何時も通り晩ご飯を作る。
今日は弟が嫌がりそうな事を話すから、彼が好きなハンバーグ。
(絶対嫌がるよね、暫くイタリアに行く、なんて。)
自分で言うのもなんだが、弟は大分シスコンだ。
大学での飲み会も遅くなれば不機嫌になるし、迎えに来る事もある。
そして、彼氏が出来ても、私が知らない間に色々とやらかしてくれるようで、長続きした覚えもなければ、彼氏ができたのも2回程。
大事にしてくれるのは有り難いが、行き過ぎもどうかと思う。
と思いつつも、強く言えない辺り、自分もブラコンの気があるのかもしれないけど。
Incomprete Love Story #3
食事を取りながら、卒業式の翌日から暫く旅行に行って来る、と言えば、案の定、恭弥は不機嫌丸出しの顔でを見た。
「何で」
「ほら、長期旅行って行った事無いし、友達も誘ってくれてるし。」
「・・・駄目だよ。」
そう言って恭弥はハンバーグにフォークを突き刺した。
「うーん、そう言われても、ほら、私卒業したら何もする事無いし、少し外に出てみて色々と考えたいんだよね。」
「必要無い。」
駄目、の一点張りでは溜め息をついた。
分かってはいたが、こうまで反対されると、何と言って良いか分からなくなる。
パスポートは実は用意してあるし、費用も問題は無い(チケットまで既に取ってしまった)。
参ったなぁ、と残りのハンバーグを口へと運んだ。
しかし、同時に思う。
ここまで準備が済んでいるのなら、行ってしまえばこっちのものではないか、と。
絶対反対されるのは分かっていたから、目的地は告げていない。旅行に行きたいと言っただけだ。
たまにはそんな反抗も良いだろう。
と、が決心を固めたのが卒業式当日。
そして、彼女はひっそりとイタリアへと旅立った。
自分でも思い切ったことをしたなぁ、と思いながら空港へと辿り着いた。
長旅だった。と固まった体を少し動かして、きょろきょろと周りを見る。
「!」
すると、久しぶりに聞く声が聞こえて来て、は声の主を捜した。
すぐに彼は見つかって、ぶんぶんと手を振りながらやってくる。
「よう、久しぶりだな。」
「はい。ロマーリオさんも、お久しぶりです。」
ディーノの後ろにいるサングラスの男性にもぺこりと頭を下げて挨拶すると、軽く返事が帰って来る。
「しっかし、よく恭弥が許したな。」
「あぁ・・・実は、勝手に来ちゃったんですよ。駄目だって言われたんですけど。」
それを聞いてディーノは少し目を見開くと、からからと笑った。
「まぁあいつは少し過保護過ぎるところがあるからな。ま、ゆっくりしてけよ。」
と、ディーノは空港の外へと先導する。
「とりあえず、一ヶ月くらいは居ようと思うんです。」
「へぇ、そりゃぁ結構長いな。」
ロマーリオの運転する車の中、ディーノおどろいたように言った。
「海外旅行なんて初めてですし、あと・・・」
「何だ?」
珍しく言い淀んだ彼女に首を傾げて先を促す。
「もしかしたら、知り合いに会えるかもしれないので。」
と、思い出すのは2ヶ月前出会った赤い目の彼。
別に彼に会う為にイタリアへ来た訳では無いが、また、何の因果か、出会って酒を飲むのも悪くは無いと思う。
「へぇ、知り合いがいんのか・・・・ってまぁ、いても可笑しくねぇか。」
彼女の弟の周りにはイタリア人が多い(自分も含め)と思い出して、笑った。
「まぁ、取りあえず明日、明後日は俺も休みだしどっか見て回ろうぜ。あと、1週間後辺りにも休みが合った筈だしな。」
「ありがとうございます。」
「ボス、1週間後は・・・」
そう前から声がかかって、ディーノは「あぁ、そうだった」と思い出したように声を出す。
「夕方から同盟ファミリーのパーティーが入ったんだったな。」
「ボス、忘れちゃ困るぜ。」
「同盟ファミリーって、ボンゴレの?」
恭弥の姉である以上、無関係ではない、とディーノは軽くこの世界についてに説明していた。
「あぁ、固っくるしいヤツじゃねぇし、一緒に行くか。」
「良いんですか?」
「あぁ、勿論だ。」
有り難うございます、とは再び頭を下げた。
「取りあえず、今日はイタリアの美味ぇもん食わせてやるからな。」
日本にいた間、色々食わせてくれた礼だ。というディーノに、は再び有り難うございます、と笑った。
車の中から見える景色は日本では決して見ることができないもの。
思い切って来て良かった。と心から思う。
今までの生活に区切りを着けて、新しい一歩を踏み出す為に。
イタリア