANXUSは酒を呷った。
再会