おりはらいざや。


思い出した。幼稚園時代、一番関わりのあった少年だ。
確かに可愛らしい顔をしていたが、うまい具合に成長したようだ。
どうやら、中身もそのまま別の意味でうまい具合に成長したようだが。
(静雄くんにはノミ蟲と言われ、新羅くんには反吐と言われているのだから、そうに違いない)

・・・・はて、私は彼と将来の約束なんてしただろうか。


脳裏に「ちゃん」と言って微笑む可愛らしい昔の彼の姿が蘇った。












Trip! Trip! Trip! #3














「思い出してくれた?」


嬉しそうに、本当に嬉しそうに折原くんは言う。
確かに折原くんのことは思い出したが、将来の約束云々については全く思い出せていないので、少し後ろめたい。


「あ、君まだいたの。さっさとどっか行ってくれない?」


打って変わって折原くんは苛々した様子でそう告げると、男子生徒はぐっと怯んだ後、私のほうを向いた。


「じゃぁ、返事は今度」


そうしてそれだけ言って走って去って行った。
さっさと断ってしまおうと思っていたのに、と、走り去って行く名前も知らない男子生徒の背中を眺め、ため息。


「ねぇ、ちゃん。」


肩にかかる手と、頭上から降ってきた声。
何だろう。少し、危険な感じがする。

肩にかかった手に力が入って、ゆっくりと体が折原くんの方へ向きかけた時、「!」と大きく呼ばれた声にびっくりして、声の主を振り返った。
そこには静雄くんがいて。


「伏せろ!」


と言って伏せると、石(というには大きいが)が飛んできた。
舌打ちして折原くんはその場から離れて、私はほっと息をつく。


「ほんと死んでくれないかな、シズちゃん。今良いところだったんだけど。」


そういいながら、折原くんはナイフを取り出した・・・って、ナイフ?


「ノミ蟲があぁぁぁ!!」


静雄くんはそのまま折原くんに向かって行く。
あれ、何だろう。この非常識な感じ。いつもだけど。


と、呆然としていると、新羅くんがやってきた。


「大丈夫?」
「あぁ、うん。でも何で二人ともここにいるの?」


新羅くんの手を借りながら立ち上がる。


ちゃんが遅いから、静雄が様子見に行くっていうから、ついてきたんだよ。そしたらまさか臨也といるなんてね。まさかとは思うけど臨也に呼び出されてたの?」


手紙の主は違った気がしたけど、と新羅くんの視線が言っている。


「あぁ、ほかの人だったんだけど、途中で折原くんが来てよくわからない展開になっちゃったんだよね。」


ぱんぱんとスカートについた土を払って、新羅くんと一緒に喧嘩している二人を見た。
はっきり言ってついていけない。


「とりあえず、帰ろうかな。6時から見たい番組あるし。」
「あぁ、アレね。セルティも見たいって言ってたな。僕も帰らなきゃ!」


新羅くんは普段は普通なんだけど、同居人のセルティさんの話になると、だいぶ性格が壊れる。
新羅くん曰く、彼女は妖精さんらしい。その時はそれほど可愛らしい人なのかと思ったが、次の「首がないところが一番のチャームポイントなんだ。あ、もちろん他にもいっぱいあるんだけどね!」と言う言葉が出るあたり、ちょっと変わっているらしい。


「一応静雄くんの携帯に連絡しておけば良いよね。」
「そうだね。」


教室に戻りながら二人で合意して、そのまま帰った。
後から聞くと、その後まず静雄くんが新羅くんの家にやってきて治療し、その後折原くんがやってきて治療したらしい。
なんだかんだ言って面倒見が良いんだと思う。



















「1日に2回シズちゃんとやりあうのはやっぱりきついな。」


新羅に、腕に包帯を巻いて貰いながら臨也は舌打ちをした。
だったらやめておけば良いのに、と思うが、今日の2回目の喧嘩は珍しく臨也から吹っかけた喧嘩ではなかったことを思い出して、新羅は口を開いた。


ちゃんとは知り合い?」
「知り合い?そんな軽い言葉で関係を表されたくないなぁ。」


少し不機嫌そうに、臨也は新羅を睨んだ。
いつもは余裕な表情をなかなか崩さないのに珍しい。


「彼女は、俺が初めて興味を持った人だよ。」
「へぇ、臨也にも初恋の人がいたんだ。」
「初恋?あぁ、初恋かもね。彼女のことを理解したくて、色んな人間を観察することを始めたから、そうなるのかな。」


それは、ちゃんも気の毒に、と新羅は微妙な表情のまま話を聞きながら心の中で呟いた。


「思わないかい?ちゃんの浮世離れした雰囲気を不思議だって。昔、俺は不思議で、不思議で、もっと彼女のことを知りたくて今まで色んな人間を見てきたけど、彼女ほど不思議な人間にはまだ出会ったことがないね。」
「確かに、ちゃんにそういう雰囲気があるのは認めるけど、世間一般的に言う、奇人変人には当てはまらないと思うよ。そういう所謂奇人変人たちの方が不思議なんじゃないの?」


そう言うと、臨也は「分かってないなぁ」と呟いた。


「彼女の不思議さは、類を見ない不思議さなんだよ。君と君の同居人みたいな奇人変人はある程度いるし、理解しようと思わない。面白そうじゃないからね。知ったところで、って話さ。でも彼女は違う。」


珍しく、話が理にかなっていない。
だいぶ感情論になっている。相当これは珍しくかなり人間的な感情を持っていることに驚きながらも、新羅は首を傾げた。

確かに、彼女は浮いている。
だが、一般人の道を外れている訳ではない。だが、普通とは違った場所を見ているな、とは思う。
それくらいで、臨也がこんなに執着するだろうか、と。


「高校を卒業した後、ゆっくり探し出して、どんな風に成長してるか観察しようと思ってたのに、その前にこうして出会うなんて運命だと思わないかい?」
「君みたいな反吐みたいな奴にこんなに執着されて不運だとは思うけどね。」
「はは、確かに執着してるかもね。なんて言ったって将来を約束した仲だし。」


それを聞いて、新羅は消毒する手を止めた。


「は?」
「ま、一方的にだけどね。楽しみだなぁ。」


うん。もういいや、と話すだけ話して満足したのか、臨也は立ち上がった。


「ってことだから、ちゃんには手、出さないでね。」


そして、それだけ言って去って行った。
少しの時間、思考を巡らせて、新羅は立ち上がった。


「セルティー!!大変だよ!臨也に先超されちゃったよ!!僕らも今すぐ将来を・・・ぶふぅっ!!」









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