腰痛の薬になりそうなものは生憎とすぐに出来そうに無かった。
症状を詳しく聞いて、作るしかない。
「腰痛ということは、それ以外に内臓が悪くて、そこから来てるかもしれません。」
痛み止めであればすぐ渡せる。
「その方、他に悪い所は無いでしょうか?」
考えて、唸る。
腰が痛いなんて叔父は存在しないのだ。
「いや・・・確か・・・あぁ、そうだ。重いものを持って立ち上がろうとした時に痛めたと言っておった!」
「あぁ、成るほど。じゃぁ痛み止めを出しておけば自然に一週間もあれば治りますね。」
は痛み止めを取ってくる為に席を立った。
その後姿を見ながら、本当に幼いと口の中で呟く。
佐助の報告と合わせて、ここの村人から少し話しを聞いたが随分と慕われているようだった。
先生、先生、と小さな子どもまでも彼女の事を嬉しそうに話す。
(あの年で、腕は確かとは・・・)
この世は広い。
関心すると同時に、彼女が豊臣に力を貸すのであれば大きな脅威になるだろう。
佐助はそれを危惧しており、同様に幸村もそれを懸念する。
「お待たせしました。」
彼女の手には1つの小さなビンがあった。
Magic! #10
たぷん、と何とも形容しがたい液体。
毒薬かと見紛うそれに、幸村はじっくりとそれを眺めた。中々お目にかかれない小さく、そして薄いビン。
「それを、キャップ・・・じゃなかった、その蓋の半分飲ませてください。一日1回です。」
そう言いながらは一応用法を紙に書き落とす。
「私の薬は不味いと評判なので、お水をたっぷり用意して飲むのをお勧めします。」
幸村は礼を言いながらそれを受け取って、懐にしまうと、財布を出す。
額は大したことが無い。
「せんせー!」
御代を受け取ったところで、子どもが二人飛び込んできた。
「大変なの!将太が足折っちゃって!!」
は驚いて立ち上がる。
二人の子どもは泣きそうな顔をしながらのローブを引っ張る。
「早く!」
「あ、うん。」
ちらり、と幸村を見ると、彼も立ち上がった。
「某も供に行こう。此処に運ぶのでござろう?」
うん、そうだけど、とはあいまいに頷いた。
足を骨折したということは、魔法で少し治しておくのが手っ取り早いのだ。
しかし、彼が居ると、それができない。
(まぁ、仕方ないか・・・そもそもそんなことしたらリドルに怒られるし)
外に出ると、遠くから子どもの泣く声がする。
は走り出した。
この村の子供たちが骨折するのは、そんなに少なくない。
しかし、足が折れて動けない状態であるのであれば、相当心細いであろうし、何よりも痛みが激しいに違いない。
「殿は骨折も治せるのか?」
「治療全般は、一応、できます。」
走っているのに、幸村は全く息を切らしていない。
「あ!先生だ!」
「将太、先生が来たよ!」
何人か子どもが集まっている。
は駆け寄ると、彼の状態を見た。
(反対に曲がっちゃってる・・・筋組織も元通りにしてあげないと)
そう思っていると、幸村が将太を抱き上げた。
「せんせぇー・・・」
涙で顔をぐちゃぐちゃにした将太を頭をはくしゃりと撫でた。
出血が多いからか、顔は青白い。
「大丈夫。すぐ治すから。」
そうして走り出そうとする幸村をは慌てて止めた。
「だめ!あんまり揺らすと傷に響くから、さっきみたいに走っちゃ駄目。」
そう言いながらは姿現しが出来れば楽なのに、と悪態をつきながら幸村と供に家へと戻った。
リドルは姿は見せないが話は聞いていたのだろう。
骨折の時に使う添え木と包帯、そして麻酔薬、消毒液がテーブルの上に置いてあった。
「此処で良いか?」
「あ、はい」
簡易ベッドに載せると、は麻酔薬を布にしみこませる。
「将太くん、楽になるから、目を閉じて、ゆっくり息をしてね。」
そして布を鼻と口を覆うように当てる。
二呼吸したくらいで、くたりと力なく気を失った将太を見て、は魔法薬を水で薄めながら幸村を見た。
「ごめんなさい、源次郎さん。ここからは・・・」
「・・!あぁ、すまぬ。」
意図を理解して、幸村は慌てて外へ出た。
そこには一緒に遊んでいたであろう子どもたちが集まっていて、幸村が出てくると駆け寄った。
「ね、ねぇ、お兄ちゃん、将太は?」
「殿が治療中だ。すぐに治すと言っておった。」
ほっと、子どもたちは胸をなでおろした。
「じゃぁ、大丈夫だな。俺が崖から落ちたときも先生、すぐ治してくれたし。」
少年はそう言って、少しだけ笑う。
「・・・・殿は、信頼されておるな・・・。」
改めて分かる、この子どもたちの表情で。
幸村は振り返って扉を見つめた。
本当に、不思議な少女だ、と。
「消毒は終わった?」
するりと奥の扉から入ってきたリドルはベッドの脇に飛び乗った。
覗き込むように傷の具合を確認する。
「骨が出てるね・・・。全く、どういう遊びをしてたらこうなるんだか・・・。」
は相槌を打ち、ううん、と唸った。
「筋肉と筋があるから、あんまり無理やり戻したくないんだけど・・・。」
「筋組織を再生させるヤツなら持ってきたから、まずは骨を戻すよ。」
は頷いて、杖を出した。
こういうのは杖で戻す方が良い。
「増血剤もいるな・・・。」
「どうやって飲ませるの?気を失ってる。」
リドルは呆れたようにを見た。
「、魔法使いでしょ。」
「あ、あぁ、そっか。」
そうして魔法で薬を飲ませると、は息を吐き出した。
「このままガーゼを当てるとくっついちゃうから、何か良い塗り薬あったかな。」
「・・・・・魔法薬で皮膚を先にある程度再生させる。ガーゼはくっつくと思うけど、取り替える時に薬をかけながら取れば問題ないよ。」
本当に、鬼才とは彼のことを言うのだろう。
感心しながらは呼び寄せ呪文で薬を呼び出すと、それを塗り、ガーゼをあてた。
後は、添え木と包帯だ。
一通り処置を終えたは額の汗をぬぐった。
将太の規則正しい寝息に、問題が無いのを確認して、ようやく椅子に腰掛けた。
「、外に子供たちがいるから、声をかけてあげないと。」
はっとしては立ち上がる。
そういえばそうだった。
慌ててドアに手をかけると、そこには子どもたちと幸村がいた。
「あれ、源次郎さんまで・・・」
「少し心配だったものでな。」
幸村を押しのけて子どもたちはに駆け寄った。
「将太くんなら大丈夫。今は眠ってるから、静かにするなら、様子を見てきて良いよ。」
そう言うと、子どもたちは口々にありがとうと言いながら中に入っていった。
治療
2013.4.19 執筆