日本行きの便の搭乗が始まったというアナウンスが響く。
は横に座っていた恭弥を見た。


「・・・出かける時は彼の部下を絶対連れて行くこと。」
「うん。」


何回も言われた言葉だが、はこくりと頷いた。


「此処は日本程、治安が良い訳じゃ無いからね。十分注意するんだよ。」
「うん。」
「いつでも僕が駆けつけられる訳じゃないから。」
「うん。」


ディーノとロマーリオは呆れたように恭弥を見た。
彼は座っているの肩をがっしりと掴んで、小さい子に言い聞かせるように注意事項をつらつらと述べる。


「・・・恭弥、それくらいにしとけよ。もうそろそろ行かねぇと。」
「もうそんな時間?」


ロマーリオはやれやれと首を振って時間を読み上げた。


「15時15分だ。」


最後に、ぎゅうぎゅうと痛いくらいに抱きしめて、恭弥は背を向けた。
というか、背を向かされた。


「ほら、なら俺がちゃんと見とくから!もう、行けって!」
「・・・何かあったら、殺す。」


ぐいぐいと背中を押されながらも、恭弥はしっかりと脅してゲートの奥に消えた。










Incomplete Love Story #14


LAST STORY?















やっと帰った彼に、ほっとしたやら嬉しいやら。
ディーノと、そしてロマーリオは3人で空港の近くのカフェに入った。


「しっかし、予想以上にあっさり帰ったな。」


拍子抜けした。と、ディーノはカプチーノを口に含んだ。
ロマーリオも同感なのか、頷いている。
自身、まさかこの短期間で帰るとは思っていたかと聞かれるとそれは否だが、理由は何となく分かっていた。
それは、この区切りを受け入れることに対するけじめだと思うし、何より、ディーノの存在が大きい。

「きっと、ディーノさんの所にお世話になるって約束したからだと思いますよ。」


ハニーラテを口に運ぶと程よい甘さが口に残る。
その暖かみに、は小さく微笑んだ。


「そうかぁ?」


信じられないという顔でを見ているディーノには微笑む。


「そうなんですよ。恭弥って口ではあんなことばかり言ってるけど、結構ディーノさんの事を信頼してるんですよ。」
「そっかぁ。恭弥の奴。」


照れたように笑うディーノに、ロマーリオは「単純過ぎだろ、ボス」と呟くが、ディーノには聞こえていない様だ。


ぴぴぴ


唐突に鳴った携帯に、はバックをまさぐった。


「すみません。」


ようやく見つかった携帯のディスプレイにはXANXUSの文字。
それを一緒に覗き込んでばっちり見ていたディーノに、はすまなさそうに言った。


「おう、気にすんな。」


そう言ってくれているし、此処で無視すると後で機嫌を損ねそうだし、とは通話ボタンを押した。


「もしもし。」
『・・あいつは帰ったか?』


随分と仲が悪い様だ。第一声がそれとは。


「はい。さっき帰りましたよ。」
『そうか。』


その言葉が安堵の響きを伴っていて、苦く笑ってしまう。
一番望ましいのはこの彼と、弟が円満に仲良くしてくれることだが、それは叶いそうに無い。
聞く所によると、結構前に、色々とあったらしいということは聞いているが、詳しい内容は知らないので何とも言えない。


「あ、ディーノさん!それ、私のティラミスです!」


なんて思いながら会話を続けていると、自分が頼んだティラミスにスプーンをのばしているディーノの手が見えて、思わず声をあげてしまう。
ディーノは素早くスプーンでティラミスをすくうと、それを口に運んだ。


「あ!」


ひどい!と更に声をあげると、我慢出来なくなったのか、XANXUSが低い声で呟いた。


『おい、跳ね馬に、覚えていろと言っておけ。』
「え?」
『あと、今から迎えに行く。場所を教えろ。』


ボス、大人げないぜ。とロマーリオは溜め息をつくその前で、は店の名前を告げると携帯を閉じた。


「お、XANXUSのやつ何だって?」
「良く分からないんですけど、ディーノさんに覚えていろって・・・。あ、あと、今から迎えに来るって言ってました。」


何なんだろう、と首を傾げるの目の前でさっと顔を青くさせるディーノに、その横のロマーリオは面白そうに笑ってディーノの肩を叩いた。


「こりゃぁ誤解されたなぁ。後で怒られるぜ、ボス。」
「勘弁してくれよ。ただ、美味しそうだったから食べただけだろ?」


はようやくスプーンに手を伸ばすとティラミスを口に運んだ。
甘い味と共に少し苦い味が広がって、ううんと唸る。


「おいしー」
「だろ?此処のティラミスは絶品なんだぜ。」


すっかり先ほどの話が頭から抜けてしまったディーノは自慢げに言う。





















XANXUSはその言葉通り、10分程でカフェに姿を現して。
決してカフェが似合う訳では無いが、躊躇う事無く入って来たXANXUSはを見つけると手を引いて連れて行こうとするが、ディーノがまぁまぁと声をかけた。


「まぁ座れって。これから何かと付き合いが多くなるしな。」


先ほどの電話の一件で機嫌の悪いXANXUSはぎろりとディーノを睨みつけるが、舌打ちをすると、仕方が無いというように乱雑に腰をかけた。
不機嫌そうに店員にカプチーノと告げると、再びディーノを睨みつける。


「呼び止めたのには訳があるんだ。」


そう言って、ディーノはごそごそと懐を探った。
初耳だととロマーリオはお互いに顔を見合わせて首を傾げた。


「あったあった。ほら、これ。」


そうして取り出した封筒をテーブルの上に置くと、XANXUSがそれを拾い上げて開いた。
入っていたのは一枚の紙で几帳面に折り畳まれているそれを開くと、これまた几帳面な文字で書かれた(もちろん日本語だ)文字の羅列。
もう一枚あるのか、ディーノも同じものを取り出して開いた。


「その一、門限は原則20時。」


XANXUSの頬がひくりと引きつった。


「その二、外出する時には必ず護衛を1人は付けること。その三、外泊は必ず僕・・恭弥だな。恭弥に許可を取ること。・・・っていう決まり事が30項目。お互い守って行こうぜ。」


どうやらそれは、ディーノとXANXUSの二人に向けた手紙のようで、XANXUSはそれをその場で破り捨てようか迷って、封筒に押し込めると懐にしまった。


「シスコンもここまで来ると天晴だな。」


ロマーリオはそう呟いてアイスコーヒーを啜った。
折角邪魔な奴が居なくなったと思ったのに、中々思う通りにはいかないようだ。


XANXUSは深く溜め息をついて、エスプレッソを飲み干すと、の手を引いて立ち上がった。


「20時までには帰せよー」


その背にひらひらとディーノが手を振る。


「あ、行ってきまーす」


それにが笑顔で手を振り返した。









これでおわり?



2011.4.3 執筆