雨が薄く降る夕方。
紙袋をぶら下げた女性が一人歩いていた。
女性は気に入ったものが手に入ったのか、鼻歌まじりで歩く女性の足取りは雨にも関わらず軽い。


「おっと」


石ころにつっかかり、転けそうになるが、それはどうにか止める。
代わりにと言っては何だが、突っかかれた石はというと、勢い良く跳ね上がり、目の前にいた男性の後頭部へと。


「危な・・・」


危ないですよ。と暢気に声をかけようと思ったら、男性はちらとこちらを向きながら石を手で捕まえた。


「・・・・」
「・・・・」


(何だろう、凄く責められている気分。いや、実際私が悪いんだけど。)


女性は男の目からそらせずに、ようやく口を開いた。


「あのー、何だか、すみませんでした。宜しかったら何か・・・あぁ、お茶と・・ついでに喫茶店までの傘、如何ですか。」


そういえばこの人は傘をさしていない。ということに今更ながら気づき、数歩進んで彼女は自分の傘の中に入れた。
とは言っても男性が大き過ぎて、頭がすれすれなのだが。


「・・・貸せ」


自分の目線が傘で遮られているのには流石に耐えられないのか、男性は傘の柄を女性から奪い取った。


「あぁ、そこの角を曲がるとカフェが・・・って、それ私の傘なんですから、私も入れて下さい!」


すたすたと進んで行く男性を追いかけながら何故こんなことになったのだろうか、と首を傾げた。
まぁ、当人の不注意が原因に他ならないのだが。





















Incomprete Love Story #1























リング争奪戦の後、ヴァリアーの面々の処遇をどうするかの会議が終わるまでホテルに滞在を強いられていた訳だが、どうにもこうにも退屈になってXANXUSは外に出た。

既に傷は癒えていて、少し降っている雨は何て事は無いが、少し冷える。

取りあえずどこか酒でも飲める所へ、と思っている所に、後ろで聞こえて来た間抜けな声と何かが飛んで来る気配。


「危な・・・」


という声にXANXUSは後ろを振り向きながら飛んで来た石を掴んだ。


それからどういう訳か、目の前にはコーヒーとその向こうにちょこんと座っている女性。
本当ならば無視してそのまま酒でも飲みに行っている所だが、どうやら自分は少しおかしいようだ。とXANXUSはコーヒーに手を伸ばした。


「そういえば今更ですけど、私、雲雀と申します。お名前を伺っても宜しいですか?」
「・・・・XANXUS」


は小さく反芻するようにXANXUSさん、と呟いた。


「それで、XANXUSさんは観光か何かで日本に?あぁ、でもそれにしては日本語がお上手ですね。」
「・・・あぁ。」


(日本語は、昔爺が・・・)


教えてくれたからこんなにも身に付いてしまっている。


「そうなんですね。」


そう思いを少し馳せてみたが、すぐにの声で打ち切られ、目の前の彼女を見た。
余り良く見ていなかったが、よく見れば整った顔をしている。
何より、性格的に今まで周りにいなかったタイプだ。


「あ、良かったらケーキでもどうですか?ここのケーキ、美味しいんですよ。」


特にチーズケーキが。
と、押してみると、XANXUSは「おい」とウェイターを呼んだ。


「チーズケーキ」
「お一つで宜しいですか?」
「あぁ」


そう言うと、ウェイターはにこやかにかしこまりました、と頭を下げて去って行った。


「一つって、私も食べたかったのに・・・」
「・・早く言え」


と言っている間にすぐにチーズケーキはやって来て、はもう一つ、と頼もうと思ったが、そこはXANXUSに制止された。
XANXUSはフォークを持つと一口、口に入れて、ケーキの乗った皿をの方へやった。


「もう良いんですか?」
「あぁ」


そう言うと、は嬉しそうに笑って、それはもう楽しそうにフォークを手に持った。


「では、遠慮なく・・」


そうしてぱくぱくとチーズケーキを食べて行く。


こんなに幸せそうに食べるヤツ、初めて見る、と何とはなしにの食べている姿を眺める。


「XANXUSさんって一見恐そうなのに、優しいんですね。」


その言葉に呆気に取られて言葉を失っていると、付け加えるようには言葉を発する。


「あぁ、チーズケーキをくれたからだけじゃ無いですよ。・・・信じられないって顔してますね。」


苦笑して、もう一口チーズケーキを口へと運んだ。


「でも、きっとそうだと思いますよ。私の勘は当たるんです。」
「・・・・変な女だ」
「そうですか?」


首を傾げて、ぱくぱくとはチーズケーキを食べてしまった。


「時間も時間ですし、そろそろ行きますか。誰かご一緒にいらっしゃってる方はいらっしゃらないんですか?」
「・・・いるにはいる」
「そうですか。」


そう言いながらは伝票を取ろうとしたが、XANXUSが一足早くそれを取り上げ、は空をつかむ。


「あの、此処は私が・・・」
「・・・いい。」


XANXUSはそのままレジへと向かってさっさと支払いを済ませてしまう。
その姿を、複雑な表情で見つめていたは、支払いが終わった、と目で言う彼の後ろをついて外へと出た。


「雨、止んで良かったですね。」


いやー良かった良かった。と言うと、全く噛み合ない言葉が返って来た。


「・・・・お前、酒、飲めるか」
「え?」


何だ、と問い返すと、少し不機嫌になった顔がこちらを向いた。


「酒は飲めるかと聞いてる」
「あ、えぇ、少しは・・・」
「付き合え」
「お酒にですか?」
「他に何がある」


少し考えては頷いた。
こうして何かの縁で知り合いになった人と飲みに行くのも悪くは無いし、幸い明日は取っている授業が午後からだし、何より、いつもはうるさい弟が今日は不在だ。


「あ、良い所知ってるんです。此処からも近いですし・・・そういえば、XANXUSさんの泊まってるホテルってここから遠いんですか?」
「・・いや」
「じゃぁ、良いですね。こっちです。」


と、大きな紙袋を肩にかけ直してが歩き出すので、その後ろをXANXUSはついて行った。













奇妙な出会い