ポートキーが出来たお陰で、は何不自由なくログハウスと行き来をすることが出来るようになった。
村にある家とログハウスを繋ぐ魔法は解いている為、もう使うことの出来ない、物置部屋の奥にある扉を少し悲しそうに眺める。
「皆、元気かなぁ・・・。」
はため息をついて、ログハウスを出た。
薬草園は数週間放置していただけだった為、そこまで荒れている事は無い。
「えぇっと、今日は・・・」
必要なものをリストアップした紙を手に、は籠を背負った。
その時だ。結界の一部がばちばち、と音を立てたのは。
音と共に緑の光が走る。
は驚いてそれを凝視した。
恐らく、リドルが居れば、さっさと逃げろと言っただろうが、生憎と今日は1人。
やがて、結界の一部にぱっくりと人が通れる位の穴が開き、そこからは見知った顔が見えた。
「あれ、佐助さん?」
懐かしい人との再会に、は逃げることも忘れて、にっこりと笑いかけた。
確実に、リドルが居れば、馬鹿と罵られていただろう。
Magic! #13
お久しぶりです。こんにちは。と暢気に挨拶をする少女はすぐに、首を傾げた。
此処には人が入ってこれない筈なのに、と。
しかし、彼女はすぐに意識を失う。
首に手刀を入れて気絶させた張本人の佐助は崩れ落ちる身体を支えて、あたりを見回した。
見慣れない立派な建物に、薬草の数々。
「って、あれ、穴が塞がりかけてる」
違和感を感じて此処に辿りついた佐助は、前に進もうとすると弾く見えない壁に穴を開けてみた。
すると、どうだろう。そこには姿を消したの姿と、不思議な空間が広がっていたのだ。
もう少し此処を調べたいのは山々だが、先ずは彼女を武田の陣営に運び込むのが先だ、と佐助は塞ぎかけている穴へ急いだ。
「ほんと、何者なんだろうね。君は。」
あんな術は見たことが無い。
異常なほど効く薬に、不可解な結界、そして不思議な家。
佐助はを”危険分子”と判断した。
前触れも無く気を失ったを連れ帰ってきた佐助に、幸村は勿論良い顔をしなかった。
本来であれば縛りつけた上で起きるのを待つ所を、布団に寝かせ、監視をつけるだけという温い対応になったのも彼のせいだ。
「ったく、旦那は甘いんだから・・・」
「そうは言ってもだな、彼女は民を助け続けた薬師。しかもまだ幼い女子。そのような無体を出来るわけがなかろう!」
幸村は心配そうに障子を少しだけ開けた。
「旦那ったら、襖の隙間から覗き見するだなんて、破廉恥」
「な、なななな何を言う!そ、某は殿のことが心配でだな!!」
予想通りの大声で返ってきて、佐助は耳を塞いだ。
「しー!旦那、そんな大声出すと起きちゃうって。」
「お、おお。そうであった。」
気を取り直して、小声で佐助に抗議しようとした時、微かな衣擦れの音がした。
「ん・・・あれ?」
聞こえてくるのは、どう考えてもの声だ。
だから言ったのにー、と呟く佐助に、反論した気持ちはあったが、幸村は障子を大きく開く。
「殿。この度は佐助が勝手な真似をしてしまい、申し訳ござらん!」
「・・・源次郎、さん?何で此処に・・・。」
状況が把握できていないはこてりと首を傾げた。
「おはよ、ちゃん。調子はどう?」
「佐助さん!あれ、私、どうしたんだろう。薬草園で佐助さんに会ったよーな・・・。」
そこまで覚えていて、彼女は全く佐助を警戒する様子が無い。
流石にここまで疑われない、というのも気が引ける。
「状況を説明すると、ちゃんを探してた俺は、あの変な所を見つけて、結界?みたいなのを破って中に入るとちゃんがいたものだから、連れて帰ってきちゃったんだよね。で、彼は俺の主人。」
「う、うむ。某は真田源次郎幸村。お主のもとへ訪れた時は名を明かさず失礼した。」
はぽかん、と2人を見上げた。
真田幸村。日本人ならば聞いた事がある武将の名前だ。
それ以前に佐助が自分を探していたというのはどういうことだろうか。
「あ、もしかしてお薬何か渡し忘れてましたか?」
その言葉に佐助は脱力した。
「・・・あー、うん。まぁ、薬関連っちゃぁ、そうなんだけど。」
「すみません。慌しくあそこの村を出たものですから・・・。」
しょんぼりとして俯くに、佐助は益々居たたまれない。
「良いのだ。して、殿はいまどちらに?」
「今は半兵衛さんのところに居るんです。」
その言葉に佐助は分からない程度に、そして、幸村は分かりやすく反応した。
「へぇ・・・そこで何やってんの?」
「前と変わりませんよ。注文を受けて薬を届ける。それだけなんです。だから凄く申し訳なくて・・・。」
「・・・もし、うちの屋敷の一角で薬屋をやるかって提案したらどうする?」
まさか、そんな申し出をされるとは思わなかったのか、は目を見開いた。
だが、すぐに困ったような表情になる。
「相方に相談しないと、分からないんですよね。今回の引越しもその人があのままあそこに居ると、面倒なのに目を付けられるからって急遽決まったんですよ。」
(相方、か・・・。そっちの方が厄介そうだな。)
しかし、相方、というような人物は彼女の家にいただろうか。
半兵衛については名前を出しているので、違うだろう。
他にあの家にいたのと言えば、あの可笑しな猫しかいない。
「・・・・まさか、あの猫?」
頭が良いとは言っても、まさか動物が彼女の動向について決定権を持つとは思えない。
まさか無いだろう、という気持ちで軽く尋ねると、彼女は面白いくらい狼狽した。
「え!?・・・や、やだな・・・まさか、そんな筈無いじゃないですか!」
「・・・・・」
佐助は頭を抱えた。まさかまさか、あの猫が人の言葉でも喋るとでも言うのだろうか。
一方、結界が破られた事をいち早く察知したリドルは半兵衛を連れてログハウスに来ていた。
彼女の気配は何処にも無く、薬草園には、放置されている籠と、杖。
「・・・・」
それを見下ろして、リドルは舌打ちをした。
この結界を張ったのはリドルだ。余り時間が無かった為、そこまでの強度は無かったが、そうやすやすとマグルに破られるようなものではない。
「彼女が何処に居るのか魔法で調べられないのかい?」
「僕は今簡単な魔法しか使えない。無理だね。」
だが、予想はつく。
自分達を探して居そうな人物で、ここの結界を破れそうな人物はそうそういない。
「猿飛佐助が連れ去った可能性が高い。彼の居場所は分かる?」
「・・・・調べてみよう。」
リドルは杖を銜えると、半兵衛の肩に飛び乗った。
「簡単に破られる結界じゃない。異変を感じた時にさっさと逃げれば良かったのに、全く、世話が焼ける。」
「相手が猿飛であれば、逆に笑顔で迎え入れてそうだ。」
半兵衛が付け加えた言葉に、リドルは苦い顔をした。
彼女はいくら言っても警戒心を覚えるということをしないのだ。
「戻ったら説教だね。」
「手伝おう。」
それに半兵衛も賛同し、2人はそこから姿を消した。
誘拐
2013.5.22 執筆