出来た白菜と豚肉の蒸し焼きは中々の出来映えで、一人満足する。
配膳する間にみそ汁を暖め直そうと火をかけて、お盆にご飯とお箸とコップを二つ乗せた。
「臨也くん、できたよー。」
さっさと食べて頂いて、出て行って頂こう。
そう思って、持って行くと、ソファでくうくうと寝こけていたので、思わず蹴落としてしまった。
「ーーー!!」
覚醒した臨也くんはびっくりしてこちらを見上げてくるので、私ははっとして答えた。
「ごめん。つい。」
人が何の義理も無い相手に食事を作っているのに、我が物顔でソファを独占して寝こけられちゃぁ、そりゃぁむかつくってもんよ。
蹴落とすつもりはさらさら無かったが出てしまったものは仕方ない。
すごすごと起き上がった彼は配膳を手伝ってくれたので、まぁ良しとしよう。
Trip! Trip! Trip! #6
昨日、不本意ながらうちで夕食を共にすることとなった臨也くんは、夕食を平らげたあと、少しの会話を経て何事も無かったようにうちを後にした。
何が原因でこんな暴挙に出たのか、結局良く分からなかったが(いや、静雄くんが原因だとは思うんだけど、ここまでやる事ないでしょ?何か別の原因があると思う)、帰る頃には満面の笑みで帰宅してくれたので、まぁ、良いだろう。
「・・・やっぱり、何かあったみたいだね。」
席替えをして、隣は新羅くんだ。
4限目が終わり、そろそろお昼に行くかというところで、新羅くんに声をかけられて、私は苦笑した。
「いやぁ、まさかまさかの展開にびっくりしちゃったよ。」
「へぇ?それは是非聞きたいね。」
と、言われたものの、こちらにやってくる静雄くんに私は肩を竦めた。
「静雄くんの前で臨也くんの話をすると、ねぇ・・・。」
「確かに。でも、もう遅いかもね。ほら。」
指差す先には臨也の姿。
おいおいおい、昼前にやめてくれよ。と、皆思ったに違いない。
「・・・臨也・・てめぇ・・!!」
いつものように、臨也を見た途端、鋭くなる目に、私と新羅くんは慌てて自分の荷物を手に取った。
巻き添えを食らうのは御免だ。
「まぁまぁ、シズちゃん。落ち着いてよ。」
「あぁ!?」
近寄って来た臨也は両手を上げた。
この行為に私たちはあっけに取られる。
「何の真似だァ?そりゃぁ」
「ちゃんが喧嘩しないなら一緒にいて良いって言うから。」
え、また私のせい?しかもそんなこと・・・
「言ってないって・・・。」
しかしながら、私の呟いたそんな小さなことばは静雄くんの「ふざけんなァー!良く分からねぇこと言ってんじゃねぇぞ、ノミ蟲くんよぉ!」という元気な声でかき消された。
「あれ?俺、まだ喧嘩売ってないけど、そっちから売ってくるの?おかしいなぁ、喧嘩は嫌いじゃなかったのかい?」
あぁ、確かに気に食わないわ、これは。
と、静雄くんの性格を考えて、私は静雄くんの背中を叩いた。
「どうどう。」
「・・・チッ!ほら、飯行くぞ!」
ということで。
お昼のために、いつも通り屋上にやって来た訳だけど、なぜか一緒にいる(それも私の隣にいる)臨也くんの姿に私は再びため息をついた。
「てめーの顔見ながら飯なんて食えるかァー!!」
「俺だって、シズちゃんの顔見ながら食べたくなんて無いさ。」
ということで。
やっぱり喧嘩勃発で、私と新羅くんは避難先の理科室で食事を取ることとなった。
静雄くんも臨也くんもいないということで、ちょうど良いので昨日の話をする。
「もう、びっくりしたよ。帰ったら臨也くんがいるんだから。」
「それって、軽く犯罪だよね。」
無断で合鍵を作っての不法侵入に流石に新羅くんもびっくりしたのか、驚いたように言われて頷いた。
新羅くんは気の毒そうに私を見て、言おうか言うまいか、迷ったあと、口を開いた。
「・・・ちゃんもさぁ、臨也の気持ちに気づいていない訳じゃないんだろう?」
「まぁねぇ・・・」
ぽりぽりと頬を掻いた。
そりゃぁ、あんなあからさまだと気づくよ。
「でも、ほら、臨也くんって人ラブでしょ?」
「趣味が悪いことにね。」
「臨也くんとは幼稚園が一緒だったんだけど、その時・・・うん、自分で言うのもアレだけど、私結構ませガキでさ。その時の私が気になってるんじゃないかなー、と。」
これは本心だ。
幼稚園の時、確かに私は異様だった。
けど、今は結構楽しく普通にやっているはずだ。そう。普通に。
「なるほどね。」
「だから、暫くすれば興味は失せると思うんだよね。」
そう言うものの、新羅くんの表情は「どうかな」と物語っていて、私は首を傾げた。
「新羅くんはそう思わないみたいだね。」
「臨也の君に対する執着は異常だよ。それを知ってるからね。」
と、いうことは、そういう話を臨也くんと話す機会があったのだろうか。
少し気になるところではあるが、話を聞いたところで、私がショックを受けるのは分かっているので、聞かない。
世の中知らなくて良いことはあるものだ。
「・・・・まぁ、様子を見るよ。」
そう言って、私はお弁当を片付け始めた。
もう昼休みが終わる時間だ。
「二人とも、お昼ご飯食べれたかな。」
そう、私が呟いた後、響く衝撃音。
次いで、叫ぶ聞き覚えのある声。
「・・・まぁ、食べれてないだろうね。」
新羅くんの言葉に苦笑しながら頷いて、立ち上がった。
昼食は騒音と共に