は、懐かしい人物との再会に、目を瞬かせた。
手に持っているのは水の入ったグラス。
結露した水がしっとりと手を濡らして違和感を感じる。
「」
目の前に腰掛けているのはTシャツにGパンという、至って普通の服装をしている男性。
「・・・健司?」
思いがけぬ遭遇に惚けてしまったが、オーダーを目の前の男性から取らなきゃいけないことを思い出しては慌ててグラスを藤真の座っているテーブルに置いた。
「久しぶりだな。元気か?」
「うん。健司は?」
そう言いながら藤真が指差すナポリタンの写真をちらりと見て、伝票に書き込む。
「まぁまぁ、かな。あ、あとアイスカフェラテ。」
「食後?」
「あぁ。」
それを書き留めると、じゃぁと言っては席を離れた。
彼女は大学生シリーズ
藤真と付き合っていたのは中学2年から高校3年の春までの間だった。
切っ掛けは、練習試合で陵南に来ていた藤真の一目惚れ。
違う学校で、しかもバスケで何かと忙しかった割には続いた方だろう。
会うのは1年ぶりくらいかもしれない、とはちらりと藤真と見た。
すると向こうが気づいて微笑んだかと思うと手をひらひらと振るので少し迷って小さく返す。
「さん、知り合い?」
同じバイトの女の子に声をかけられて、は曖昧に微笑んだ。
「格好良いね。いいなぁ。」
「あはは、確かに目は引くかも。」
そう言いながら時計を見る。
そろそろ上がりの時間だ。
「あ、もしかしてこのまま、デート!?」
の素振りに気づいたようで、彼女は更ににこにこと笑って、の肩を叩いた。
「ち、違うよ。本当に偶然。」
そう言いながら手を横に振ると、彼女は疑わしそうにを見て藤真を見た。
「あ、彼、呼んでるみたいだよ。」
そう言って、やっぱりデートなんでしょ。とに言うがとしては困った顔をするしかない。
本当に違うのに、と口の中で呟きながら藤真の方へ向かう。
「もう上がりなんだろ?ちょっと付き合えよ。」
そう言う藤真のテーブルの上にあった皿には既にパスタの姿は無い。
相変わらず食べるのが早いなぁと思いながらも、は頷いた。
「背、伸びたね。」
近くのカフェのオープンテラス。
少し暖かくなって来た今日は、特に太陽を隠すものが無くて気持ちが良い。
「そうか?」
「うん。前も大きかったけど、見上げる高さが違う気がするよ。」
そう言うと、藤真は照れたように笑った。
別れた原因が喧嘩とかではなく、会う時間が取れず自然消滅に近かった為、若干の気まずさはあるものの、再会してこうして穏やかには話せる。
「あのさ、」
そう、彼が切り出した所で、の携帯が音を立てた。
「あ、ごめんね。」
「・・いや、いいよ。気にすんな。」
其の言葉に甘えて、携帯を取り出すと、電話の主は結花だった。
「もしもし?」
『あ、?今カフェに来たんだけど、さっき上がったって言うからさー。今どこ?』
尋ねられて、はちらりと藤真を見た。
「えぇと、偶然、健司に会って、お茶してるところ。」
『え?健司って、藤真健司?』
「うん。」
『・・・へぇー、懐かしい!私も行って良い?良いよね?久しぶりに話したいし!』
藤真と結花は何度かつながりで遊びに行ったことがある。
そういえば、結構2人で話し込んでたりしたような、と思いながら携帯を口元から外した。
「結花って、覚えてる?」
「あぁ、あの騒がしい奴な。忘れる方が無理だ。」
「久しぶりに会いたいって言ってるんだけど、良いかな?」
その言葉に、藤真は心の中で”良く無い”と即答したが、まさか口から出せるわけも無く、少し止まった後、頷いた。
「あの、前、楓くんと3人でお茶したオープンテラスのあるカフェにいるの。そうそう、凄く近いから・・・」
更に説明を重ねようとしたものの、視界に大きく手を振る結花の姿が入って、は携帯を切った。
結花も携帯をバッグに仕舞うと、少し急いだように走ってテラス席までやってきた。
「久しぶりね、藤真君。あ、私アイスラテ一つ。」
バッグを椅子の横の荷物入れに置きながら店員に注文をすると、結花は遠慮なく椅子に腰掛けた。
「お前、いっつも図ったように来るよな。」
「あら、何のことかしら。」
にやりと笑って結花が言うと、藤真はため息をついて、アイスコーヒーを口に運んだ。
「3人で遊びに行った時も、良い雰囲気のところをよくぶち壊されたし。」
「え、そんなことあった?」
藤真はじ、との顔を見ると、またため息を付いた。
「本人に気付かれてないっていうのが、一番可愛そうなところよね。どんまい、藤真。」
「お前に言われたくねえよ。」
結花は、全て分かっていたのではないかという位、にやにやと嫌な笑みを顔に浮かべていた。
否、恐らくの”偶然会って”という台詞を聞いた時点で何か感づいたのだろう。
(相変わらず勘の良い奴)
とはいえ、藤真も別に結花が嫌いな訳ではなかった。
彼女のさばさばした性格は友人という意味では良い意味で気に入っている。
但し、が絡んでくると話は別だ。
番犬よろしく、邪魔をしてくるものだから気が抜けなかったのを思い出して苦い顔をした。
せめてを家まで送る間は2人になろうとしたものの、そこは男の入れない女子の会話に押され、彼女達はそのままウィンドウショッピングに出かけていってしまった。
(これで楓にまた、貸しが一つ出来ちゃったわね)
さぁ、今度は何をやらせようか、と上機嫌で結花は歩く。
「私の知り合いの男の子は背が高い子ばっかり。健司も更に背が高くなってたし、楓君も凄く背が高いでしょう?」
「そうねー。あと仙道もまたでかくなってたし。嫌になるわね。首が疲れる。」
確かに、とは同意しながらもくすくすと笑った。
「あ、そういえばね、今朝クッキーを作りすぎちゃって。良かったら家に寄って持って帰らない?」
「いいの?のお菓子大好き!楓も喜ぶわよ、絶対。」
(これで貸し2つ。そろそろ部屋の模様替えもしたかったし、やらせようかしら。)
そんなことを結花が企んでるとは知らずに、は嬉しそうに笑った。
「そういえば、藤真、何か言ってた?」
「何かって?」
首を傾げるに、結花は、何でも無いや、と返した。
(偶然のカフェに来て、偶然帰る時間が一緒になったからお茶してた、だなんて、ありえない。藤真は、とよりを戻そうとしてるのかしら)
それ以外に無い、と結花は自分で納得すると、眉を寄せた。
藤真とが付き合っていた時期は、楓も別段に好意を寄せていなかった為、ちょっと邪魔するくらいにしていたが、弟の恋(それも初恋)が絡んでくるとなると話は別だ。
弟に大きな貸しをつくれる可能性があるのだ。
(ここは、一度、藤真とがお友達程度になった後、私がちょちょいと藤真を蹴散らして楓のお膳立てをする算段で行くべきね。)
どうも打算的に考えてしまう彼女だが、真実、の親友であり、弟思いの姉であることを特筆しておく。
ただ、少しだけ利己的に動いてしまうだけなのだ。
「ねぇ、。また藤真から連絡あったら教えて?3人で話すのも結構楽しいからさ。」
「そうだね。」
にっこりと笑顔で頷くに、結花も満面の笑みで返した。
元彼登場
2013.5.27 執筆