NYに向かう飛行機の中、は空を眺めた。
肩はすっかり良くなって、全快。
あれから臨也とは一緒に晩ご飯を食べたり、たまに居座ったまま泊まって行ったりする、何とも言えない関係に落ち着いてしまった。


(良く無いよなぁ・・・)


普通をモットーに生きて来た筈なのに、おかしいな、いつの間にか道を外れている。


(最近の若い子にとっては普通なのかなぁ・・・)


日中は静雄と臨也が騒がしいし、夜は夜で臨也のせいで気を揉む毎日。
ゆっくりと、客観的に自分を見つめるのは久しぶりな気がする。


「Chicken or Fish?」


それにしてもお腹が空いたぞ。と思っていると、CAの人がやってきた。
それもとびきりの美人だ。


「チキンで。」


堂々とそう言うと、金髪でグラマラスな女性は少し笑った。













Trip! Trip! Trip! #10


















空港に降り立つと、「(はぁと)」と書かれた紙を持った両親の姿が見えて思わずげんなりとした。
本当に何時までたっても恥ずかしい人たちだ、と思いつつ、このまま出て行かない訳にはいかないので、がらがらとスーツケースを引きずって足を踏み出した。


ちゃーん!ここよ、こ・こ!」


そんな言わないでも分かるわ、ボケ。とはまさか言えるはずもなく、ぶんぶんと手を振る母親に手を小さく振り返した。


「ハニー、ようやくの再開だね。」
「えぇ、ダーリン」


なんて会話が聞こえて来るものだから、自然とひくつく頬と嫌がる足を叱咤する。
あれだ、自分がしっかり育ち過ぎたものだから、いつまでたってもあの両親はあの感じなのだろう。
もうちょっと手のかかる子供時代を送っておけば良かった。


「久しぶり、ちゃん!」


そう言いながら両手を広げて駆け寄って来るのだから、子としてはそれをしっかりと受け止めなければいけないのだろう。
はスーツケースを置くと、来るであろう衝撃に備えた。


そもそも、何故がニューヨークのかの有名なジョン・F・ケネディ空港にいるのかというと、それは昨日から始まった春休みが事の発端だ。
昨日届いたエアメールを開いてみれば、翌日である今日の飛行機のチケット。
なんだこりゃ、と首を傾げたところに、タイミングを謀ったかのように電話がなった。


『NY行きのチケット送ったの。届いた?』


そりゃぁこいつじゃねぇか、とは手にあるチケットを凝視して溜め息をついた。


『怒っちゃイヤ』


ハートマークが着きそうな勢いで言われてちょっとだけ殺意が湧いたが、チケット代が勿体ないので、仕方無く荷造りをして、翌日成田空港へ向かった訳だ。





















そして、何故かNYの両親の愛の巣でエプロンを纏い、食事を作っている自分にちょっとだけ涙が出そうになる。


「んー!おいしーぃ!」
「料理上手な所はハニーに似て良かったね。」


ざくり、とフォークが音を立ててブロッコリーに刺さった。


(甘い、甘過ぎる・・・)


げっそりとした表情でブロッコリーを乱雑に口に放り込んだ。
毎度毎度ながら、この二人を目の前にすると胸焼けを起こす。


(まぁ、羨ましいっちゃぁ羨ましいんだけどね)


いつまでたってもお互いがお互いに恋をするというのは本当に難しいと思う。
それは、周りを見ていてもそうだし、前の時、自分もそうだった。


「やっぱりこっちの高校に通って一緒に暮らせば良かったわ・・・一人で寂しいでしょ?」
「あー、いや、そうでも無いよ。友達もできたし。」


しかも最近はちょくちょく臨也がやってくる。
本意ではないが、1人でいる時間が以前よりも少ないのは確かだ。


「良い友達ができたんだね。良かった。」


柔らかく笑う父親に、否定するわけにもいかず、頷く。
確かに良い友達は出来たが、厄介な友達も出来たのも事実。


「あ、彼氏は?もう出来た?」
「え、ほんとかい、!」
「できてないよ。」


ショックを受けたようにがたりと立ち上がった父親に静かに否定する。


「ほんとにぃ?」


本当に色恋沙汰が好きな母親だ。
疑いの眼差しで見て来る母に、念を押す様にもう一度違うと告げた。


がNYに滞在する一週間の間、二人とも有給をしっかりと取ったようで、NYの家には余り滞在する事無く、観光名所めぐりに連れ回された。
実家というには少し違うが、両親が暮らしている家に滞在したのはわずか2日で、後は全てホテルだったこの一週間はめまぐるしくて、あっという間に時間が過ぎてしまう。
おかげさまでくったくたの身体のまま飛行機に乗り込んで、ぐったりと背もたれに背を預けた。
ちょっと食べ過ぎた、と、この一週間食べ続けた食事を思い浮かべて、酷使し続けた胃を撫でる。


「Chicken or Fish?」
「Fish please」


ちょっとは胃を労ろうと魚を頼んだのに出て来たのは魚のフライで、しまったと項垂れる。
疲弊し切ったこの胃へ、油断している所にこの攻撃。痛過ぎる。


「・・・今日からベジタリアンになろうかな」


脂っこい食事は中々辛い。
最後の一口を水で流し込んで、息を吐き出した。


「ねむー」


次いで襲って来た睡魔に、身を任せてそっと目を瞑った。








チキン or フィッシュ?