走るXANXUSに抱きかかえられたまま、町を走り抜ける。
とは言っても、人通りの少ない路地を一応選んでいるのか、それほど目立ってはいない。

抱きかかえられた体勢のまま、背後を何気なく見ると、後ろを走っているスクアーロと目が合って、取りあえず手を振っておいた。


(チッ、暢気な女だぜぇ)


悪態をつきながらも、これからどうなるのか、少し楽しみだとにやりと笑った。











Incomplete Love Story #10










ヴァリアーの敷地内に入ったところでようやくXANXUSはを降ろした。


「お疲れさまです。疲れてませんか?」


人1人抱えて結構な距離を走ったのだ、疲れているだろうと声をかければ「んな訳あるか」と素っ気ない返事。


「そうですか。まぁ、何はともあれお茶にしましょう。」


それもそうだな、と、XANXUSはスクアーロを見た。


「おい、紅茶と酒を用意しろ。」
「あ、折角ですから下僕さんもご一緒にいかがですか?」
「下僕じゃねぇ!!スクアーロだ!!!」


と名前を訂正したらはきょとんとして、「スクアーロさん、ですか」と小さく口の中で呟いて、にこりと笑った。


「それは失礼しました。スクアーロさん、ですね。」
「んなヤツ、カスで十分だ。」
「またまたぁ、仲が良いほど・・ってやつですか?」


くすくすと笑うに、スクアーロは緊張感ねぇなぁ、と心の中で呟いて紅茶と酒を用意するために背を向けた。


「それにしても、あんな中堂々と連れ去ってくれるとは思いませんでした。」


ちょっとロマンチックでしたね。と笑いながら2階にあがるXANXUSに続く。


「・・あれがロマンチックか?」
「そうですよ。だって、中々あんな体験出来ませんよ?」
「・・・・」


まぁ、確かに中々ないかもしれない、と心の中で呟いてXANXUSは蹴破るように自室兼執務室の扉を開いた。
XANXUSはそのままつかつかとソファまで行ってどすりと腰掛けるので、はすこし迷った後、XANXUSの目の前に腰掛けた。


「・・・それで、お前はどうしたいんだ。」


どうしたいか、という問いかけにはこてりと首を傾げた。
その表情は曖昧に微笑んでいて、XANXUSは眉を寄せる。


「帰りてぇのか?」
「うーん・・・そうですね・・・まだ帰りたくは無いですが・・・」


歯切れの悪い言葉に、そして『まだ』という言葉にXANXUSは益々眉を寄せた。


「何て言うか、やっぱり弟のことは心配で・・・」
「心配されるようなヤツか?」


XANXUSの知る限り、恭弥は人に心配されること等良しとせず、一人で突き進むタイプだ。
まぁ、先ほどの恭弥の様子を見たところ、随分と執着している様子だったが。


「あー・・・そうですね。確かに恭弥は凄くしっかりしてて、きっと私がいなくてもどうにでもなるとは思うんですが、やっぱり姉としては。ってやつですかね。」


ぽりぽりと頬をかくはXANXUSはテーブルにあったウイスキーをグラスについで呷った。


「・・・・お前は・・」
「紅茶と酒持って来たぞぉ!」


言いかけた時にタイミング良く入って来たスクアーロに殺意を覚えたXANXUSはウイスキーの瓶を勢い良くスクアーロに投げつけようとしたが、スクアーロが紅茶をに渡しているところだったので、仕方なしに瓶をテーブルに置いた。


「・・・帰るなって言えば良いじゃねぇか、ボス。」
「え?」


スクアーロが酒をXANXUSの前に置きながらぼそっと言うと、は首を傾げ、XANXUSは今度こそ瓶でスクアーロの頭(それも後頭部だ)を殴りつけた。
そして、そのままテーブルに落ちそうになるスクアーロを蹴り飛ばして、テーブルの上の紅茶と酒が溢れるのを回避する。


「あ、スクーアロさん!大丈夫ですか?」


ハンカチハンカチ!と、立ち上がると、その腕をXANXUSが掴んだ。


「カスは放っておけ、それより・・・」


そうだ。確かに、スクアーロの言う通り、帰るな、と言えば良い。
それで彼女がどう判断するかは分からないが、自分がするべきことは意思を伝えることだ。



「え。あ。はい。」


改めてきつくその視線に射止められて、は佇まいを直した。


「・・・・」
「・・・・?」
「・・・・・・・」
「あ、あのー・・・」


(ちょっとこの体勢きついんだけどなぁ)


引っ張られている腕のせいで、少し前屈みになっている体勢は確かにきつい。


「・・・・帰るな」


沈黙の末、唐突に言われたことばには一瞬固まった。


「え、えーと、それってどういう・・・」
「チッ」


XANXUSは舌打ちしてから目の前の酒を一気に飲み干した。


「あのー・・・」


いきなり一気に酒を飲んだXANXUSを前に、困惑するしかないはXANXUSを見つめる。


「・・・好きだっつってんだ。」


はぁ、と溜め息をついてぼそりと言われた言葉にかっと熱が顔に集まるのを感じた。
この雰囲気でまさかまさかとは思っていたが、と少し目を瞑る。


「・・・明日、迎えに来ることになってる。それまでにどうするか・・・」
「XANXUSさん。」


今日はよく言葉を遮られるな、と思いながらもXANXUSはに目をやった。


「えぇと、実は・・・あー・・・」


ぐわあああ!やっぱり無理!とは顔を背けた。
そして、いつの間にか解かれていた腕に気づいて、さっとスクアーロに寄るとゆさゆさと肩を揺さぶる。


「スクアーロさん、スクアーロさん。やっぱり紅茶じゃなくて、お水下さい!冷えてるやつです!!」
「あ"ぁ"!?」
「さっさと行け。」


静かに告げられて、スクアーロは渋々と部屋から出て行った。
ぱたんと扉が閉められて、部屋には二人だけとなり、は固く手を握った。


「あの、実はですね・・・」
「あぁ」
「あー、何て言えば良いのか・・・」


顔を赤くして、もごもごとしているので、流石にXANXUSも気づいた。
くっと笑うと、口を開く。


「残るのか?」


結局はそこに繋がる話である。
まっすぐに聞かれて、はきゅっと息を飲んだ。


「残ります。」


そうして口から出た言葉には、いつもとは違う決意が見えた気がした。










決断