に連れて来られた場所というのは、確かに良い所だった。
静かな雰囲気に、控えめな店員。
何故酒に誘ったか、というのに理由は無い。
一人で飲んでも良かったが此処の地理が分からない。
適当に入った店が騒がしくて落ち着かないのは、嫌だった。
その点、少ししか言葉を交わしていない目の前の女だが、こいつなら丁度良い場所を知っていそうな感じがしたし、酒を飲んだとしても、邪魔に感じない気がした。勘だが。
親父と血は繋がっていないが、こういう点での自分の勘に対して俺は絶対な信頼を置いている。
それに、あの、戦いの直後、こいつとこんな変わった出会いをしたのには意味がある気がした。
勘だが。
Incomprete Love Story #2
料理と酒が運ばれて来て(酒に関してはXANXUSの速度が早いので10回程運ばれて来た気がする)、1時間経ったか経たないか。
は少し酒が回り始め、XANXUSは目の前の彼女の話を聞いて相づちを打ったり、たまに馬鹿にしたように鼻で笑ったり、口を挟んだり。
「XANXUSさんってやっぱり顔は恐いのに、優しいんですね。」
その言葉にXANXUSは眉を寄せた。
「どこがだ」
「どこって・・・そうですね・・・包容力を感じます。」
男はやっぱり包容力だと思うんですよ。
と妙に力説する彼女に、XANXUSは彼女が何杯飲んだか勘定し始めた。
「・・・てめぇ、たかが6杯で酔ってんのか?」
「酔ってる?あぁ、確かに酔ってるかもしれませんね。」
少し困った様に言っては笑う。
「こういう風に静かにお酒を飲むのは久しぶりなので、少し、飲み過ぎたのかもしれません。」
「酒は飲めると言ってただろ」
「少し、と」
「・・・・」
そうだったか?と少し考えて、そうだったかもしれないと一人で納得したXANXUSは頷いた。
「それにしてもXANXUSさんは強いんですね。びっくりしました。」
テキーラのロックを手にしているXANXUSに、はそんな強いお酒ばかり、と少し顔を顰めながら言った。
「お前が飲んでるのは酒じゃねぇ」
「・・・お酒の強い人はそう言いますよね」
笑っては手にあるカクテルを口にした。
「十分お酒の味はするんですけど」
「・・・貸せ」
少し興味を持ったXANXUSは、生まれて初めてカクテルを口にした。
「・・・ただのジュースだ」
「・・・お酒の強い人はそう言いますよね」
さっきと同じ言葉を言ってはXANXUSからグラスを奪い返した。
「やっぱりお酒の味がします」
そう言ったにXANXUSは微かに笑った。
それから、余り覚えていないが家の前までXANXUSに送ってもらった覚えがある。
別れ際に何を話したのか、全く覚えていない辺り、自分が結構飲んだことを、重い頭を抱えながら悟る。
「お酒飲んだのも久しぶりだったしなぁ」
まぁ、楽しかったし良いか。とベッドから出た。
弟はもう中学へと出かけたのであろう。
『朝食は用意しておいたよ』
という置き手紙をテーブルの上に見つけて、良く出来た弟だなぁ、と一人感心しながら台所へと向かった。
朝食を食べながら、もうXANXUSとは会うことが無いのだろうと思いながらテレビを見る。
自分の記憶の限りでは、彼と連絡先の交換をした覚えは無い。
それはそれで良いと思う。
時間は短くとも今回の奇妙な出会いは自分にとって意味があるように思えた。
「それよりも・・・」
と、携帯の着信にある、自分の担当教官の電話番号を見て、溜め息をついた。
「進路、どうしようかなぁ・・・」
とは言っても卒業式はあと2ヶ月程だ。
就職も考えて、何社か受けてはみたが、どの会社も自分に合う気がしなかった。
研究生になるか、という薦めは受けているが、研究生になる程熱い情熱を持っている訳では無い。
取りあえず暫く自分に合う事を探して大学に入り直すなり専門学校に入るなりしようと思っている。
しかしながら、それを教授に説明するのは憂鬱だ、ともう一つ溜め息をついたところに、ぴんぽんと呼び鈴が鳴った。
時間を見ると10時。こんな時間に誰だろう、と出ると、そこには金髪の己の弟の家庭教師の男性が立っていた。
「よ。邪魔するぜ。」
と、中に招いて、紅茶を出す。
「いきなりどうしたんですか?ディーノさん。」
弟の家庭教師だと言っていきなり来たのはいつのことだったか。
余り遠くは無い話だと思う。
「いやぁ、実は今日イタリアに帰ることになってなぁ。」
「今日ですか。いきなりですね。」
そうだった。この人はイタリアの人だったんだ。と思うと同時に、昨晩共に酒を飲んだXANXUSもイタリア人だと言っていたことを思い出す。
「あぁ、用事が出来ちまってな。あ、いつでも遊びに来いよ。卒業した後、時間あるんだろ?」
「そうですね。海外旅行ってしたこと無いですし、卒業した後少しお邪魔しても良いですか?」
「勿論だ。暫く住んだって良いんだぜ。」
卒業後については彼にも相談していた。
何しろ、気軽に話をできる年上の人というの身の回りに彼しかいなかったのだ。
「おっと、もうこんな時間だ。」
と、慌ててディーノは紅茶を飲み干した。
「じゃぁ、また来るときは連絡くれよな。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「おう、気にすんな。じゃぁまたな。」
ちょっと其処まで行って来る、というような調子で彼はひらりと手を振ると去って行った。
「さて、と。私も行く準備しなきゃ。」
午後からの講義と、教授からの小言が待っている、とも立ち上がった。
お酒