「終わったー!」


ようやく最後の解法が終わると、時間は夕方4時。


「楓くんは何時に返って来るんだっけ?」
「6時半くらいかな。」
「そっか。じゃぁ私は買い物行って来るね。」
「じゃぁ私は荷物持ちー」


そう言って立ち上がると、二人は近くのスーパーに出かけた。
はじゃがいも、人参、トマト、レタス・・・と迷いが無いようにどんどん籠に入れて行く。


「手際良いわねー」
「共働きで家に親があんまりいないから、結構スーパーに来るしね。」


買い物は20分程で終わり、家に戻ると、結花は勉強しに2階にあがり、は夕食をつくるために台所へ向かった。
まず、明日の朝の為の肉じゃがを作って、コーンスープを作る。
このコーンスープが結構時間がかかるのだ。
タマネギをみじん切りにして、バターで炒めるのが結構かかる。

とまぁ、そんな塩梅でコーンスープ、サラダ、ハンバーグを作り、ハンバーグにトマトとチーズをかけてオーブンにセット。
ここまでして6時ちょっと過ぎ。
オーブンで焼くのは楓が帰って来てからで良いか、と思っていると、玄関の開く音がして、楓がリビングダイニングキッチンに入って来た。
そのとたん、良いにおいが鼻をくすぐる。


「む?」
「お帰り、楓くん。」


エプロンをつけてカウンターキッチンに立っているに違和感を覚えた楓は冷蔵庫に飲み物を取りに行こうと思っていたのにその場で立ち止まる。


「あ、牛乳?」


それに気づいたは牛乳を出すとグラスに注いでテーブルに置いた。


「悪いんだけど、それ飲んだら、結花呼んで来てもらえないかな。」


楓は無言でこくんと頷く。


「なんでが飯作ってんだ?」
「今日はおばさま居ないでしょう?いつもご馳走になってるし、それに二人とも頑張ってるから今日は私がご飯作ろうと思って。」


楓くん、随分頑張ったもんね。私、結構スパルタだったのに。と苦笑しながらは頬をかく。


(頑張れたのはオメーのお陰だろ)


とは思うが、照れくさくて口には出来無い。


「姉貴、呼んで来る。」
「うん。お願い。」


楓は部屋を出て階段に足を踏み出したところで、思い立つ。
おかえり、と料理を作りながら言われたり、ご飯できたから呼んで来てと言われたり、まるで


(夫婦・・)


と思ったところでずがが、と楓は階段からおっこちた。


「楓くん、大丈夫!?」


ばたばたとが出て来て駆け寄る。


「なぁに、楓。鈍臭いわねー」


と上からは結花が顔を出す。


「頭とかは打ってない?あ!手とか足とかは!?」
「・・・ダイジョーブ。」


楓はの手を借りておき上がった。
顔は真っ赤だ。


(ははーん、あのむっつりめ。)


結花は楓の顔色を見て悟るとにやにやと笑みを浮かべた。


「変なこと考えながら上るからでしょー」
「うるせー」


着替えて来る、と楓は階段を上がって行った。


「あ、ご飯できたの?」
「うん。」


やったーと、結花は足取り軽く階段を下りて来た。


「大丈夫かな、楓くん。」
「大丈夫よ。あーいいにおい〜♪」












楓が着替えて降りて来ると、テーブルにはサラダとスープとご飯が並べられてあって、結花が箸を持ってテーブルに座るところだった。
は皿にハンバーグを乗っけているところで、楓はそちらに行く。
結花からのにたにたした視線を背に受けながら。


「持ってく。」
「ありがとう。」


ハンバーグの上に少しあぶられたトマトと溶けたチーズが乗っていて美味しそうだと素直に思う。


「飲み物はお茶で良いかな。」
「うん。よろしくー」
「オメーも手伝え。」
「楓が手伝えば良いじゃないの。」


皿をテーブルに行くと、楓は再びキッチンに言ってコップを三つとお茶の入ったボトルを取ろうとした。


「楓くん、手が大きいね。」
「そーか?」
「うん。」


グラスを三つ片手で持って居て、はいいなぁ、と言うと、空いているほうの手を取って自分のそれと合わせた。
合わさる手があつい、と感じると同時に顔に熱が集まる。


「ほら。私なんて楓くんの第2間接くらいまでしかない。」


何て返せば良いのか、と顔を赤くしたまま止まってるとはボトルを手に取って「じゃぁ行こうか」と言うのでその後ろをついていった。










夕食も食べ終わり、が風呂に入っている間、楓と結花はテレビを見ていた。


、今、彼氏いないわよ。」


唐突に結花が言った言葉にぴくりと楓の耳が動く。


「いやー、まさか楓がをね。あんた、初恋なんじゃない?」
「・・・るせー」


あっははは!と結花は笑う。


「可愛い弟の初恋なら協力してやろーじゃないの。このお姉様が。」


でも、は競争率激しいわよー、と結花は楽しそうに続ける。


「結花ー、お風呂、空いたよ。」


その時、そう言いながらが入って来た。
ハーフパンツにTシャツというラフな恰好。
少し濡れた髪。


飲み物を取りにキッチンに向かう後ろ姿に思わず目が釘付けな楓を見て結花はひそひそと楓に話しかける。


「襲うんじゃないわよ。」
「・・・んなことするか。」


どーだか、と結花は笑って「じゃぁお風呂入って来るね。楓とテレビでも見ててよ。」と言って風呂へ行ってしまった。


「分かった。楓くんも何か飲む?」


キッチンカウンターから顔を出したが尋ねて来て「オレンジジュース」と言うと、が冷蔵庫を開ける音がした。

そして直ぐに自分のぶんの麦茶と楓のオレンジジュースを持ってやってくる。


「はい。」


そう言って手渡されたオレンジジュース。
微かにふれた指先が熱くなった。












家庭教師