季節は巡り、2年生になった。
薄い予感はばっちり当たり、張り出されているクラス割りを見ると、と臨也が同じクラスで、静雄と新羅が同じクラスだった。
「・・・・」
最近は情が湧いて来たのかどうだかは分からないが、臨也とは友人以上恋人未満の関係を続けているとしては、学校生活まで(まぁ、今までもちょくちょく自分の所に湧いて出て来ていたが)一緒になってしまうと、四六時中一緒にいる恐れのあるこの状況はなんとか回避したいところだ。
「・・・まぁ、臨也がやりそうなことだよね。」
隣に居た新羅は苦笑しながらの肩を慰めるように軽く叩いた。
「やっぱり、そう思う?」
「そりゃぁね。ちゃんと臨也が一緒で、僕と静雄は一番離れた場所にあるクラス。これはもう仕組まれたとしか思えないね。」
は再び溜め息をついた。
「どうしたんだ?」
その背から声をかけたのは静雄で、彼はそのまま視線を二人の背後にあるクラス分けに移した。
視線は、自分の名前とその近くにある新羅の名前を捉えたあと、少し時間を置いてと臨也の名前を捉えた。
(あ、やばい)
瞬間、二人は身構えた。
「あのノミ蟲の野郎ぉー!!!!」
そして、クラス分けの貼られていたボードは木っ端微塵になった。
うわ、逃げろ、平和島が切れたー!と口々に叫んで生徒は散り散りになり、残ったのはと新羅とたった今ボードを破壊した静雄だけだ。
(他の人、クラス分け見れないんじゃぁ・・・)
「いいじゃん。新羅とは一緒にしてあげたんだから。」
心配するものの、その思考を遮る様に後ろから声がかかった。
凶暴化した静雄と、その傍にいた2人は聞こえて来た声に、一同はその声の主を見る。
「やっぱりお前の仕業か、臨也ぁ!」
「何でシズちゃん怒ってるの?」
臨也は首を傾げながら歩みを進めた。
「もしかして、ちゃんのこと好きとか?」
やだなぁ、と笑いながら言うが、目が全く笑っていない。
静雄は問われて、さっと顔を赤くした。
「ば、ばば、馬鹿かお前!何言って・・・」
ははぁ、と大きく溜め息をついて臨也を見た。
はっきり言って、今、自分と臨也の関係は物凄く微妙だ。
恋人と友達の境界のすれすれにいるは踏みとどまるべきか、それとも進むべきか全く決め切れていないし、余り考えたく無い話しだ。
「・・・まぁ、静雄くんと私は友達だしね。私は好きだよ、静雄くんのこと。」
新羅はそう言うに、小声で「火に油だよ」と呟いた。
その言葉通り、の態度が面白く無い臨也はナイフを取り出し、それに静雄は応戦。
「だって、癪じゃない。自然なクラス分けでこうなったんだったら良いけど、自分の好きな様に変えて。それに、クラスまで一緒になったら、臨也くんとは四六時中一緒にいる可能性があるし、それはきつい。」
「ちゃん、結構言うね・・・。」
「そうかな。」
「いや、でもちゃんらしいよ。」
そう言いながら二人は靴箱に向かって、上履きに履き替える。
「あーぁ、今日から新羅くんたちと、違うクラスかぁ・・・」
学年とクラスによって変わる靴箱の位置。
いつもはそう変わらない場所に二人の靴箱があったのに、今は見えない。
溜め息をついて、探し当てた自分の名前が貼られた新しい靴箱に靴を仕舞った。
Trip! Trip! Trip! #13
教室に入ると、もう半数以上の生徒が居て、は黒板に書かれている席表を見た。
窓側の真ん中辺り、まぁ、悪くは無いけど良くも無い席だ。
「私、神崎雅、ミヤって呼んでね(はぁと)」
どうやら、静雄くんとの小競り合いに苦戦しているのか、臨也は全く現れる気配はない。
そんなが割り振られた席につくと、目の前の少女が勢い良く振り向いて、はちきれんばかりの笑顔と共に言うものだから、はぽかんと彼女を見つめた。
「、ちゃんだよね。ちゃんって呼んでも良い?」
そう言って見つめられると、なんというか、微妙な気持ちだ。
「あ・・ぁ、うん。」
何なんだろう、この子。そう思いながら取りあえず頷いておくと、彼女は物凄く良い笑顔で身体を乗り出した。
「え?」
びっくりして身を引くが、狭い机と机の間。限界がある。
がたりと後ろの机とぶつかった椅子が、がたりと音をあげた。
「ありがとう!」
そう言いながらがしりと掴まれた右手は目の前の少女にぶんぶんと上下に揺らされた。
「え、えぇっと、あなた・・」
「もう、ミヤだってば。」
と、ウインク付きで言われては溜め息をついた。
なんだって自分にはこういう風にちょっと変わった輩が寄って来るのだろうか、と。
「分かった。ミヤちゃんね。」
「そう!あぁ、嬉しい!ちゃんとはお友達になりたいと思ってたの!」
「へぇー・・・」
自分の何がいけなかったんだろう。
考えてみると、すぐさま自分が目立つ要因が2つ程ぽわんと頭に浮かんで、最後にでかいのがその2人を押しのけてにやりと笑ったので、頭を小さくふって、そいつを頭の中から追い出した。
「ほら、ちゃんってあの、平和島静雄と折原臨也と岸谷新羅と一緒にいるでしょう?もう、どんな人かすっごく気になってて!」
「あぁ、やっぱりそれか。」
「中々切っ掛けが無かったけど、同じクラスになれて良かったぁ!」
そう言われて、は彼女に握られている自分の手を見た。
(?)
ふと、感じたのは小さな違和感。
だが、その違和感の正体を突き止める前に、教師が教室に入って来たので、彼女は手を離して前を向いてしまった。
「よーし、点呼取るから返事しろよー。」
そう言って始まった点呼に、一つだけぽかりと空いた席をちらりと見た。
どうやら、まだ戻って来るのには時間がかかるらしい。
「神崎雅人ー」
「やだ、先生。雅(みやび)って呼んでったら!」
その発言には前を見た。
周りもざわりと波打つ。
「あー、そうだったな。神崎雅人。」
「雅っつってんだろーがー!!!」
どうやら目の前の彼女、いや、彼の沸点も相当低いらしい。
がつんと蹴った机が吹っ飛んで、教師は肩を竦める。
「2年に上がっても相変わらずだな、お前。」
どうやら1年の時も担任は彼だったようだ。
(2年も、退屈しなさそう)
新たな癖の強そうな人物の登場に、漠然とそう感じた。
は放課後、何故かミヤとマックにいた。
「はい、コーラで良かった?」
ミヤの置いたトレイには紙コップが2つとポテトが乗っていた。
次いで、目の前に腰掛けた彼は、本当に女子高生だった。
「ありがとう。それで、私の何処を気に入ってくれたのかな。」
早速ポテトに手を伸ばす。
「ほら、私って、ばれちゃってると思うけど、生物学的に男でしょ?」
「みたいだね。」
同様にミヤの指がポテトに伸びて、自然と視界に入る。
しっかりとした節々は少しだけ違和感を感じさせた。
「最初はみーんな普通に接してくれるんだけど、男だって分かると男子は何かと五月蝿いし、女子は面白がって話しかけて来るのと気持ち悪いとかぬかすのばっか。」
「人は、異質なものを拒む習性があるから。」
そう言いながらはコーラのストローを口に含んだ。
「それ!こんなに、私、可愛いのに。」
「確かに。それ、毎朝巻いてるの?」
くるくると揺れる彼女の肩程まである髪の毛はつやつやと光を反射している。
茶色というよりも金に近い其れに、静雄を少しだけ思い出した。
「そうなの!ちゃんもやってみる?」
「や、良いや。」
首を横に振ると、くすくすと笑うミヤが目に入った。
女の子よりも女の子らしい仕草で笑う彼女に、よく研究しているなぁと関心する。
「あ、それで、友達になってくれるの?」
そうして小首を傾げて見つめるミヤだが、残念ながら彼はよりも結構背が高い。
見下ろされながら首を傾げて見つめられるなんていう中々無いシチュエーションに小さく笑って頷いた。
「うん、良いよ。」
頷くと、ミヤはぱちぱちとその大きな目を瞬かせた。
しっかりと付けまつげの盛られた目からは、瞬きする度にばさばさという音が聞こえてきそうだ。
「え、良いの!?」
がたりとテーブルに手をついて立ち上がると、周りから注目を集めてしまって、はこほんと咳払いをした。
「断る理由は別に無いしね。」
こうして1人、またちょっと変わった友人が増えた。
おともだち
2011/4/30 執筆