彩子は体育館に入って来たのが流川一人だけであるのに首を傾げた。
おかしい。中学時代だったら何処に行くにも、それこそ試合であってもあの子を連れていたのに。
「どうかしたんですか?彩子先輩。」
隣にいた晴子がそんな彩子に尋ねる。
「あー、ちょっと、ね。」
彩子は苦笑した。
目の前の少女は流川に夢中なのが一目瞭然なのだ。
(ちゃんが来たら、ショック受けちゃいそうよね・・。)
彩子の言うとは流川の幼馴染みで、付き合ってはいないものの、そのスキンシップは周りに誤解を生む。
そして、流川はに好意を寄せているのだ。
幼馴染みシリーズ
「あ、流川、ちょっといい?」
彩子のその言葉に流川は不機嫌そうに振り返った。
バウンドさせていたボールをその手に納める。
「・・・何スか。」
彩子は晴子に聞こえない程度の声でぼそぼそと尋ねた。
「アンタ、ちゃんどうしたのよ。学校にも来てないみたいだし、もしかして他の高校に行ったの?」
まさかねぇ、と言うと流川はむむっと眉を寄せた。
「・・あいつ、入学式前日に怪我して入院中。」
その、初めて聞く話に彩子は「えええええ!?」と絶叫した。
そして流川に掴み掛かる。
「はぁ!?何で?アンタがついてたんじゃないの!?」
いっつも無駄に一緒にいるくせに!!と言うと、流川は益々不機嫌そうになった。
「・・・夜、一人でコンビニ行ったら、その帰りに車にぶつかった。」
「で?酷いの!?」
いや、此処に流川がいるってことは酷くはないのだろうが、思わず尋ねる。
「左足骨折・・けど、再来週からは学校来るみてー。」
病院にずっといたけど、追い出された。
と寂しそうに言う流川に彩子はぷっと吹き出した。
のことだ。さっさと学校に行けと追い返されたのだろう。
「あー、じゃぁ、アンタが一日おきで自主練しないで帰ってたのって・・・お見舞い?」
こくんと流川は頷いた。
「成る程。毎日来るって言ったら嫌だって言われたんだ。」
こくんと再び頷く。
「でもアンタは『やだ』って言ったけど押し切られた、と。」
何で其処まで知ってるんだ、と流川は間を置いて頷いた。
「コラ、そこ!さっさと練習に戻れ!!」
ずっと話ている二人が気になったのだろう。赤木が怒鳴ると、彩子は満面の笑みで返した。
「はーい、すみません、赤木先輩。」
「・・・ス。」
とことことベンチに戻った彩子に晴子がどきどきとしながら尋ねる。
「あ、あの。何話してたんですか?」
さぁて部員の観察でもするか。とベンチに座った彩子は尋ねられて、ううむと考えた。
「・・・ま、大したことじゃないわよ。」
いや、晴子にとっては大したことだろうが、こういうのが一番丸く収まるか、と彩子は言った。
しかし、彩子がこう言っても、2週間後には無意味と化す。
退院したをいつものように流川が連れて部活にやってきたのだ。
幼馴染み