「あ、お弁当楓が持ってるんだった。」
お昼時、かばんをがさがさ探して、そう呟いたに、美咲は呆れたようにため息をついた。
「まるで流川はあんたの母親ね。」
「えぇー、違うよ。私のがお姉ちゃんだよ。」
どーだか、と笑う美咲は手でさっさと流川を探してくるように指示する。
昼休みは貴重な自由時間なのだから。
「もー、いっつも居るくせに、こういう時は近くにいないんだから」
ぶつくさ言いながら席を立つだが、原因は完全ににある。
「10分以内!」
「えぇ!いそぐ!」
厳しい条件には走り出した。
幼馴染シリーズ
探していた流川は見つかったものの、状況が不味かった。
校舎裏、いたいた、と声をかけようと近づいたが、他の女子生徒と一緒に居るのを見て、慌てて渡り廊下の影に隠れた。
ちらりと盗み見ると、耳まで赤くした顔の女子生徒に、不機嫌そうな流川の姿。
あぁ、いつものアレか、と合点が行くが、自分は早くお弁当が欲しい。
(どうしよ)
聞くつもりは無いのに、耳に入ってくる会話。
どうやら、流川は予想通り断ったようだ。
(・・・楓って、なんで彼女作らないんだろ。あんなにもてるのに。)
好きな人でもいるのか。と疑問に思った時を同じくして、女子生徒は同様の質問を流川にぶつけた。
時計を見ると、もうそろそろ10分が近づいている。
盗み聞きする趣味もないし、あきらめて購買でパンでも買ってこようか。
「あぁ。」
そう悩んでいると、流川の肯定の声が聞こえてきた。
瞬間、頭が真っ白になる。
(楓に好きな人・・・)
きゅっと口を硬く結んではその場を立ち去った。
そして約束の時間を過ぎること10分、戻ってきたの手にパンがあるのを見て、美咲は首をかしげた。
お互いのことを良く知る彼らが、お互いを見つけられない事なんて滅多にない。
「あれ、流川見つからなかったの?珍しいわね・・・。」
は言いづらそうに口をもごもごさせたが、元来うそをつくのが苦手な彼女は美咲の近くまで行くと小声で話し始めた。
「いや、見つけたには見つけたんだけど、告白されてて・・・」
「あぁ、相変わらずもてるわね。」
うん、と呟きながらパンの袋を破るに、美咲も自分のお弁当を広げ始める。
「聞こえてきちゃったんだけど、楓、好きな人いるんだって。言ってた。」
ぼそぼそと話すのは彼女にしては珍しい。
「まぁ・・ねぇ・・・」
そんな目の前の彼女を見ながら、美咲は呆れたように目を細めた。
そんなの、十中八九、いや、十中十、完璧にに決まっている。
「え、美咲、知ってたの!?」
「あー、うん、まぁ。」
美咲はこの後から出てくる言葉が容易に予想できた。そして、その対応として自分がどうすべきか、悩む。
「だれだれ?美咲は知ってるのに私は知らないなんて、ずるい!」
「うーん、」
唸りながら箸を口に運ぶ。
さて、何と言ったものか。
彼女からすれば、完全に二人は両思いだ。さっさとくっつけばいいのに、とさえ思っている。
と同時に、我慢強い流川に若干驚いていたのも事実だ。
この、何とも言葉に形容しがたい関係をよくもまぁ、何年も続けていられるものだ、と。
「流川に聞いてみれば?」
そして、出した結論はそれだった。
悩めば悩む程ばかばかしい。これを機に二人が恋人同士になったとしても今までと何ら変わらないだろうに。
「えー、教えてくれるかなぁ。」
「教えてくれるわよ。・・・たぶん。」
むぐむぐとパンを食べていたは二つ目に手を伸ばす。
「なんか、不思議な感じ。楓って、そういうことに興味無さそうだったのに。」
「まぁねぇー。」
今日は歯切れの悪い相槌をしてばかりだ。
美咲はひとつため息をついた。
(流川からしたら、興味を持つ前に、がいて。ずっとしか見えてないんでしょうよ。)
だが、まだ流川がに対する気持ちを理解しているだけマシだ。
目の前の彼女はそれさえも認識していないのだから。
「まぁ、あんたも、ちょっとは大人になりなさいよ。」
「え、なにそれ、良く分かんなっ・・!」
盛大に顔を顰めたは大方舌でも噛んでしまったのだろう。
「食べながら喋るからよ。」
「だってーーー」
ぶーぶー言いながら、紅茶で口の中のものを流し込む様子を見て、また、ため息が出てきた。
帰り道、部活後はすっかり暗くなってしまっている道をいつものように二人で歩く。
いつもは、今日の夕飯のことで頭が一杯だが、聞きたい事がある。
は落ち着かない様子で流川を見上げた。
「なんだ?」
珍しい、と流川はの顔を覗き込む。
「えぇっと、楓に質問があって。」
更に珍しい。
「・・・・・楓って、好きな人いるんだよね。誰?」
遠まわしな言い方は苦手だ。
それにしても直球過ぎた自分の言葉に一瞬慌てるが、目を丸くする流川にぴたりと動きを止める。
「あれ?ど、どうしたの?」
そしてすぐにむっと眉を寄せる。
「おまえ、気づいてなかったのか。」
「え?」
流川はおおきくため息をついた。
何だろう、今日は美咲といい、よくため息をつく。
「。」
「・・?なに?」
流川はこれでもかという位眉を寄せた。
どこまで彼女は鈍感なんだろうか。
「好きな奴って、。」
一瞬、自分の中で時間が止まった。
「家族って意味じゃ、ねぇ。」
これだけ言えば分かるだろう、との頭をぽんぽんと叩いた。
「お前は?」
瞬時に、流川の姿が頭に思い浮かぶ。
すき、好き、スキ、難しい言葉だ。
にとって、流川は物心ついたころから、一番の理解者で、一番好きな人で、一番安心できる存在だったのだから。
「・・・・・楓・・・かも。」
「かもって。なんだ、そりゃ。」
苦笑して流川はまたくしゃりとの頭を撫でた。
「かも、じゃないかも。」
途端に、少し顔を赤くするに、流川は笑ってにキスした。
変化
2013.4.15 執筆