Dreaming
Magic! #独眼竜
足を踏み出すと、かさりと落ち葉が音をたてる。
視界に入るのは、鮮やかな赤や黄色に化粧した木々の葉。少し寒いなぁ、とぼやきながらマフラーを巻き直しては奥へ奥へと進んでいく。
背負った籠が歩く度に揺れていて、その中に入っているのは袋に小分けされた薬草。
「はっ、こんな所にも!」
目の端に移った赤い花。はにんまりと笑ってその花が咲いている、樹の根元に駆け寄ると、スコップで花の根っこを掘り起こす。
その時根っこを傷つけてしまったが、文句を言う黒猫は今日はいない。
ほっと胸をなでおろしながら根っこについた土をそのままに袋に入れていると、近くで枝が折れる音がして、顔を上げた。
ぱきり、というよりも、鈍い音。それなりの重さがかからない限り出ない音だ。
(人・・?)
そう思って警戒した時、木々の隙間から灰色の着物が覗いた。
(やばい、離れないと。)
急いで袋の口を縛って籠に放り込む。それからローブのポケットから杖を取り出そうとした時、数名の男ががいる開けた場所へと躍り出た。
「お?」
無造作に生えている髭が目につく。ぼろぼろの灰色の着物にぼさぼさの髪。
嫌な予感が的中して、逃げようにも、この男たちの前で魔法を使う事に躊躇してしまう。
失神させて記憶消せば良いじゃないか。と黒猫がいれば言っていただろう。
が、あいにくはそれがすんなり手段として思い浮かべられるような思考回路を持っていない。
「物音がすると思えば、随分、変わった格好をした嬢ちゃんだ。」
「いや、しかし身なりは悪くない。着物も上質そうだぜ。」
にたりと笑いながら近寄ってくる男達に、はかけ出した。
籠が思い切り揺れるが、中身が出るのを防止する魔法をかけておいて良かった。
「はぁ、はぁ・・」
運動なんて余りしていない。追いかけてくる足音は一定間隔を保っている。
(今なら、姿現しできる、かな)
木々が生い茂っているお陰で男達の姿は見え隠れしている。
このままでは追いつかれるのは必至。
いを決して苦手な姿現しをしようか、と思い立った所で、茂みを抜けた。
「ん?」
その先にいたのは、1人の男。はさ、と顔を青くして、どこに逃げれば良いのか、ときょろきょろと見回す。
「What's wrong? 随分急いでまた。」
「えっ!?」
眼帯を付けた男の言葉に、はじりじりと距離を取っていたのをやめて、男を凝視した。
「どうした。」
「え、いや、今、お兄さん、英語・・」
今度は男が驚く番だ。
「Wow!Can you understand English!?」(あんた英語分かるのか!?)
「え、yeah...kind of.」(えぇ、まぁ)
途端に目をキラキラさせる男に、どういうことだろうかと首を捻った所で後ろの茂みがわさわさと動いたと思ったら先ほどの男たちが飛び出してきて、は飛び上がった。
「お?もう鬼ごっこは終わりか?嬢ちゃん。」
笑いながら出てきた男たちは、の足の速さであればすぐ追いつけると思ったのだろう。それとも女をじわじわ追い詰める趣味でもあるのか、楽しそうに笑っていたが、の近くに立っている男を見て顔を顰めた。
「何だ、お前。」
問われた男は、困った顔をしていると、追いかけるようにして出てきた身なりの悪い男達に、全てを察したようで、にやりと笑った。
「誰だっていいだろ?」
そう言いながらスラリと抜いたのは腰に差していた刀。
おもしれぇ、と男たちも各々得物を抜いたが、彼らが地に伏せるのに1分とかからなかった。
を追っていた男達を、突然現れた眼帯を付けた男が伸してしまってから少し時間が経った頃、はその眼帯を付けた男(藤次郎と名乗った)と共に茶屋で団子を食べていた。
「How is this?」(どうだ?)
「Reeeeally tasty!!」(とってもおいしい!!)
まぐまぐと咀嚼していた団子を飲み込んで、お茶で喉を潤しながら、目の前に座っている藤次郎を見る。
まだ、どういう地位が存在するのかは知らないが、腰に指している刀は粗悪なものには見えないし、着物もそこそこ良いものだ。
何より、この時代で英語を喋れるような日本人がそうそういる訳が無い。
学者か何かかと一瞬思ったが、それにしては刀さばきが巧すぎる。
「Anyway, why can you use English?」(で、何で英語を話せるんだ)
それはこっちからも質問したい。と思いつつも、は答える為に口につけていた湯のみを机に置いた。
「Cause, I'm from oversea.」(何でって、海外から来たから)
「What!? Are you serious?」(は!?マジで?)
藤次郎は叫んで、まじまじとを見た。
彼も、同様に日本人でここまで英語を流暢に操る、それも、位の年の女がいるとは思わなかったのだろう。
すぐに、素直に答えてしまった事に、後悔したが藤次郎は興奮して矢継ぎ早に質問を続ける。
「いつ?どこの国に?どんな所だった?Woooow exciting!!」(興奮するぜ!)
「Calm down.」(落ち着いて)
興奮されても、時代も違えば世界も違うから話をするのは難しい。
のらりくらりと適当に返事をしているとそれが分かったらしい藤次郎は大きなため息をついた。
「Anyway, 何してたんだ?あんなとこで。」
「薬草を探して、森のなかをうろうろしてたんだ。」
そう言って、傍らに置いた籠から薬草の入った袋を取り出して見せた。
「ほぅ・・・しかし、中身が見えるなんざ、不思議な風呂敷じゃねぇか。」
ぎくり、と肩を揺らして、はそそくさとそれをしまった。
薬草を取る時一緒にいるのはリドルや幸村、佐助くらいなものだし、持ち帰った後わざわざ薬草単体を人様の目に晒すことは無い為、失念していた。こんな袋、この時代は無いのだ、と。
「あっと、そろそろ帰らなきゃ心配しちゃうから。」
「Ah, okay okay 送って行ってやる。どの辺だ?」
それにさらに、はぎくりと固まる。
ここは、甲斐ではない。越後だ。しかも甲斐寄りではなく、出羽寄り。
「あーっと、大丈夫です。」
今から甲斐に帰るなんて言えば彼は目をむいて驚くに違いない。
だって、日暮れまでもうそう時間が無いのだから。
「Ha?」
「あの、迎えも来るし、うん。」
そそくさと荷物を背負って、は頭を下げた。
「いろいろありがとうございました。じゃ!」
そう言って走り去ってしまったに、藤次郎は一瞬ほうけたが、すぐに立ち上がると懐から料金をテーブルにばしんと置いて飛び出す。
滅多にお目にかかれない海外からやってきたという少女。話も面白いし、何より気にかかるのだ。
家まで送り届けて今度家を訪ねようと思っていたのに、彼女は見当たらない。
「Shit・・!どうなってやがる・・」
彼女と自分が店を飛び出した差分は数秒。
その隙に、彼女は一体どこに行ってしまったのか。
「あんなトロい癖に、一体どこに・・・」
それだけじゃなく、彼女が慌てて店を出るきっかけになった袋も気になるところだ。
「・・・面白れぇ・・ぜってぇ見つけてやる」
店を飛び出した瞬間、人通りが無いのを良いことには姿現しをした。
ばし、という音と共に現れたのはリドルの部屋で、「おかえり」と声をかけられる。
「はー、びっくりしたぁ・・」
「何が?」
ばくばくと大きく振動する心臓に手を当てて、ほっと息を吐き出したに、リドルは不審そうに尋ねた。
「いや、変な人に会っちゃって・・あ、いや、違うか。正確には助けてもらったんだけど・・」
そう言いながら薬草の入った籠を下ろして、は杖を振った。
リドルの部屋は実験室みたいになっていて、棚に薬草がどんどん飛び込んでいく。
「また君は・・・」
「や、だって、不可抗力だよ!!」
と、事情を説明するも、聞き終えたリドルはいつものように助走を付けて飛び上がるとの顔に猫キックをお見舞いしてやった。
2014.02.27 執筆