あれほど鬱陶しいほどの家に押しかけてきていた臨也が家に来なくなって2日。
おまけに、学校にも来ていない。


「何かの事件に巻き込まれたとか・・・。」


ありえる、と自分の予測に頷いて、はため息をついた。
臨也がいなくて、自分の周りは平和だ。
雅と帰りがけ遊びに行ったり、静雄や新羅とご飯を食べたり。
待望の平穏だ、と手放しに喜べない自分に、はまさか、と自分を疑った。


「本当に、本気で、情が移っちゃった?」


愕然として、ぽつりと呟いた言葉に意見をくれる人はいなかった。









Trip! Trip! Trip! #17











夜中の2時。鳴り響く家の電話に、はむくりと起き上がった。
こんな非常識な時間に、家に電話をかけてくる相手は2人しかいない。
父と、母だ。


「・・・はい。」


不機嫌なのを隠す事無く出ると、母親が明るく電話口で話し始める。


『はぁい、。元気?の彼氏ったら凄く良い人ねー!あぁ、パパには負けるけど。ふふ。』
「・・・はい?」


いきなり彼女は何を言い出すのだろうか。


『さっきまで一緒にお昼ご飯食べてたのよ!あぁ、勿論パパも一緒よ。パパったら臨也君が帰った後、がお嫁に行っちゃうって泣き出して大変よぉー。』
「あぁ、そう・・・・って、え?何それ。」


一気に頭が覚醒する。
聞き間違えで無ければ、今、臨也だとか言っていなかっただろうか。彼女は。


『それにしても愛されてるのねぇ。臨也君、大学はと一緒のところに行ってすぐに結婚するつもりだから、どうにか日本に残して貰えないかって頼み込みに来たみたいよ。もう、ほんと、アツいわね!』


きゃぁ!と何故か母親の方がはしゃいでいる。
何が何だか分からずには頭を抱えた。


「つ、つまり、臨也くんがそっちに行って、ママとパパに会って、それで私を日本の大学に行かせるように説得してたってこと?」
『肝心なことが抜けてるわよ?結婚!あぁ、楽しみだわ!勿論チャペルよね?』
ー!俺は、俺は、まだ認めてないからなー!!!』


遠くから父親のむせび泣く声が聞こえる。
話が色々と飛躍していて、更に混乱させる。一体、臨也は何をやらかしてくれているのだろうか。


『ってことだから、次帰って来る時は臨也君もいっしょにね!バイバーイ!』


言うことだけ言って切られた電話を手に、は呆然と立ち尽くした。
時差を考えて電話をしろと言ってやるつもりだったのに、すっかりそんなこと忘れてしまうくらいの衝撃だ。
母親から大学についての手紙が来た時に、少し怪しいとは思ったが、まさか、まさか、こんな暴挙に出るとは。


「信じられない・・・」


すっかり目が覚めてしまった。
今日はもう眠れそうに無い。


















翌日、眠そうな顔で登校してきたに声をかけたのは静雄だった。
通学路が途中から合流しているのだ。


「よぉ、暗い顔してるな。」
「あ、おはよ。」


魂の抜けたような顔で笑いかけると、静雄は顔を顰めた。


「また、あのノミ蟲に何かされたか?」


ぴきり、と米神に血管が浮かび上がるので、は慌てて宥めた。


「いや、違う・・・あ、いや、違わないんだけど、とりあえず落ち着いて。」


どうどう、と馬を宥めるように言うと、静雄は大きく深呼吸をして、無理やり怒りを静めた。
だが、静まったところで、さっきの話をしたらまた怒り狂うに決まっている。
は少し考えて、後で話すとだけ言った。



その判断は正しかったかもしれない、と目の前で「あのノミ蟲がぁー!!」と叫んでいる静雄を前にぼんやりと思った。
自分含め、隣に座る2人も、臨也のことで静雄が激昂するのは慣れていて、驚いた風も無く、に話しかける。


「でも、凄いわよねー。卒業後、アメリカにいる両親の元へ行くかもしれないってだけで、アメリカに行っちゃうなんて!!」
「凄いっていうか、呆れるっていうか・・・」


新羅は微妙な表情でを見た。
自分の知らない間に両親のところに彼氏(仮)が乗り込むなんて、考えもしなかっただろう。


「それ、外堀を埋められてるって言うんだよ、ちゃん。」
「・・・・やっぱりそう思うよね。」


眠れない間、思い当たった彼の”目的”を言われて、は困ったなぁ、と呟いた。


「うちの両親、暢気だから母親は、おめでとうって、深夜2時に電話してくるし、父親は咽び泣いてるしで、もう、臨也君と一緒になるの前提になっちゃってるんだよね。」
「あら、でもちょっとロマンティックよね。」


どこがだ、とと新羅の視線が雅に向いた。


「だって、卒業したら離れ離れになるから、その前にご両親に嫁に下さいって言いに行ったってことでしょう?行動力あるわぁー。」
「行動力は確かに、有り余る位あると思うけど、ロマンティックかと聞かれると疑問だね。」


も新羅の言葉にうんうんと頷いた。


「普通は出来ないことを行動に起こさせる。愛の力よ!!」


ぐっと拳を握って、力説する雅に、と新羅は苦笑した。


「あいつはいつも普通は出来ないことばっかりやってるじゃねぇか。」


怒りは一応収まったのか、静雄は輪に入ると、どすんと腰を下ろした。
その顔はやはり不機嫌そうで、これ以上この話はしない方が良いかと思うが、雅は尚も続けるものだから変なところで空気が読めない。


「そうかもしれないけど、私、臨也君を応援しちゃうわ!」


その臨也君がこの前のいじめの首謀者だったんだけどなぁ、とは言えない。
これも、外堀を埋める内の一つなのだろうか。

だとしたら、臨也はむかつく位策士だ。






追い詰める策略家



2013.5.17 執筆