幸村とは目の前に現れたクッキーやチョコレートに目を輝かせた。
「かたじけない、だんぶるどあ殿!」
「先生、ありがとー!!」
嬉しそうに2人はそれらに手をつける。其の近くで本を読んでいたリドルは呆れたように2人を見た。
「そのチョコレートは絶品じゃろう。わしのお勧めじゃ。」
クッキーを口に詰め込んでいた幸村は、それに目を輝かせると、チョコレートに手を伸ばそうとして、むせた。
しかし、すかさずダンブルドアがミルクを出して、幸村に手渡すので、クッキーを詰まらせて窒息死だなんて武士にあるまじき死に方を回避できたのは言うまでも無い。
「詰め込みすぎるからだよ。君達はまるで子どもだね。」
「リドルだって子どもじゃん!」
ぶーぶー、とブーイングをするにリドルはため息をついた。
この部屋にダンブルドアが出入りするようになって1週間程。
苦手なヤツに見つかったものだ、とリドルは心の中で悪態をついた。
Magic! #16
朝、やリドルと共に必要の部屋で朝食を取った後、森へ向かい鍛錬にいそしむ。昼食は森でピクニックをして、3時にはダンブルドアを交えてのティータイム。
其の後はまた森で鍛錬。そして夕食後はこの世界について話を聞いたり、向こうの世界について話をしたり。
これが、此処最近の幸村の日常だ。
ダンブルドアにばれたのは計算外だったが、おかげで森に自由に出入りできるようになったのだから幸村としてはとてもあり難い。
おまけに帰る方法についても一緒に考えてくれている。
「幸村さん、今日はお出かけの日ですよー!」
午前中、鍛錬をしていた幸村は其の声に動きを止めた。
「ホグズミードに行ってもいいって!早く行こう!」
ぐいぐいと引っ張る手に、幸村はかっと顔を赤くしたが、彼女がこのように振舞うのはいつものことなので、何とか自分を落ち着かせる。
「其の前に、幸村の服をどうにかしないと。」
の肩にはリドルがちょこんと乗っている。今日は3人でお出かけだ。
「あ、そっか。」
は幸村の手を引いていた手を離すと、杖をローブから取り出した。
そして、一振りすると、幸村の服が瞬く間に変化する。
白いシャツと黒いズボンに赤いローブ。
やはり彼には赤が似合う。
「さ、行こう!」
そうしてまた、は幸村の手を引いて歩き出した。
「そういえば、猫殿はいつもだんぶるどあ殿がいる時には、いないでござるな。」
ホグズミードまでの道、幸村はいつも疑問に思っていたことをの肩に乗っているリドルに尋ねた。
「彼にばれると色々と面倒だからね。」
「面倒、でござるか。」
良く分からない、という表情をする幸村に、分かるように説明するのが面倒くさいリドルはふい、と顔を背けた。
「この猫のリドルを作った魔法は結構危ない魔法だから、ばれたら怒られるから、面倒って言ってるんだよ。うすうす先生は気付いているとは思うんだけどね。」
「然様で・・・。わかり申した。この幸村、猫殿については他言せぬと誓いましょうぞ!」
意気込んで言う幸村に、ちらりとリドルは視線を向けただけだ。
「あ、そろそろホグズミードに着くよ。あそこ。」
が指差す先には、森の中に見える小さな村。人でにぎわっているのが分かる。
「ハニーディークスにはいろんなお菓子があるから、そこにまず行こうか。」
「甘味でござるか!」
「1人3つまでだからね。」
目を輝かせるお子様2人に冷たい言葉が振ってきて、二人はしゅんと項垂れた。
がしかし、村に着いてからの2人は物凄いはしゃぎようだった。
見るものが全て物珍しい幸村は勿論、長い間戦国時代なんてホグズミードとは無縁の場所に居たも一緒になってはしゃぐものだから、リドルにとってはたまったものではない。
「殿、これは?」
ゾンコの店では悪戯道具に興味を示し、勿論英語で説明が書いてあるのを読めるはずもなく、隣でが解説して回る。
「・・・それ、”僕”にやるわけじゃないよね?」
身体が虹色光らせる悪戯道具を手にとって、買おうか迷っているの耳元で小さく尋ねると、彼女は分かりやすく動揺した。
「ま、ままま、まさか!ちょっと見てただけだよ。」
「殿!これは如何でござろうか!きっとりどる殿も喜んで・・!」
わわわ、と慌てたは幸村の口を塞ぐ。
「ふぐ?」
「も、もう、幸村さんたら、何を言い出すのやら・・・。」
恒例のリドルを驚かせよう大作戦!と銘打って2人で悪戯道具を物色していたのだが、やはり黒猫リドルを連れていては無理だったか、とは項垂れた。
「だんぶるどあ殿!丁度良いところに!」
ホグズミードから戻り、必要の部屋に向かっていると、ダンブルドアの姿を見つけた幸村は走り出した。
それに気付いたダンブルドアはくるりと振り返る。
「日ごろの礼でござる!」
差し出したのはハニーデュークスで購入したお菓子の詰め合わせ。一瞬驚いた顔をしたダンブルドアだったがすぐに笑顔になる。
「ほっほっほ、これはまた、嬉しい土産じゃな。」
リドルは先ほどまでの足元にいたのに、いつのまにか居なくなっている。彼の危険察知能力は大したものだ。
「仕事もひと段落したことじゃし、ティータイムとするかの。一緒にどうじゃ?」
「わーい!行きまーす!幸村さんも、いこ?」
その願っても無い申し出に幸村は大きく頷いた。
ティータイムに出てくるホットチョコレートは彼の大好物となり、としては体重が気になるものの、一緒に飲んでしまう。というか、幸村が何杯も飲むため、ついつい飲みすぎてしまう。
「今日はミルクティーにしよう・・。これ以上は駄目。これ以上は駄目。」
自分に言い聞かせながら、ダンブルドアの部屋へと向かう。
「今日は和菓子を仕入れてきたんじゃ。お主らには懐かしい味じゃろうて。」
それに2人は耳をぴくぴくと動かした。
「いちご大福と饅頭。夕食前じゃから1つずつじゃな。」
「先生ー!素敵ー!!」
「だんぶるどあ殿!そのお心遣い、痛み入るでござるー!!!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながらダンブルドアの部屋に入っていく2人の背中を見つめながら、リドルはこっそりため息をついた。
が餌付けされやすいのは知っていたが、まさか、幸村も同類だとは。
よくもまぁアレで武将が務まるものだ。
(僕は”僕”と少し話をしてくるかな。)
2人は1時間は出てこないだろう。さっさと帰り方を調べて幸村を追い返さねば。
リドルは踵を返すと、走り出した。
「あ、ダンブルドア先生。幸村さんを戻す魔法、どうにかなりそうですか?」
もぐもぐといちご大福を咀嚼してごっくんと飲み込んだところで、は彼に聞きたかった話を切り出した。
それには幸村も饅頭を口に詰め込んだままダンブルドアを見た。
ここに来て1週間と少し。彼は愚痴など一つ零さずにいるが、帰りたくて仕方ないのは知っている。
「ううむ・・・それなんじゃが、向こうにが作ったポートキーがあるという話をリドルから聞いて、それを鍵に移動させる魔法を今作っているところじゃ。理論上は、問題なく戻れるはずなんじゃが肝心の魔法がまだ出来ておらんのだ。」
残念そうに眉を下げるダンブルドアに、と幸村も眉尻を下げた。
「私、向こうでお世話になった人達に何も言わずに戻ってきちゃったから、私も、一度戻りたいんですよね・・・。」
ぽつり、と零したにダンブルドアはやさしく微笑んだ。
「一度魔法が完成すれば、行き来は可能じゃ。いづれ、道は閉じねばならぬがの。」
そうなったら、幸村とも会えないのか、としみじみ思いながら饅頭を口に放り込んだ。
「殿、」
感慨に浸りながらもぐもぐと饅頭を食べていると隣の幸村が自分を見下ろしていたので、ごきゅ、という音と共に口の中のものを飲み込んだ。喉に引っかかる感じと、口の中に残るあんこの甘みが何ともいえない。
「明日、遠乗りに行かぬか?」
「遠乗り・・って馬なんて・・・・あ!」
馬なんていないよ、と言おうとしては手を叩いた。
「馬の代わりに箒に乗ろう!きっと楽しいよ!」
「ふむ。良い案じゃの。」
一緒になって名案だというダンブルドアに、幸村は首を傾げた。
箒、と言えば、幸村の記憶が正しければ掃除の道具だ。
「箒に乗る、とは・・・」
「明日のお楽しみだよ!」
にっこりと笑うは鼻歌を歌いながら次の饅頭に手を伸ばそうとしたが、ダンブルドアの杖の一振りでそれらは消えてしまった。
だけではなく幸村からも残念そうな声があがる。
「あとちょっとで夕食じゃからの。続きはまた明日じゃ。」
ぱちりとウィンクしながら言われた言葉に、2人は今更ながらもう直ぐ夕食だということを思い出した。
ホグズミード
2013.6.4