私と楓くんとの出会いは私が高校2年で楓くんが中学2年のとき。
「ー!宿題教えてー!!」
と、泣きつかれて結花の家にお邪魔したときのこと。
結花とは高校に入学してすぐに仲良くなったけど、うちと結花の家は反対方向で(結花の家から高校まで40分、うちから高校まで30分くらいかかるから、うちから結花の家まで行こうとすると一時間ちょっとかかる)、中々お互いの家に行く機会は無かった。
遠いからという理由で初めて結花の家に行った日が初めて結花の家に泊まった日。
夕食が出来たと呼ばれて降りて行ったら楓くんがいてびっくりした。
(うわー、おっきい。)
と思いながらも「こんばんは」と挨拶すると、「ッス」って小さく返って来た。
夕食の席で中学2年生って聞いて物凄く驚いた気がする。
余りにもおっきかったから。
そのときは大して話さなかったんだけど、それ以来、ちょくちょく私は結花の家に泊まりに行っていて、少しずつ話す様になっていった。
でも、自然と話せるようになったのは、その翌年の夏。
推薦で大学進学が決まった私は、楓くんの勉強を見ることになったときから。
彼女は大学生シリーズ
「お邪魔しまーす。」
がそう言うと、結花と楓の母、良子が出迎えた。
「楓の勉強だけじゃなくて結花の勉強まで見てもらっちゃってて悪いわね。」
「いえ、私も結花と一緒に大学行きたいですし、楓くんにも高校に受かって欲しいし、大丈夫ですよ。」
そう言ってはにっこりと笑った。
「じゃぁ、先に楓のほうよろしく。わたし、問題集解いておくからさ。」
「楓なら部屋にいるわ。よろしくね、ちゃん。」
「はい。」
結花と共に2階にあがると、結花はノックもせずに「楓ー」と言いながらドアを開けた。
そしてずかずかと入って行って、眠っている楓を蹴り起こす。
「あ、ちょっと!結花!」
「いーのいーの。こいつ、こーでもしなきゃ起きないんだから。」
楓は半目でむくりと起き上がった。
「俺の眠りを妨げるやつは・・・」
そしてそう言いかけたところを結花がすぱんと手に持って居たノートで叩く。
「下らないこと言ってないで起きなさい!が勉強を見にきてくれたんだから!」
「む・・?」
そう言われて楓は入り口の所に立っているを見た。
「おはよう、楓くん。」
目が合うとはにこりと笑いながら言った。
「じゃ、ちゃんとの言うこと聞くのよ。」
「む。」
頷いて楓は起き上がると、机に向かった。
「よろしくね。」
「うん。また後でね。」
そう言って結花は出て行って、部屋には楓との二人。
は「じゃぁ始めようか」と言ってもう一つの椅子に腰掛けた。
「結花が、一応受験対策の参考書買っておいたって言ったけど、それを貸してもらっても良いかな。」
「・・・・ん。」
ごそごそと本棚を漁って渡された3冊の参考書をぱらぱらと捲った。
「えーと、じゃぁ、この確認テストをやってもらおうかな。」
そう言ってテストのページを開いて机の上に開いた。
「数学のところだけで良いからね。制限時間は40分。」
さくさくと初めて行くにこくんと頷いて楓はシャーペンを握った。
楓がテストをしている間、は他の参考書をぺらぺらと捲った。
数学と国語は英語ともかく、社会と理科は暗記。英語も半分は暗記だ。
これは一度全部問題を解いてもらってからじゃないとどうしようも無い。
「・・・・」
20分ほどたった時、シャーペンの音が止まっては楓を見た。
「どうかした?」
「・・・分かんねー。」
はそう言われて解答用紙(とは言ってもルーズリーフ)を見て愕然とした。
半分ほどの白紙のそれはにとっては随分と衝撃的だったのだ。
「・・・楓くん。」
「?」
「・・頑張ろうね。」
そうにっこりと言っては取りあえず採点をして、解説をしていく。
「この問題は、此処までは良かったんだけどね・・・ここで図を書くと分かり易いかな。」
そう言っては曲線と一次曲線を書いた。
「ここと、ここで交わってるでしょう?」
「うむ。」
「だから、この二つの交点を求めれば良いから・・・」
とはさらさらと式を書いて行く。
交点を求めるときは、と説明を交えながら書いて行く文字を追って、それを頷きながら聞く。
「因数分解は、まず、数字を見るの。あぁ、でもこういう時は、まず共通因数って言って、どの数にも当てはまる因数・・」
ここだったら、これとこれとこれね。とは共通因数にマルを付ける。
「これでくくって・・・」
と、解法を書いて行くが、いかんせん教える問題が多過ぎる。
半分ほどやったところで結花からお呼びがかかり、は先ほど付箋をつけていた確認テストのあるページを開いた。
「とりあえず、楓くんが分からないところを知りたいから、出来るだけで良いからこの付箋のつけてある問題を解いておいてね。」
こうして夏休み中は楓の部活が無い時間、週に2回家庭教師をすることになった。
こくり、こくりと眠りそうになるとが少し怒って、出来たら褒めて、と中学の基礎はだんだんと出来て来た。
「、今日お母さんもお父さんもいないんだけど、泊まりに来ない?」
『うん、良いよ。』
夏休みも終盤に差し掛かったところで、そう言われは流川宅へと荷物を持ってやってきた。
「あ、じゃぁ今日は私がご飯作るね。いつもおばさんにご馳走になってるし。」
「やった!」
もしかしてそれが狙いだったんじゃぁ、と結花を見たが、結花はあはは、と笑うだけ。
「そうだ。最近結花も楓くんも頑張ってるし、二人の好きなもの作るよ。」
「じゃぁ、ハンバーグ!あと肉じゃが!」
ハンバーグと肉じゃがって、おかしいよ。とは笑う。
「夜はハンバーグで朝は肉じゃがね。」
「ありがとー!、大好き!」
「はいはい。で、次はこの問題ね。」
くすくすと笑っては問題を書いた紙を渡した。
「あいよー」
そう言って解き始める結花の横では楓のために暗記用の小さなノートを作り始める。
「ってマメよね。」
「ん?・・あぁ、これ?」
付箋がつけてあって付箋に「国語」「数学」「社会」「理科」「英語」と書かれてあるそれは、教科別に単語や公式などが分かり易く書かれてある。
「いーなー、それ。」
「結花のもあるわよ?」
「様、ありがとうございます。」
「いいよ、こういうの結構好きだから。」
笑って言って、はノートの続きを書き始める。
「よーし、私も頑張ろう!」
気合いを入れ直して、結花は机に向かった。