付き合った後も、臨也と静雄の関係は相変わらずだった。
いや、むしろ、更に面倒になった。

静雄は当たり前のことながら、が臨也と付き合うことに良い顔はしなかったし、臨也はとの関係が明確になったのを良いことに、それを引き合いにしてと静雄を引き離そうとする。
が仲裁に入ったら入ったで、浮気だ、とか、間男め!だとか言い出すので手に負えない。


「・・・・ということで、相変わらずここで食事?」
「教室で食べようと思ったんだけど、まぁ、ご想像の通り、2人が喧嘩を始めちゃって。」


屋上には新羅と雅とが3人で弁当を広げている。


「ほんと、臨也くんってのこと好きよね。妬けちゃう!」


相変わらず完璧な女子高生の雅はかわいらしいお弁当を食べている。
そして、の弁当も雅が作ったものだ。

1人分も2人分も変わらないという理由で、雅はの弁当まで作るようになったのはいつのことだったか。
手の込んでいるその弁当は、色合いも可愛らしさも完璧だ。


「何でもいいから、私は平穏な日常がほしい。」


ぽつり、とそんな希望を言ってみるが、隣の2人は冷たい。


「「無理だと思う。」」


は空を仰いで、ため息をついた。











Trip! Trip! Trip! #16











「それでさ、シズちゃんてば、こーんな大きな電柱を引っこ抜いちゃって。信じられないよね。」
「こう毎日毎日静雄くんに喧嘩をふっかける臨也くんも、信じられないよ。ねー、ちゃん。」


の代わりに雅が返すと、臨也は不機嫌そうに雅を見た。


「君には聞いてないよ。神埼雅人。」
「やだ、臨也くんてば、雅、だって!」


もう!と少し怒ってみせる彼に、臨也はどこまでも冷たい視線を送る。


「臨也くん、ミヤは私のお友達だからね。変なこと言わないでね。」


色々と言ってやろうと意気込む臨也に釘を刺すと、彼はの机に顔を乗せて不機嫌さをあらわす。


「こら!そこの3人!今は授業中だっつんてんだろ!何回言わす気だ!」


そして、今は授業中だ。
前は雅、横は臨也という配置に、大人しく臨也が授業を受けるはずも無く、毎回教科書を忘れた等と言って、の机と自分の机をくっつけて話しかける始末。


「先生、私は被害者です。」


主に喋っているのは臨也と雅だ。
はため息を付いた。


も同罪だ。さ、次のページを読め。」


授業を妨害されて迷惑を被っているのはこちらだというのに、罰だと言わんばかりに教科書を読めという教師に、心の中で舌打ちして、は教科書をめくった。
中学までは平穏に学生生活を謳歌していたというのに、この高校に入ってからというもの、問題児というレッテルを回りのせいで貼られている気がしてならない。


(進路、間違えたかな・・)


大学は平和に過ごせそうなところを選ぼう、と心に決めた。
しかし、同時に果たしてそれは上手くいくだろうかと疑問に思う。
自分で言うのも何だが、臨也の執着は異常だ。
臨也とは違う大学に行ったとしても、邪魔されるのが落ちだろう。


ちゃん?」


指定されたページを読み終わった後、ぼーっとしているを臨也が覗き込んだ。


「具合でも悪い?」
「ううん。ちょっと考え事してただけ。」


また話し始めると、教師が煩い。
はシャーペンを手に取ると、やっと黒板の内容を写し始めた。




















高校2年生の後半ともなると、進路希望なるものの提出を求められる時期がやってくる。
は配られた紙を眺めた。


「第一希望、折原臨也のお嫁さん。第二希望、同上。第三希望、同上。でどうかな。」


隣を向くと、にこにこと笑っている臨也がいる。


「えー、やっぱり此処は、私と同じ大学よ!ねぇ、ちゃん!」


前の雅も振り向いて、また2人はぎゃーぎゃー口論を始める。
静雄と教室が離れたことで、教室内で物が吹っ飛んだりすることは無くなったが、その代わりこの2人がよく口論をする。
どこに行っても自分の平和な日々は訪れなさそうだ。


「臨也くんは大学行かないの?」


2人の口論を止めようと、そう尋ねると、凄い勢いで臨也がの方を見た。


「何、俺の進路が気になる?ちゃんにならいくらでも教えてあげるよ。俺は情報屋になろうと思ってるんだよね。そしてその傍ら人間観察をしたり、気に入らないやつ・・あぁ、勿論先ずはシズちゃんだけど、そういう輩を消して、ちゃんと幸せな家庭を築こうと思うんだけど、どう?」
「えぇと、どこから突っ込んで良いんだか分からないんだけど・・・・。」
ちゃんにだって、選ぶ権利くらいあるわよ!私と大学に行って、良い男を一緒に探すんだから!」


それに、臨也が目を吊り上げる。
あぁ、せっかく2人の口論が止んだと思ったのに、これでは後戻りだ。


「俺よりも良い男がいる訳ないだろ。」
「そういう所が駄目なのよ。」


再び口論を始める2人を放っては立ち上がった。
進路は、とりあえず大学。学科は未定。九州や北海道に行けば臨也から逃げれるかもしれないが、何だかんだ言って臨也のことは気に入っているので却下。


「・・・・ってことは東京の大学かな。」


将来の夢は生憎と無い。
唯、女性として働いていくには、結婚・妊娠・出産・子育てのタイミングで休職もしくは転職を考えておかなければならない為、何かしら資格を取っておけるもの、もしくは家で仕事が出来そうなものが良いだろう。


「看護師だったら食いっぱぐれなさそうだけど、私向いて無さそうだしなー。教職とか司書とかの資格でも取ろうかな。」


ぶつぶつ言いながら家へ向かう。
教職も向いていないと思うが、持って置けば職が無い間塾講師や家庭教師とかでやっていけそうだ。


「ま、今週中に決めよう。」


家に帰り着き、ポストを覗くと、チラシと手紙。
差出人を見ると親からで、何だか嫌な予感がする。

とりあえず後で見よう、と部屋に入った。



















ちゃん!置いてくなんて酷いよ!」


そう大声を上げながら臨也が家に入ってきたのは、が帰り着いてから数十分後だった。
夕食の準備をしていたは、包丁で野菜を切る手を止めずに「おかえり」と声をかける。


「もうちょっと早く帰って来る筈だったんだけど、シズちゃんに捕まっちゃってさぁー。」
「2人とも毎回良くやるね。」


ここまで来ると逆に仲が良いんじゃないかと思うが、それは決して口にはしない。


「あれ、手紙?」
「あぁ、うん。親から・・・って、何勝手に見てるの。」


見つけるなり、臨也は勝手に封を開けて、中身を取り出してしまった。
しかし、もう読んでしまっているので、取り上げるようなことはしない。
簡単には渡してくれないのは分かっているから、時間の無駄だ。


「・・・・へぇ・・・・・。」


手紙を読み終わった臨也は怖いくらい笑顔だった。
やはり臨也にとって余り良く無いことが書かれてあったらしい。


「何て書いてあった?」
「大学、アメリカに来たら?だって。まぁ、許さないけどね。」


臨也は手紙を丸めるとゴミ箱に放り投げた。


「ちょっと!人の手紙を勝手に捨てない!」
「えー、もう内容は確認したし。」
「私は読んでないでしょ?」


はぁ、と呆れながら、手を止めると、ゴミ箱から手紙を引っ張り出してポケットに突っ込んだ。


「いい匂いがしてきた。今日のご飯何?」


臨也は、自分のした事を悪びれもせずに鍋の中を覗いている。
今更言っても無駄だとは分かっているが、思わず口を開いてしまった。


「臨也くん、その性格もうちょっと何とかなんないの?」





進路



2013.5.15 執筆