俺は家に帰ると、見慣れない女物の靴を見つけて、動機が速くなるのを感じた。
と、同時に嬉しさがこみ上げる。


はやる気持ちを抑えて家に上がり、2階へと行く。


「あ、楓くん、お帰り。」


足音で気づいた彼女が姉貴の部屋から顔をのぞかせて言う。


「ッス。」


小さく頭を下げる。


「あら、楓帰って来たのー?」


顔を出すくらいの隙間しかなかったドアが大きく開かれて姉貴が彼女の後ろから顔を覗かせた。ジャマ、だ。


「丁度良かった。楓も食べる?がケーキ焼いて来てくれたのよ。」


にやにや、と姉貴は笑いながら言う。
むかつく。

けど、俺はこくりと頷いていた。


「楓くんのお口に合うと良いんだけど。」


合うに決まってんだろ。
俺は取りあえず荷物を置きに、そして着替えるために自分の部屋に行った。















彼女は大学生シリーズ


















彼女の名前は
姉貴の高校、大学の友達でよく家に来るし、家が近いらしく、たまに早朝公園で会う。
俺が彼女に初めて出会ったのは中学2年の夏。
彼女に好意を寄せ始めたのは中学3年の夏、受験の為に家庭教師をしてもらってからだ。

むかつくことに、姉貴にはすぐにバレて、ソレ以来からかわれたり、こうしてが来てるときは俺を誘ったり。


ありがてーけど、あのニヤニヤした顔がやっぱむかつく。


「私、コーヒー入れて来るね。」
「ありがとー、も、大好きー♪」


勝手知ったる何とやら。


「悪ぃ。」
「良いの、良いの。じゃぁちょっと待っててね。」


が来たときは姉貴は動かねー。
代わりにが色々やってくれっからだ。


「嬉しそうな顔しちゃってぇ、お姉様に有り難うございますは?」


やっぱ、こいつムカつく。


「ほらほら、私が誘わなきゃの手作りケーキなんて食べれなかったわよ?」


へっへっへ、と笑いながら姉貴は言う。
確かに、そーだ。


「アリガトーゴゼーマス。」
「・・・気持ちが篭ってない。」
「うるせー」
「あーあ、今度のバイト先に連れてってあげようと思ったのに。」


意に反して俺の耳がぴくぴくと動く。


「カフェでバイトしてんだけど、ユニフォームがすごく可愛いのよねぇ・・・。」


姉貴の顔を見ると、すっげーむかつくくらいイイ笑顔。


「アンタ、今度の土曜日練習午前中無いって言ってたじゃない?、その日午前バイト入ってんのよね。」


何でこいつがのバイト時間把握してんだ。


「午前で上がりって言ってたから、楓がいれば午後から練習見に行かない?って誘おうと思ってるんだけどなー。」
「・・・・」


練習・・・

が俺の練習を見に・・・


「行かせて下さい、オネェサマ。」


屈辱だが、そう言って頭を下げると「おっほほほほ!よろしくてよ!」とバカみてーに笑う声が頭上からした。


「もー、結花ったらなに楓くん苛めてるの?」


とんとんとん、と階段を上る音がして、がトレイを持って入って来た。


「苛めてないわよー、ねぇ、楓。」
「・・・・。」


俺は顔を背けてからコーヒーを受け取った。


「こら、ありがとうぐらい言えないの?」
「・・・アリガト。」


照れくさい、と思いながら言うと、はにっこり笑って「良いの良いの」と言った。
ヤベー。


俺は思わず顔を片手で覆って俯く。


「あれ?どうかした?具合でも悪い?」
「いーのいーの、ほっといて。」


は心配そうに俺の顔を覗き込んで来たが、姉貴がけらけらと笑い飛ばしながら「ケーキ食べよ!」と言うものだから、はケーキを切り始めた。

ほっと、息を吐く。


「んー!の入れるコーヒーってやっぱ美味しいわね!」
「そうかな?ありがとう。」


ふふ、とは笑う。
確かにうめぇ、けど、


「ほら、楓は何か言うこと無いの?」


やっぱなんだかんだ言って姉貴がいてよかったかもしれねぇ。


「うめー」


一人じゃぜってー言えねぇのに、こうやって言えて、「ありがとう」との笑う顔が見れる。


「あ、電話。」


そのとき、の携帯が震える。


「誰から?」
「葉山くん。」
「何だろうね。出てみたら?」


男から電話。
俺は眉を寄せる。


「もしもし。・・うん、今結花といるよ?変わるね。」


そう言っては姉貴に携帯を渡した。


「え?・・・あ、マナーモードにしっぱなしだった。悪い悪い。」


どうやら姉貴の携帯に電話したが出なかったからにかけたらしい。


、今日飲み会しないかって。どうする?」


俺は断れ、と念じながらを見た。


「うーん・・・最近飲んでばっかりだし、やめとこうかな。」
「ってことだから私もパス。悪いねー!」


断ったことに俺はほっと息を吐き出した。
姉貴は2、3言言って電話を切るとに携帯を返す。


「飲み会も無いことだし、今日うちでご飯でも食べてったら?」
「え?悪いよ。」
「いーの、お母さんものこと気に入ってるし。」
「食ってけばいーじゃねーか。」


姉貴は俺がそう言ったことに少し驚いたように俺を見て、すぐににやにやと口を歪ませた。


「ほら、楓もこう言ってることだし。」


は俺を見て少し考えると「じゃぁ、お言葉に甘えようかな」と言った。
柄じゃねーけど、心の中でガッツポーズ。
がうちで飯食ってくときは、姉貴の代わりにがお袋を手伝う。
つまり、の手料理が食えるっつーこと。


未だにたにたとして俺を見て来る姉貴はやっぱむかつくケド、素直に感謝。
口には出さねーけど。










淡い恋心