「あれ、仙道じゃない?」
「ほんとだ。」


試合の中盤、二人は入って来た人物を見た。
向こうも気づいたのか、こちらをみてひらひらと手を振っている。


「このバッカモン!!」


そんな暢気な仙道にげんこつ一つ。
田岡先生も相変わらずだ、とやはり懐かしさがこみあげる。


「楓ー!仙道なんかに負けるなー!!」


仙道が入ってから陵南の空気が代わり、楓と仙道が対峙している。
結花のその声援が耳に入った仙道は苦笑した。


「結花さん、相変わらずだなぁ・・」
「・・・」
「お、隣にはさんもいるし。」


楓はの名が出てぎろりと仙道を睨んだ。
それを見た仙道は、へ?と目を丸くしてから、くつくつと笑い始めた。


「なーる程。ふーん、そういうことか。」


面白い、というように流川を見て、仙道は観客席のを見上げた。


さーん!勝ったらちゅー1つで!」
「!!」


これは負られん!と尚更闘志を燃やす流川に、首を傾げながら二人を見ていた花道は二人の間に突っ込んだ。


「隙ありー!!」
「おっと」


突進して来た花道を避けた先には流川の姿。
にやりと流川は口の端を上げるが、そこは仙道も負けない。


「さぁーて、まずは一本貰おうかな。」











彼女は大学生シリーズ










「・・・陵南勝っちゃったわね。」
「・・・そうだね。」


頷くのを見て、結花は、はぁーと楓を見た。


の唇も守れないなんて、情けないヤツ。」
「え?あれって冗談でしょ?」
「冗談かねぇ・・」


仙道は少しに憧れてる感があったし、冗談に見せかけての本気かもよ。
とは思ったが口には出さずに思わしく無い顔をする。


「ま、下に行って楓を励ましてやるとするか。」


ほら、行こ。と言って立ち上がった結花に続いても立ち上がり、二階の観客席から降りると、そこには丁度出て来たチームの面々。


「楓ー!」


そう言いながら結花は楓に突進して行く。


「あ、結花」


待って。とも追いかけて行く。


「うるせーのが来た。」
「それは無いでしょ。折角見に来てやったっていうのに。」
「もう、二人ともこんな所で喧嘩しないで」


仲裁に入ると、呆気なく兄弟喧嘩は終了。
相変わらずだな、と綾子は一人笑った。


「お久しぶりです。結花先輩、先輩。」


そこでようやく綾子の存在に気づいた二人は綾子に向き直った。


「あら、綾子。久しぶりねぇ。」
「久しぶり、綾子ちゃん。」
「こっちも、久しぶり。」


何気なくその会話に入って来た男の声に全員がその方向を向いた。
いつの間にかと結花の背後にいたのは仙道で、その姿を認めた途端、流川の表情がむっと苛つく。


「あーら、仙道。のちゅーを勝手に賭けてたみたいだけど、そんなの私が許さないわよ。」
「もう、冗談よ、ねぇ、仙道くん。」


に屈託の無い笑顔で言われて仙道は頬を掻く。


「・・・まぁ・・・(ちょっとは本気だったんだけどなぁ)」


その心の声を聞き取ってか流川兄弟は目を鋭くする。


「ふぅん・・・まぁ、そういうことにしといてあげるけど、仙道。田岡先生が怒った顔してこっちに来てるけど良いの?」


それを聞いて仙道は忘れてた、という表情。


「じゃぁ、さん、結花さん。またそのうちお茶でも。」


そう言うや否やさっさとその場を後にした。
騒がしいヤツ、とその背を見送って、結花は楓を見る。


「そういえばアンタまだユニフォームのままじゃない。さっさと着替えて、晩ご飯食べに行くわよ。」
「今日はおじさんが出張だがらおばさん(流川母)と4人でご飯食べに行くんだって。」
「・・・着替えて来る。」


頷いて、楓は二人に背を向けて、他のメンツも同様に着替えに向かう。
晴子はパーカーを羽織っていて、どうやらそのままで帰るらしい。


「それにしても、高校に入って初めてじゃないですか?二人が応援に来るのって!」
「いやー、楓がどーしてもって言うからさぁ、見に来てやったって訳よ!」



皆が帰ってくるまで暇なので、3人が談笑を始めると、きょろきょろと誰かを探している様子の少女に、綾子が手を振って声をかけた。


「あら、晴子ちゃん!どうかしたの?」


声をかけられて綾子に気づいた晴子は走ってやって来たと思ったら、と結花に気づいて首を傾げた。


「あぁ・・・こちら、流川のお姉さんの結花さんと、そのお友達のさん。」


晴子は流川の姉に反応して、顔を真っ赤にした。


「る、流川くんのお姉さん!?あ、あの、私、赤木晴子です。よろしくお願いします!」


その反応に、結花とは顔を見合わせて小さく笑った。


「相変わらず、楓くんってもてるんだね。」
「まぁ、あいつは顔だけは良いからねー、私に似て!」


あっはっは!と笑う結花に、は少し恥ずかしくなって、小さく「結花!」と嗜める。


「楓くん、ちょっと人見知りする子だけど、がんばってね!」


そう言っているに、今度は結花と綾子が顔を見合わせた。
そして苦笑する。


(報われないわねー、楓。)
(・・・そうですね・・・)


ひそひそとそう言っている二人をよそに、晴子は満面の笑顔でありがとうございます、と礼を言っている。


「あ、着替え終わったみたいね。」


結花は着替え終わって、出て来た楓にひらりと手を振った。


「遅いわよ!」


自然とと晴子と綾子の視線も楓に向くが、今日、初めて楓の服装を見た晴子は顔を真っ赤にし、綾子も首を傾げた。
来る時、見かけなかったので気づかなかったが、今日は私服を来ている。いつもはジャージなのに。
そう思って綾子は何か知っているであろう結花を見た。


(今日、のバイト先に行って、そのままこっちに来たから勝負服のままなのよ)
(あぁ、なるほど。流川の私服なんて初めて見たからびっくりしましたよ。)


ひそひそと横で二人が話しているのに、晴子は全く気づかず、初めて見る楓の私服にうっとりとしていた。
思わず写真・・・とカメラを探したが、忘れたのに気づいて、口を尖らせる。


「あぁ、晴子さん!今日の活躍、ご覧になって頂けましたか!?」


ついで、出て来た花道に晴子は泣く泣く楓から目を外した。


「お疲れさま、楓くん。」


はい、と渡したペットボトルに楓は「悪ぃ」と礼を言って手を伸ばした。
慌てて出て来たので、余り水分補給が出来ていなかったから有り難い。


「よし。さっさと行くわよ!」
「・・・どこで飯食うんだ?」


問われた結花はすぐにを見た。


「あぁ、いつもの中華のお店だよ。」
「あー、そうだったわね。」
「・・・何でが知ってて、おめーが知らねぇんだよ。」


ぼそっと呆れたように言うと、結花はいらいらっと顔に怒りを表現した。


「うるっさいわねー、文句ある?」


ほぅら、言うなら言いなさい。それ相応のお返しはしてあげるけど。との恋路とか邪魔してやるんだからー!
という表情で楓を見ると、楓はふいっとそっぽを向いた。
姉を怒らせると色々と具合が悪い。


「もう!二人とも急がないと、おばさん待たせちゃうよ。」


と、仲裁が入り。


「じゃぁ、皆さんお疲れさまです。お先に失礼しますね。」


と、なぜかが頭を下げて、3人は去って行った。

















「・・・流川くんのお姉さんって、何か、すごくパワフルな人ですね。」


その後ろ姿を見送っていた晴子は、はぁ、と緊張を解いた。


「いやぁ、あのルカワに勝てる女性がいるとは・・・。」


その目は是非弱点を教えて欲しいと物語っていて、綾子は苦笑した。
弱点はまさに目の前にいたんだけどね、と。










練習試合