早速、半兵衛の屋敷で薬屋を開業したものの、材料の調達がまた面倒なことになってしまった。
あの、ログハウスのある薬草園に頻繁に行ければ良いのだが、生憎とは姿現しが得意ではない。


「・・・ポートキーでも作るかな。」


それをリドルにぐちぐち文句を言っていたところ、リドルがそう提案してきたので、は目を輝かせた。


「ポートキーって作れるんだね。知らなかった。」
「作れなかったら、そもそも存在しないだろ。」


呆れたように言うと、は「そっか」と呟いた。


「ってことだから、さっさと作りなよ。作り方は・・・」
「えー、私作れないよ。昔作り方見たけどさっぱり分からなかったもん。」


リドルは舌打ちをした。


「私の魔力半分貸してあげるから、リドル、お願い!」


自分で作れ、と反論しようかと思ったが、考えてみれば、リドルは実際にの魔力を貰って実体化したことは無い。
する必要が無かったし、理論上うまくいくというのは分かっていたが、有事の為に、ここで一回実体化しておくのも良いかもしれない。


「その代わり、一日中、床を這いずり回ることになるけど良いんだね?」
「意識があるならリドルがポートキー作ってるところ見れるし、本も読めるし良いよ。」


じゃぁ遠慮なく、とから魔力を吸い取った。









Magic! #12












半兵衛は部屋に入るなり、見知らぬ男を見つけ、咄嗟に刀に手をやった。
しかし、それを抜く前にその男が口を開く。


「あぁ、半兵衛戻ってきたんだね。今ポートキーを作ってる所だから邪魔はしないでくれよ。」
「半兵衛さん、おかえりー。」


何やら鉱物や粉を鍋に放り込んでいる男とその背中にしがみつくように鍋を覗き込んでいるの姿。
いつもいるはずの猫の姿が見当たらない代わりに、その猫と同じ声を発する男に、半兵衛は合点がいった。


「君、リドルかい?」
「そうだよ。がポートキーを作りたがらなくてね。代わりに作ってるんだ。」


リドルの背中に寄りかかっているは、よくよく見ると顔色が悪く、覇気も無い。
出会ったばかりのころ、リドルが人型を取るにはの魔力を著しく消費するという2人の会話を聞いたが、それは本当だったようだ。


「しかし、本当に人間の姿を取れるとは・・・。」
「その実験も兼ねてるんだよ。本当に実体化出来るか、そしてどの程度の体力を消耗するか確認しておきたくてね。」


そう説明しながらリドルは杖を取る。


「お陰で私はぐったりだよー。まぁ、リドルが作ってる所を見てるのは勉強になるから良いんだけどね。」


へらりと笑いながらは言うと、鍋の中を覗き込む。


「乳白色になったら、右に3回、左に1回回して、呪文を唱えるんだ。」


リドルが呪文を唱えると、鍋の中が金色に輝いた。


「わー、凄い!」


ぱちぱちと手を叩くを他所に、リドルは杖を振って、鍋の中のものを2つ浮かせる。
出来立てのポートキーは2つ。それらからは湯気が立っていて、熱そうだ。


「魔法で熱を冷ましたら出来上がりだ。こっちがログハウスに飛ぶ用、こっちがこの部屋に飛ぶ用。」


二つの、拳よりも少し小さい石は金色と銀色をしている。
半兵衛はその二つの石ころを見て、首を傾げた。


「ポートキー、と言っていたね。何だい、それ。」
「姿現しをしなくても移動できる道具さ。は姿現しは疲れるし苦手だから嫌だって文句を言うんだ。」
「文句って!姿現しって結構大変な魔法なんだよ?リドルはチートで天才だから簡単に出来たかもしんないけど、私は凡人だもん!」


この天才何様リドル様めー!と訳の分からない悪態をつくのことは放っておいて、半兵衛は何故そのポートキーなるものが必要なのかがわからず、更に首を捻った。


「薬草園が遠いからね。毎回姿現ししてちゃ、きついってことだよ。薬の注文はひっきりなしに来るし。」


丁寧に説明するリドルは注文された魔法薬のリストを捲った。
そして、今まで作ったことのあるものや、既存のもので代替できそうなものにはマルを付け、今まで作ったことが無いものにはバツを付けていく。


「せっかくだし、今のうちに新しい魔法薬は作っておくよ。ほら、。手伝うんだ。」


ぐい、との手を引いて立たせると、彼女はぶーぶー言いながらも立ち上がり、バツのついている魔法薬をチェックした。


「あ、これ面白そうだね。猫耳を生やす薬だって。」
「それはポリジュースの応用で出来るだろ?つまらない。」


どうせなら、こんなのは無理だというものを作りたいらしく、彼は中々頷かない。


「君達、薬を作るのは良いが、部屋を壊さない程度に頼むよ。」


いや、実際壊してくれても多少であれば構わないし、それくらいの良心はリドルにはあるとは信じているが、念のためだ。


「大丈夫だよ。壊してもすぐに元に戻す。ここらへんは人避けの魔法もかけてあるしね。」
「・・・道理で最近女中を呼んでも来ない筈だ。」


原因はそれだったか、と半兵衛は小さくため息を付いた。


「必要なものが在れば僕達に言えば良い。呼び寄せ呪文ですぐに出してあげるよ。」


にやりと笑うリドルだが、いつもは猫の顔で笑うものだから可愛いのに今の整った顔で笑われると少し寒気がするのは何故だろうか。


「あぁ、そういえば半兵衛。一応この免疫力を高める薬は定期的に飲むと良い。」


そう言って差し出された湯のみにはたっぷりとした蛍光色の魔法薬。


「今回は僕が作ったから、少しはマシだと思うよ。」


しかし、一緒に水も手渡されるということは、相変わらず不味いものは不味いのだろう。
不意打ちで不味い薬を渡された半兵衛は少し迷った後、意を決して飲み込んだ。
久しぶりに飲むその薬に、懐かしい・・・とは余り思いたくは無いが、懐かしくも酷く不味い味が口に広がって水で押し流した。


「マシだっただろう?」
「・・・だから、君達は一度作ったものを味見してみると良い。」


吐き気をやり過ごした後言うと、リドルは明後日の方向を向いた。


「だから、私がもうちょっと飲みやすい用に改良してあげるって言ってるのにー。」
「君が味見をするんなら構わないよ。」


もリドルを習って明後日の方向を向いた。




















佐助はもぬけの空になっているの家に舌打ちをした。
がらんとした部屋には机とその上に乗っている注文表と筆のみ。


「一足遅かったか・・・。」


彼女が何処に行ったか。一番濃厚なのは半兵衛の所だろう。
恐れた事態になった訳だ。


「あやめ、すぐに竹中半兵衛の屋敷に潜って彼女がいるか確認してくれ。」
「御意。」


まずは、彼女が本当に半兵衛の元にいるかを確認する。
そして折を見て殺すか連れ去る。


「・・・出来ればこっちに来てくんないかなぁー。」


彼女の技術は相当のものだ。
武田のものになれば、相当な力になるだろう。

佐助はぺらりと紙の束を捲った。

彼女はここ一帯じゃ有名な薬師。遠くから訪れた者の住所もちらほら見受けられる。


「薬の受注はしてるってことだから、一つ、書いてみるかな。」


佐助は筆を取ってさらさらと書き始めた。
流石に自分の名前をそのまま書く訳にはいかないので、女中の名前を借りる。


「さぁーて、お仕事お仕事。」


書き終えた佐助は筆を置くと、その場から姿を消した。








ポートキー



2013.5.16 執筆