ちゃー・・・」


昼休みを告げるベルの音。臨也は少し離れた席にいるに向かって声をかけようとしたが、それはの目の前の席の人物、つまり雅人の声でかき消されてしまった。


ちゃん、お昼行っきましょー!」
「あぁ、うん。」


臨也はむっと眉を寄せた。


(折角一緒のクラスにしたのに、悉く邪魔をされている気がする)


2人連れ立って教室を出て行く姿を見つめた。


「神崎雅人、ねぇ・・・。」


1年の時から彼の存在は知っていた。
臨也にとって彼も興味深い観察対象の1人だ。


(面白く無いなぁー)


臨也は心の中で呟いて立ち上がった。











Trip! Trip! Trip! #14













今日は生憎の雨だった。
いや、登校する間は太陽が空に居座っていたのだが、どういう訳か急に雨雲が集まり始めたと思ったら、この土砂降りの雨だ。


「・・・今日は雨の心配無しって、言ってたじゃん。お天気お姉さん。」


空しく呟くも、ざあざあと容赦ない雨音ばかりが響く。


ちゃん、帰ろうか。」


参ったなぁと立ちすくむの肩を叩いたのは矢張り臨也で、彼の手には大きめのビニール傘が一本。
は彼の顔を見て、傘を見て、そしてまた彼の顔を見た。


「準備良いね。」
「まぁね。」


開いた傘に、出された手。
空を見上げると全く止む気配は無くて、はその手を取った。


「置き傘してた筈なんだけど、どこ行っちゃったんだろ。」
「どこだろうね。」


にこりと笑って言われた言葉に、臨也がどうにかしてしまったことが伺える。
全く、この男は、と溜め息をつくものの、彼を突き放すようなことをする気は起きない。
これだけ一緒にいるのだ、情もわく。


ちゃん、最近、あれと仲が良いよね。」
「あれ?」


尋ねると、臨也の顔が不機嫌に歪む。


「神崎雅人。」


出て来た名前に、あぁ、と頷く。
静雄やセルティに次いで最近よく言葉を交わす人物だ。


「今まで回りに居なかったタイプから、かな。」
「へぇ?」


面白く無い、と顔にでっかく書かれている様だ。
それでも笑顔を崩さないという、面白い表情をしている臨也には思わず笑った。


「やだなぁ、妬いてるの?雅は女友達の位置づけなんだけど。」


自分たちが友人以上、恋人未満なのは重々自覚しているし、そのぼんやりした境界に臨也がやきもきしているのも感じ取っている。
だからこそ、違うとはっきり言うことで丸く治めようと思ったのに、それは失敗してしまったらしい。


「俺としては、男とか女とかは余り関係ない。」


その真意を考えながらは足を進めた。
相変わらず雨はやむ気配がない。


「・・・困った子だね、臨也くん。」


幼稚園時代を思い出した。


















夜の公園。
その端に位置する此処は薄暗く、1人で居るには適さない場所にあたるだろうが、とある人物が隣にいるためか、全く不安は感じない。


「・・・確かに、小学校の時から臨也くんは相当変わってたし、変な独占欲みたいなのはあった、と思う。」


首の無いグラマラスな女性はの横で頷く。


「でも、それは小さい子にある、子供特有のものだって思ってたんだけど、流石にこの年になってそれは無いんだろうし・・・。」


小さい頃とは違って、実力行使も可能な今の臨也。
質が悪い。


『あいつは質が悪い。何かあったら言ってくれ。』


気遣うセルティの言葉は、きっと臨也について知っているからこそ出て来た言葉だろう。
はどうしたものかと溜め息をついた。

臨也の事は勿論、憎からず思っている。
情が移ってしまったのか、はたまた純粋に惹かれているのかは知らないが、いつのまにか大きい存在になっているのは真実だ。

でも、行動を起こす前に、自分がここの世界の人間ではないということが彼女を思いとどまらせる。
だからどうした、と聞かれれば、別に、としか答えられないが、感覚的に抑制がかかるのだ。


?』


それっきり黙ってしまったが気になったのか、目の前にPDAが差し出されて、は意識を戻す。


「ごめん。ぼーっとしてた。」


謝るとセルティは首を振る素振りを見せる。


『気にするな。それよりも、悩んでるんだったら相談してくれ。私に力になれることがあったら力になりたい。』


そう言う男前なセルティには一瞬難しい顔をしたあと笑った。


「何て言うか、セルティが男だったら完全に惚れてるね。」


こんなに親身になってくれる友達がいる。
それなのに、今まで何処か一歩引いてこの世界で生きて来た自分が本当に少しだけ、恥ずかしくなった。


『な、なに馬鹿なこと言ってるんだ!』


照れた様に言って、セルティは立ち上がった。


「?」


きょとんとして見上げると、差し出されるPDA。


『もう遅い。送って行くよ。』


そして差し出された手にぐいと引っ張られて立ち上がるのを手伝ってくれる。


「・・・ほんとうに、格好良いよね、セルティって・・・」


バイクの後ろにまたがりながらぽつりと呟く。
女にしておくのが勿体ないと言いたい所だが、そんなことを言ってしまうと新羅に殺されそうなのでそれは言わないでおいた。











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