『は、臨也と付き合っているのか?』
夜の公園。
街灯があるとは言え、薄暗い空間の中、PDAの光に目を奪われる。
「いや、付き合ってないよ。唯のお友達。」
此処最近、よくされる質問だ。
しかしながら、と臨也が普段接している学校にいないセルティがこういうことを聞いて来るのには違和感がある。
「新羅くんが何か言ってた?」
『あぁ・・・まぁ、な。大変そうだな。』
その言葉と間に、新羅がどういう説明をしているか何となく分かった。
Trip! Trip! Trip! #12
あの一件(第7話参照)以来、すっかり茶飲み友達になった二人は、ちょくちょく一緒に時間を過ごす。
茶飲みとは言っても、カフェで二人でお茶する訳にはいかないので、の家か新羅の家でだらだらと過ごすのが常だ。
「セルティも何か飲めれば良いのにね・・・。あ、セルティ達が食べれたり飲めたりするものってないの?」
コーヒーが入ったマグカップを片手に尋ねると、セルティは首を横に振った。
『だから、料理を作るのが凄く大変なんだ。』
「あ、そっか。味見出来ないしね。」
自身、料理を作る時は余り計量スプーン等を使わずに感覚と自分の味覚を信じて作っている。
いつも何気なく味見をしているが、それが出来なければ結構作るのは大変だろう。
「でも、料理作るんだ。新羅くんのため?」
『い、いや、まぁ、居候させて貰ってるからな。』
顔は無いはずなのに、赤くなっている気がしては思わず笑った。
「セルティも素直じゃないなぁ。でも、作ったら凄く喜ぶんじゃないの?新羅くん。」
セルティといる時の彼を思い浮かべてみる。
彼女が自分のために料理を作ってくれたなんて言ってくれた日には、踊り出しそうだ。そして、調子に乗り過ぎてセルティに殴られてそうだ。
『・・・まぁ。こそ、どうなんだ。』
「へ?」
思い切り話をそらされて、振って来た自分の話に、少しだけ動揺する。
「あぁ・・えぇと、そりゃぁ家に上がり込んで来て、それが夕食時とかだったら作らない訳にはいかないから、作るけど・・・。」
『上がり込んで来る!?』
びっくりして、がたりと椅子が揺れた時、玄関の鍵ががちゃりと音を立てた。
鍵は空いていた筈だ。閉まった音だろう。
次いでがたん、とドアを開けようとするが、開かない音。
「・・来た。」
そうしてもう一度、がちゃりと鍵が回されて、ドアが開いて空気が動く。
ばたばたと足音がして、リビングの扉が開いた。
「ただいまー。何で鍵閉めてなかったの?不用心じゃん・・・って、うわ、首無しライダー。」
びっくりしたように言って、臨也は買い物袋をどさりと床に下ろした。
「ただいまって、おかしいでしょ。」
はぁ、と溜め息をついて、コーヒーを口に運ぶ。
隣のセルティも呆れたように頬杖をついた。
『・・・いつもこんな感じなのか?』
「まぁ。」
呆れた奴だ、というセルティの心の呟きが聞こえた気がして笑ってしまう。
「二人で何してるの?」
俺も混ぜて、ていうかむしろ空気読んで帰れという目でセルティを見ながら臨也は椅子に腰掛けようとするが、それをが許さない。
「ガールズトーク。だから、今日は帰って。」
「えー。」
じと、と今度はを見つめるが、は首を横に振る。
臨也は、肩を竦めて背を向けた。
『あいつは、合鍵を持っているのか?』
「結構前に作ったみたい。」
臨也が家を出たことを確認して、二人は会話を再開させる。
『信じられない奴だな。何故取り返さないんだ?』
「あー、何か、もう良いかなって。」
苦笑しながら言うと、セルティは首を傾げた。
『別に良いのか?』
「案外、臨也くんって無害だしね。番犬にもなるし。」
にこりと笑って言うは、か弱い普通の女性の筈なのに、セルティにとってとても逞しい女性に見えた。
16時頃、そろそろ仕事があるから、とセルティはの家を出た。
そして、玄関を出た所で、黒い固まりが壁に寄りかかって座り込んでいるのを見つける。
「やっと出て来た。」
あー、固まったぁ、と身体をごきごき鳴らして、すっくと立ち上がった臨也は今しがたセルティが閉めた玄関のドアを嬉しそうに開けた。
「ちゃん、4時のおやつ買って来たよ。食べたかってたプリン。」
そういう言葉が聞こえて来て、ぱたんとドアが閉まると音が途絶えた。
(・・・少し、臨也に対するイメージが変わったな。)
臨也に付きまとわれていると聞いていたから心配していたが、あれなら大丈夫そうだ、とセルティは足を踏み出した。
ガールズトーク
2011.4.3 執筆